No.16024 高濃度残留塩素による食中毒

[ 詳細報告 ] 分野名:化学物質による食品汚染
登録日:2017/04/04
最終更新日:2017/04/04
衛研名:川崎市健康安全研究所
発生地域:神奈川県川崎市
事例発生日:2016年5月23日
事例終息日:
発生規模:喫食者数 2名
患者被害報告数:2名
死亡者数:0名
原因物質:高濃度の残留塩素
キーワード:ワイン空瓶、残留塩素、DPD法、塩素系消毒薬、口の痺れ

背景:
塩素系消毒剤を原因物質とする飲食店における食中毒事例には、移し替えた容器への表示がなかったため誤って提供したもの、器具等の洗浄や漂白に用いる際に表示や作業の確認をしなかったために飲料水として提供した事例がこれまでに報告されている。本件は、飲食店において消毒中であったワイン空瓶を誤って使用して飲料水を客に提供し、食中毒を起こした事例である。

概要:
2016年5月23日、川崎市内の飲食店にて2名の客がテーブルに提供された瓶から水をグラスについで飲んだところ、口の痺れ等を訴えて医療機関に搬送された。うち1名は搬送後に嘔吐し、内視鏡検査により消化管粘膜の損傷が認められたため検査入院したが、回復し3日後に退院した。もう1名は搬送時に症状が落ち着いており、受診後に帰宅した。
保健所食品衛生監視員の立入調査により、当該施設ではやかんに入れて冷やした水(氷と浄水器を通した水)をワイン空瓶(ワインボトルを再利用)に注いで客に提供していることが分かった。ワイン空瓶の取扱不良による飲料水への消毒剤の混入が疑われたため、当所に残留塩素濃度検査の依頼があり、患者に提供されたワイン空瓶に残った水及び患者が一口飲みコップに残った水から残留塩素が1,200ppm検出された。検査結果、患者の症状や発症までの時間及び患者を診察した医師から食中毒の届出があったことから、当該施設で提供された水を原因とする食中毒と断定され、営業停止処分1日間の措置がとられた。

原因究明:
当該施設では、日常的に調理器具やふきんの消毒のために塩素系消毒薬を使用しており、何らかの経路で患者へ提供された水に塩素系消毒薬が混入したと推測されたが、施設調査及び営業者、従業員からの聞き取り調査において混入経路を特定することができなかった。
営業者及び店長等の現場責任者はワイン空瓶の消毒は行っていないという認識であったが、事件を受けて営業者が実施した調査で、一部の従業員の判断でワイン空瓶に塩素系消毒薬を入れて消毒している事実が判明した。さらに、消毒薬を取扱う作業マニュアルが作成されておらず、従業員によって作業にばらつきがあった可能性があった。よって、各テーブルに配置するワイン空瓶に高濃度の消毒薬が残った状態でやかんから水を注ぎ、客に提供した可能性が高いと考えられた。

診断:

地研の対応:
DPD法(ジエチルーp-フェニレンジアミン法)により検査を行った。
① 患者に提供された瓶に残った水:1,200ppm
② 患者が一口飲みコップに残った水:1,200ppm
③ やかんの水:検出せず

行政の対応:
立入調査
保健所食品衛生監視員が営業者及び従業員から状況を聞き取り、現場を確認した。
当該店舗の調理場は、厨房部分とパントリー部分に分かれており、提供水の調製はパントリー部分で行われていた。
パントリーのシンクには浄水器を通った水が出る蛇口があり、その場で残留塩素濃度を測定したところ不検出であった。その水をステンレス製やかんに氷とともに入れ、冷やしてからワイン空瓶に適量注ぎ、客席毎に1本提供している。ワイン空瓶に水を注ぐ際、中に水が残っていないか確認しておらず、また、ワイン空瓶の消毒を行う決まりにはなっていないが、後日営業者が行った調査で、従業員の判断でワイン空瓶の中に塩素系消毒薬を入れて消毒していたことが判明した。
この塩素系消毒薬はふきんの消毒、食器の漂白に使用されており、厨房とパントリーに1本ずつ保管されていた。また、消毒薬の希釈率と消毒対象の器具がイラストで示された「衛生薬剤使用マニュアル」は掲示されていたが、消毒薬の希釈方法や管理に関すること、ワイン空瓶の洗浄・消毒方法等、作業全般について文書化したものはなく、さらに、消毒薬の管理者が決まっていなかったため、従業員によって作業にばらつきがあった可能性があった。

施設への指導内容
作業マニュアルの作成、洗剤・消毒薬小分け時の容器への明示、消毒薬を使用する際の消毒中であることの明示等の指導を行った。
・施設、設備及び機械器具の清掃、洗浄及び消毒の方法の決定、手順書の作成
・洗浄剤の適正な濃度での使用、洗浄後の水洗いの徹底
・洗浄剤等化学物質取扱いの注意、容器への表示等による食品への混入防止
・化学物質の安全な取扱いに関する衛生教育の実施
・食品等の衛生的な取扱いの徹底

地研間の連携:
なし

国及び国研等との連携:
なし

事例の教訓・反省:
・飲食物を取扱う施設における消毒薬等の使用に関する規則の重要性
・責任者と従業員の意思の疎通
・現場判断の自由度と危機管理意識の関係付け
・化学物質による健康被害事例の啓発

現在の状況:
営業者からマニュアルの作成及び従業員への周知、消毒薬の管理方法の改善(保管場所の変更、管理者の設置、使用及び廃棄の記録等)、飲料水の提供方法の改善(ワイン空瓶の使用中止等)の報告を受け、保健所食品衛生監視員が改善を確認している。

今後の課題:
塩素系消毒薬に関する健康危機管理事例は、飲食店における食中毒事例だけではなく、家庭においても起こりうる問題であり、「漂白剤の誤飲に注意!」啓発リーフレットを作成し、ホームページに掲載した。今後も時期を捉えて啓発を行っていきたい。

問題点:

関連資料:
水道法施行規則第17条第2項の規定に基づき厚生労働大臣が定める遊離残留塩素及び結合残留塩素の検査方法(平成15年9月29日厚生労働省告示第318号)別表第1 ジエチル-p-フェニレンジアミン法