No.15004 小学校でのジャガイモによる食中毒

[ 詳細報告 ] 分野名:自然毒等による食中毒
登録日:2016/05/13
最終更新日:2016/05/27
衛研名:奈良県保健研究センター
発生地域:奈良県磯城郡
事例発生日:2015年1月
事例終息日:
発生規模:小学校(5学年2クラス:児童49名、教員2名)51名喫食、児童31名発症、うち13名が医療機関を受診
患者被害報告数:31名
死亡者数:0名
原因物質:ソラニン類
キーワード:ジャガイモ、小学校、食中毒、ソラニン類、植物性自然毒

背景:
・ジャガイモによる食中毒事例は、厚生労働省食中毒統計資料によると2000年以降2015年11月までに27件発生し、うち24件(89%)が学校を原因施設としている。
・体重50kgの大人は、ジャガイモに含まれるソラニン類を50mg摂取すると約30分から半日で症状(おう吐、下痢、腹痛、めまい、動悸等)の出る可能性があり、子供の場合は過去の事例から少量(20mg程度)で発症するとされている。
・市販のジャガイモに含まれるソラニン類は、平均7.5 mg/100gである。

概要:
2015年1月22日(木)、小学校で栽培・収穫したジャガイモ(品種:ニシユタカ)を5年生の児童が家庭科室で調理(粉ふきいも)した。まず1組の児童(25名)と教員(1名)が8時50分から、引き続き9時40分から2組の児童(24名)と教員(1名)が調理を開始、それぞれ終了後順次喫食した。9時40分頃1組の児童(18名)がおう気、腹痛を訴え、10時30分頃2組の児童(13名)も発症した。小学校では10時40分頃、喫食を停止させ、その後予定していた3組の調理実習を中止した。発症した児童のうち1組9名及び2組4名が医療機関を受診した。主症状は、おう気24名、腹痛18名、おう吐3名、下痢3名(重複あり)で、入院患者や重症者はなかった。教員は無症であった。
調理に使用したジャガイモは2014年9月に苗植えし、12月22日に収穫、2015年1月21日(調理前日)まで校舎内階段下に保管していた。

原因究明:
ジャガイモは通常の市販品の4倍~6.4倍のソラニン類を含んでいた。さらに追加検査を行ったところ、かなり厚く皮を剥いた髄質部からもソラニン類が高濃度に検出された。このことは、小学校におけるジャガイモの栽培・保管状況が不適切であったことを示唆する。皮むきや茹でる等の調理では、高濃度に生成・蓄積したソラニン類を十分に低減し得なかったと考えられた。残食から検出したソラニン類の量は平均29.4 mg/100gであり、約70 g摂取すると発症量に達する。喫食量は不明であるが、給食前の空腹時に喫食したことも胃腸に対する刺激が増大したと推察された。

診断:
高速液体クロマトグラフ法(紫外部吸収)及び高速液体クロマトグラフ質量分析計を用い、ソラニン類(α-ソラニン及びα-チャコニン)の定量及び定性を行った。

地研の対応:
2015年1月22日16時50分に保健所食品衛生監視員によりジャガイモ(生)、5年1組及び2組の残食が搬入された。ジャガイモは17個(13 g~378 g)、5年1組残食はアルミ箔包み7個(92g~281 g)、5年2組残食はポリ袋入り1970 gあった。
ジャガイモ3個(56 g、77 g、166 g)及び各組残食のそれぞれ3カ所から採取し、それぞれソラニン類を測定したところ、ジャガイモから30.7 ~ 48.6 mg/100g、5年1組残食から21.0 ~ 37.0 mg/100g、5年2組残食から18.7 ~39.2 mg/100gを検出した。さらに、追加検査として、皮を厚く剥き皮層部と髄質部に分け検査したところ、皮層部は髄質部の2~5倍量のソラニン類を検出し、髄質部からは10 ~ 20 mg/100gを検出した。

行政の対応:
保健所は、2015年1月22日11時頃に校医から「小学校の授業で調理したジャガイモを食べ、おう気、腹痛等の食中毒様症状を呈した複数の児童を診察した」旨の連絡を受けた。食品衛生監視員が聞き取り調査を行ったところ、有症者の共通食は授業で調理したジャガイモ以外にないことが判明した。また、残食(粉ふきいも)から高濃度のソラニン類を検出したこと、有症者を診察した医師から食中毒の届出があったことから、授業で調理したジャガイモによる食中毒と断定した。さらに、原因施設の小学校に対し、ジャガイモの栽培・保管・調理における注意事項について指導した。
奈良県庁くらし創造部消費・生活安全課は、2015年1月26日報道機関に対し、小学校のジャガイモによる食中毒事件の発生について発表した。併せてジャガイモに含まれる有毒成分やジャガイモの購入・保管・喫食時及び栽培時における注意事項について、県民への情報提供・啓発の協力を要請した。

地研間の連携:
平成27年度地方衛生研究所全国協議会近畿支部自然毒部会研究発表会において事例発表し、情報の共有に努めた。

国及び国研等との連携:
上記、研究発表会にて国立医薬品食品衛生研究所、厚生労働省検疫所等との情報の共有に努めた。

事例の教訓・反省:
自然毒中毒事例の原因施設は家庭であることが多いが、すでに述べたようにジャガイモによる食中毒事例は89%が学校である。平成21年8月10日付 食安監発0810第3号 厚生労働省医薬食品局食品安全部監視安全課長が文部科学省スポーツ・青少年局学校健康教育課長あてに「ジャガイモの喫食によるソラニン類食中毒について」の通知を発出したにもかかわらず、小学校の授業におけるジャガイモによる食中毒は、その後も発生し続けている。深刻な健康被害となることはまれだが、発生件数が減少しない現実を鑑み、以下のことを提案したい。小学校で次年度の教育計画が決定される時期に、地研(食品衛生部局を含む)から教育委員会を通じてリーフレット配布など教職員に対して啓発活動を行う。その内容は、ジャガイモを教材とする場合、ジャガイモは身近で有用な植物・食材であるとともに有毒成分を含んでいること、品種改良の歴史や栽培・保管時の農家の工夫、ジャガイモに限らず自然毒の危険性について理解を深めること等も教育に含めることである。さらに、子どもたちに健康被害を与えない他の食用植物、例えば地域の特性を活かした野菜等への転換も一考であり、教職員の意識改善を促したいと考えている。

現在の状況:
健康危機管理事象発生時には、少量の検体から中毒量の迅速な検出を目指して作成した標準作業書に従い、網羅的に検査を実施する。用いる技術・設備は、GC/MS、LC/MS/MS、LC等の機器分析だけではなく、ヘッドスペースガスによる呈色反応、TLC等基本的な分析技術も複数併用し、総合的に判断する。ただし、今回のように病因物質が想定できる場合は、それを最優先項目として検査を行う。

今後の課題:
小学校におけるジャガイモによる食中毒事例があとを断たないことから、教育委員会等への積極的な啓発活動及びジャガイモを用いた教育を実施中の小学校に対し直接の注意喚起が必要であると考えている。

問題点:
特になし

関連資料:
・厚生労働省 食中毒統計資料
・農林水産省HP http://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/solanine/
食品中のソラニンやチャコニンに関する情報
・登田美桜ら:食衛誌, 55, 55-63(2014)

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