No.16014 当初ジカウイルス感染症が疑われた患者からの発疹熱輸入事例

[ 詳細報告 ] 分野名:リケッチア感染症
登録日:2017/04/04
最終更新日:2017/04/04
衛研名:川崎市健康安全研究所
発生地域:フィリピン
事例発生日:2016年6月17日
事例終息日:2016年7月10日
発生規模:1名
患者被害報告数:1名
死亡者数:0名
原因物質:Rickettsia typhi
キーワード:デングウイルス、ジカウイルス、チクングニアウイルス、蚊媒介感染症、リケッチア感染症、発疹熱、発疹チフス、つつがむし病、日本紅斑熱、Rickettsia typhi

背景:
発疹熱は、主にネズミノミが媒介する発疹熱リケッチア(Rickettsia typhi)により引き起こされる感染症で、発熱、頭痛、発疹、関節痛などの症状を引き起こす。世界各地で散発的な流行が確認されているが、国内における感染発症例は稀で、2013年の兵庫県からの報告が最後であり1)、海外からの輸入例は2003年以降6例報告されているのみである2)~6)。今回、東南アジアへの渡航歴があり、当初ジカウイルス感染症が疑われた患者からRickettsia typhiが検出されたので、その概要を報告する。

概要:
フィリピンから帰国後、発熱、頭痛、発疹、筋肉痛などの症状を呈しジカウイルス感染症が疑われた患者について、当研究所にてジカウイルス、デングウイルス、チクングニアウイルス遺伝子検査をPCRにて行ったが、すべて陰性であった。患者はその後も解熱せず、入院加療となったが、臨床症状や検査所見、経過などからリケッチア感染症が疑われたため、再度検体が搬入されPCR検査を実施したところ、発疹熱の原因となるRickettsia typhiが検出された。この結果を踏まえ投薬内容を変更し、症状は速やかに改善した。

原因究明:

診断:
コンベンショナルPCR、リアルタイムPCR、遺伝子解析

地研の対応:
患者はフィリピン滞在中に連日の蚊の刺咬歴があり、帰国後に出現した発熱、頭痛、全身痛、発疹などの症状と潜伏期間を考慮するとジカウイルス感染症を疑う症例の要件に合致していた。川崎市健康安全研究所において、第7病日に医療機関で採取された患者検体(血清、尿)を用いてジカウイルス、チクングニアウイルス、デングウイルスのPCR遺伝子検査を実施したところ、リアルタイムPCR検査及びコンベンショナルPCR検査の結果はすべて陰性であった。
患者は、その後も高熱が持続したため、第8病日に市立病院の救急外来を受診し入院となった。入院後、病歴及び臨床経過から腸チフスが疑われたが、全身状態は比較的良好であり、前医より処方されていた塩酸セフカペンピボキシルを中止して一旦は経過観察となった。しかしながら、以後も39℃以上の発熱が持続し、四肢近位筋の筋肉痛と体幹・大腿に散在する淡い紅斑が断続的に出現したため、セフトリアキソン(CTRX)で治療を再開したところ、皮疹は改善したものの発熱・筋肉痛は持続し、肝酵素活性の著明な上昇が見られた。
臨床症状、検査所見、CTRXにて改善しないこと、渡航中にネズミとの接触があった可能性を踏まえ、主治医がリケッチア感染症を疑い、第9病日に採取した血液(血しょう及び末梢血単核球(PBMC))及び血清を用いて、当研究所にてリケッチア感染症(日本紅斑熱、つつがむし病、発疹熱、発疹チフス)、Q熱、エンテロウイルス感染症及びパレコウイルス感染症についてPCRにてウイルス遺伝子検査を実施した。第13病日に採取した便についてはエンテロウイルス感染症およびパレコウイルス感染症のウイルス遺伝子検査を実施した。
紅斑熱群リケッチアを広く検出できるプライマーでは、末梢血単核球(PBMC)及び血清において434bpの位置に増幅産物が確認され、発疹熱特異的プライマーでも同検体で267bpの位置に増幅産物が確認された。シークエンサーを用いて遺伝子配列を解読し、Rickettsia typhi であることを確認した。
PCR検査による発疹熱の診断が確定した後、投薬をアジスロマイシン(AZM)からミノマイシン(MINO)に変更し、速やかな解熱と症状の改善が見られ、第18病日に退院となった。

行政の対応:

地研間の連携:

国及び国研等との連携:
国立感染症研究所ウイルス第1部第5室の安藤秀二先生より、発疹熱に関する情報及び資料を提供していただいた。

事例の教訓・反省:

現在の状況:
海外渡航歴があり、山への滞在歴や刺咬痕、ネズミとの接触歴がある等リケッチア感染症が疑われる患者については、紅斑熱群リケッチア感染症のほか発疹熱、発疹チフス検査についても検討を行うようにしており、遺伝子検査体制を整えている。

今後の課題:
今回の事例は、当初ジカウイルス感染症が疑われた患者から最終的に発疹熱リケッチアが検出された貴重な報告である。近年のジカウイルスやデングウイルス等の蚊媒介感染症の流行に伴い、海外渡航歴があり発疹・発熱を呈している患者については症状や渡航地域、蚊の刺咬歴等から第一に蚊媒介感染症が疑われるケースが多いが、今回の事例を踏まえると、本症などのリケッチア感染症等を含め適切な病原診断をすすめていく必要性がある。
発疹熱の鑑別診断としては腸チフス、レプトスピラ感染症、マラリア、デングウイルス感染症、チクングニアウイルス感染症、ジカウイルス感染症等多くの疾患が考えられるため、輸入感染症の場合には様々な感染症の可能性を考慮し、臨床症状に加え滞在先の状況や行動、ネズミとの接触歴等の聴取、調査が重要と考えられる。

問題点:

関連資料:
参考文献
1) 日本紅斑熱を疑われ血清診断にて発疹熱と診断した1例 (IASR Vol. 34 p. 313-315: 2013年10月号)
2) 輸入発疹熱 (IASR Vol.27 p 42-44:2006年2月号)
3) Azuma M, et al., Emerg Infect Dis, Sep;12(9):1466-8 (2006)
4) Takeshita N, et al., J Travel Med, Sep-Oct;17(5):356-8 (2010)
5) Sakamoto N, et al., J Travel Med, Jan-Feb;20(1):50-3 (2013)
6) 加藤博史ほか, 感染症学雑誌, 88, 166-70 (2014)