No.17017 観光施設で発生したさとうきびジュースを原因とするEHEC O157の広域散発食中毒

[ 詳細報告 ] 分野名:細菌性食中毒
登録日:2017/04/04
最終更新日:2018/03/22
衛研名:沖縄県衛生環境研究所
発生地域:大阪府,埼玉県など17自治体(18グループ)
事例発生日:2016/08/01(患者発症日7月25日)
事例終息日:2016/08/20頃
発生規模:不明
患者被害報告数:35名
死亡者数:0名
原因物質:腸管出血性大腸菌0157:H7 (VT2, MLVA complex 16c027)
キーワード:腸管出血性大腸菌O157,広域散発食中毒,観光施設,サトウキビジュース

背景:
沖縄県の人口は約144万人であるが,本県を訪れる観光客は年々増加を続け,2016年は,年間861万人に達している.旅行期間中に観光客が食中毒に罹患する事もあり,特に修学旅行で食中毒が発生すると大規模化することもある.旅行期間中,様々な場所で飲食するため,調査も広範囲に及ぶことが多い.また,カンピロバクター,腸管出血性大腸菌等,潜伏期間が比較的長い病原体が原因であった場合は,患者がすでに居住地に帰宅していることも多く,その際は,患者が居住する自治体の保健所等が,患者の症状や喫食状況,施設利用等調査を行い,その調査票を基に,宿泊施設や飲食店等などへの聞き取り,検食,拭き取り,従業員の検便などの調査を行う.さらに,腸管出血性大腸菌(EHEC)感染症は,感染症法の3類感染症であるため,食品部門と感染症部門が連携して調査を行う.
EHEC感染症はVero毒素を保有する大腸菌の感染によって起こる急性胃腸炎または全身性疾病で,経口感染後,2~7日の潜伏期を経て腹痛,水様性下痢および血便などを発症する.毒素の作用により血小板減少,溶血性貧血,急性腎不全を主徴とする溶血性尿毒症症候群(HUS)を引き起こし,小児や高齢者では脳症などを併発して死に至ることがある.またEHECは数十個の菌数でも感染が成立し,人から人への経路,または人から 食材・食品への経路で感染が拡大しやすい最も注意すべき食中毒である.

概要:
2016年7月20日~8月9日にかけて沖縄を訪れた観光客35名がO157に感染し,胃腸炎を発症,18名が入院,4名がHUSを発症した.原因食品は観光施設で販売された「さとうきびジュース」(以下ジュース)であったことに加え,患者らは17自治体(18グループ)にまたがり調査が困難であった.食品や従業員などから菌は証明できなかったものの,それぞれの患者が居住する自治体調査では、副食について記載されていない場合も多く、初動調査に支障をきたしたが、「さとうきびジュースが感染源である」仮説を立て行った症例対象研究とIS-printing system™ (IS-printing) 等の遺伝子解析結果、及び関係保健所等の連携により原因施設および原因食品を特定できたのでその概要について報告する.
【探知】8月1日~4日にかけて,大阪府豊中市,大阪市,埼玉県,広島県,愛知県の5自治体から,沖縄県を旅行後,O157, VT2を発症している旨の報告が沖縄県生活衛生課と那覇市保健所にあった.各自治体から得た調査票を基に,沖縄本島内の4保健所が調査を行ったが,5事例に共通した食事や飲食店,或いは宿泊施設の利用は無く,利用した宿泊施設,飲食店に同様の苦情もなかった.しかし,発生時期が集中しており集団発生が疑われると判断できたが,患者らはすべて県外居住者であったため,追加の聞き取りなどが十分にできなかった.しかしながら,同一の感染源に由来する可能性も示唆されたため,関連する自治体へ,IS-printingによるO157患者分離株の遺伝子解析結果の情報提供を依頼した.
8月15日,那覇市立病院から那覇市保健所へHUS疑い例(長野県からの旅行者)の報告があった.その後,8月17日から23日にかけて大阪市,京都市,静岡県,相模原市等,計13自治体,患者数24名の調査依頼が沖縄県生活衛生課及び那覇市保健所へ相次いだ.

原因究明:
各自治体から提出された調査票を那覇市保健所及び生活衛生課が集計したところ,8月23日時点で患者及びその同行者50名が食事に利用した施設数は,延べ88施設,109品あった.その集計結果より,7グループが南城市の「A観光施設」を共通して訪れており,さらに,6グループはBフルーツバーにおいて,サトウキビジュース(以下,ジュース)等を飲んでいることが判明した.さらに,埼玉県衛生研究所及び大阪府公衆衛生研究所よりIS-printingの結果について情報提供があり,さいたま市,豊中市および大阪市の事例は同一遺伝子型であることが判明した.
8月23日,沖縄県庁にて,本事例に関する合同調査会議が開催され,保健医療統括監以下,生活衛生課,健康長寿課,南部保健所,衛生環境研究所及び那覇市保健所参加の下,次の調査方針及び調査の役割が決定された.つまり,生活衛生課は,関係する13の自治体に対し,A観光施設の訪問,Bフルーツバーの利用及びジュース喫食の有無に関する再調査の依頼,患者らの記憶をたどるために必要なA観光施設のパンフレットやBフルーツバーの画像の提供.健康長寿課は,全国の都道府県・市に対し,沖縄で感染したことが疑われるEHEC O157に関する調査票の提出とIS情報提供の可否に関する調査の実施.南部保健所は,Bフルーツバーの従業員検便,原材料,サトウキビジュース,調理場及び圧搾機の拭き取り検査を実施するとともに,洗浄消毒等の指示.衛生環境研究所では保健所が採取した検便,食品等の検査を実施するとともに,各自治体の担当者からIS-printingの結果を入手し解析した.那覇市保健所は,患者情報を取り纏めるとともに,「さとうきびジュースが原因食品である可能性」を仮説とし,症例対象研究による疫学的解析を行った.症例定義は,7月20日から8月20日までとし,沖縄県内在住者または県外在住で沖縄旅行歴のある者で,次を満すものとした.①胃腸炎を発症しO157 VT2陽性の者(確定例).②確定例の接触者で胃腸炎症状があるがO157陰性の者(疑い例),③無症状であるがO157 VT2の病原体検出または,抗体陽性の者(保菌者).

診断:
【調査結果】
1. 事例の規模:17自治体(18グループ),患者数35名(確定例25名,疑い例4名,保菌者6名)ですべて県外からの旅行者であった.
2.症状等:下痢73%,血便81%,腹痛69%で15%(4名)がHUSを発症した.
3.A観光施設訪問歴:18グループの患者35名すべて(100%)がA観光施設を共通して訪れていた.
4.症例対照研究:患者35名のうち二次感染の2名及びジュース喫食歴不明の1名を除く32名を症例とし,喫食歴不明の1名を除く38名を対照として解析した.症例32名すべてがBフルーツバーで販売されたジュースの喫食歴が有り,対照38例のうちジュースを喫食していたのは24例で,ジュースの摂取はオッズ比が24.69(95%信頼性区間4.93-∞)となり,ジュースの喫食がO157感染と優位な関連性があることが示され,A観光施設内のBフルーツバーで販売されたジュースが共通暴露源であると推定された.
5.遺伝子解析:13事例より19名の結果が得られたが,IS-printingの結果はエクストラバンドも含めすべて一致した.また,国立感染症研究所が行ったMLVA法による解析結果は,同一のComplex(16c027)で一致した.
6.施設等の微生物検査結果:8月23日にO157の検査を実施した.従業員13名の検便,参考品サトウキビのふき取り(複数個所),ジュース,圧搾機のふき取り,施設のふき取り他,検査結果はすべて陰性であった.

地研の対応:
合同会議への参加,従業員の検便,食品,拭き取り検査などの実施,菌株分与あるいはIS-printingの結果提供依頼,IS-printingの結果取り纏めと過去に沖縄県で分離されたO157株との比較(デンドログラム作成)など.

行政の対応:
前述のとおり保健医療部保健医療統括監以下の合同会議の開催と,関連部所の連携により調査を進めた.原因食品や従業員,施設のふき取りから菌は検出されなかったが,探知から約1月後の9月2日,南部保健所は,疫学的調査結果に加え原因菌の遺伝子型が同一であったことから,本事例の原因は,観光施設内で販売されたジュース原因とする広域散発食中毒と断定し,同施設に対し4日間の営業停止処分を行った.また,施設に対しては,再発防止のため生絞りジュース製造場所に手洗いを設置し圧搾前に正しい手洗いを行うこと,使い捨て手袋使用の徹底,原材料および製造器具類の洗浄の徹底が指導された.

地研間の連携:
13の地方衛生研究所から19名分のIS-printingに関する結果及び画像情報を頂いた.解析した結果,エクストラバンドを含みすべてのバンドパターンが一致していた.

国及び国研等との連携:
厚生労働省は,平成28年9月2日付け生食監発0902第1号「腸管出血性大腸菌O157による食中毒患者の発生について」にて,沖縄の事案として「サトウキビジュース」に関する情報提供を行い,探知した場合は速やかな調査を行うよう促した.また,国立感染症研究所では,沖縄の事案と一致するMLVA 16c027に関する情報提供を行った.

事例の教訓・反省:
従業員の検便,原因食品及び拭き取り検査からEHEC O157は検出されなかったものの,仮説を十分検討した上での追加調査の依頼,疫学的手法(症例対象研究)に基づく検証,簡便で信頼性の高いIS-printingによる遺伝子解析の結果より,原因施設を特定出来た.
食中毒調査の場合は,朝・昼・晩の食事に加え副食などの調査を行うため調査票に欄を追加した方が良い.
IS-printingはO157以外の血清型では使用できないため,他の血清型でも解析でき迅速な解析法である,MLVA法を導入するとともに全国でも普及させる必要がある.

現在の状況:
当該フルーツバーは,営業者が変わり,現在はサトウキビジュースの販売を取りやめた.

今後の課題:
1)当初,各自治体が行った喫食状況調査に副食の記載が無いものが多く,原因食品の特定に苦慮した.
2)生絞りジュース作成時の圧搾機,食材及び手洗いの徹底等衛生管理の強化が必要.
3)店頭で販売する未殺菌ジュースの汚染実態や衛生的な調理等に関する調査が必要.

問題点:
店頭でサトウキビジュースを販売している業者は他にも有り,その多くは,観光客相手に小規模な店舗で販売されていることが多いが,その実態は把握できていない.サトウキビは,皮のまま圧搾し,表面の洗浄・消毒が不十分であることが示唆されるため,原材料から菌の混入が起こりやすい.また,手指の洗浄が不十分であったり,使い捨ての手袋を使用していないことも多い.さらに,圧搾機重量があり分解洗浄に手間がかかるため,洗浄が不十分なことも多く,サトウキビからの糖分と夏場の高い気温により,菌が容易に繁殖するため,圧搾機は毎日の作業終了後に熱湯による消毒を行う必要がある.

関連資料:

  1. サトウキビジュースが原因と推定された腸管出血性大腸菌O157広域散発食中毒事例について(疫学調査)―沖縄県 (IASR Vol. 38 p.94-95: 2017年5月号)
  2. サトウキビジュースによる腸管出血性大腸菌O157広域散発食中毒事例におけるIS-printing system解析例について―沖縄県 (IASR Vol. 38 p.95-97: 2017年5月号)
  3. 平成29年度感染症危機管理研修会,国立感染症研究所