はじめに

バイオテロ対応ホームページ

バイオテロ対応ホームページは、平成 20 年(2008 年)に医療機関向けにバイオテロ関連疾患の臨床診断や検査方法の選択、治療法について、正確な知識を迅速に提供するために整備されました(佐多徹太郎班長)。その後、倉根一郎班長(国立感染症研究所)のもと専門家の意見を取り入れながらアップデートを行ってきました。平成 26 年からは「バイオテロに使用される可能性のある病原体等の新規検出法の確立,及び細胞培養痘そうワクチンの有効性,安全性に関する研究」班(西條政幸班長:国立感染症研究所)がアップデートを担当し、平成 28 年には一般向けに公開いたしました。
昨今の国際情勢を鑑みると、バイオテロを含めたテロ行為の懸念は今後高まりこそすれ、低くなることはありません。しかしながら、バイオテロに使用される可能性のある病原体は数多く、情報を提供する媒体も限られています。本ホームページでは多彩な病原体に関する正確な情報を伝え、写真や図表も掲載するなど、有事の際に情報を得やすいよう配慮しました。過去のバイオテロ発生事例は少数である上に、詳細な経過は公開されていない場合が多く情報収集においては困難な点もありますが、できる限り最新の情報を加えるなどより良いホームページのために改訂を続けて参ります。
本ホームページが貴重な情報提供源となり、万が一の有事の際には診療支援の一助として活用して頂けることを願っております。

平成 29 年 3 月
研究分担者:鯉渕智彦(東京大学医科学研究所)
松本哲哉(東京医科大学)

バイオテロ対応ホームページ(2008年)について

通称「バイオテロ対応研究班」は平成15年(2003年)から島田 馨先生を主任研究者として始まり、迅速検査法の開発とバイオテロ発生時の一次対応者(First responder)支援を主な目的として進めてきました。30名以上の方のご協力を得て、一次対応者支援として冊子体の「バイオテロ対応マニュアル2005」をまとめました。平成18年(2006年)から、私が主任研究者を引き継ぎ、より幅の広い情報提供や将来性等を考慮し、冊子体をもとにホームページを立ち上げました。その後、新しいメンバーを含めた感染症専門家との多くの議論を経て、総論を全面的に書き換え、疾患の鑑別一覧表やバイオテロを最初に疑う状況の追加、そして画像一覧の充実等をはかり、「バイオテロ対応ホームページ」として2008年3月にとりまとめることができました。この間、インフェクションコントロールドクター(ICD)の方々にアンケート調査を行い、貴重なご意見を多数いただきました。概ね「役立つ」という評価をいただき、かつ今後の発展を期待するという激励を受けました。当研究班は平成20年度からもさらに継続することができましたので、岩本・松本両先生を中心とした臨床小班を中心として、一次対応者のニーズに合ったものに進化させていきたいと考えております。バイオテロが実際に起こることがないよう祈りつつ、万一の有事の際に役立つよう努力したいと思います。

研究代表者:佐多徹太郎(国立感染症研究所)

バイオテロ対応ホームページの作成にあたって

国家や民族間の抗争や宗教の違いを基礎にした争いやテロ行為が続き、世界情勢が不安定となり、バイオテロに対する懸念も高まってきています。本研究班が2007年にICDを対象に実施したアンケート結果によると、97%のICDがバイオテロが国内で発生する可能性を認識しているという結果でした。国内においてもバイオテロが発生する可能性は十分にあり、有事に対する備えをしておく必要があります。そのためには新しい診断法の開発や検査体制の確立、各施設における治療薬や個人防護具(PPE)の確保などとともに、有事の際に適切な対応を取るための知識を普及することが重要です。そこで本研究班ではバイオテロへの対応を目的としたホームページを作成致しました。バイオテロに関連した感染症は数多く、病原体の種類によって異なった対応が求められます。さらに、十分な対応に必要なエビデンスが不足している病原体も数多く存在し、ホームページの原稿を担当された方々には、少ない情報をもとに有益な提言をまとめるよう苦労をかけました。本ホームページはそれらの集大成として完成したものであり、これまでご協力いただいた方々に深く感謝致します。内容に関する情報は常にアップデートしていくことが望まれるため、今後もさらに改訂を加えていく必要があります。本ホームページに関してお気付きの点やご意見などあれば、是非お寄せいただければありがたいと思います。

共同研究者:岩本愛吉(東京大学医科学研究所)
松本哲哉(東京医科大学)

前書き

生物テロの危機管理は行政と微生物学、疫学および感染症の専門家の密接な共同作業で行われるものであるが、生物テロの被害者たちが何か症状に気付いて先ず受診するのは最寄の医療機関であり、感染症の専門家ではない医師が対応を余儀なくされるであろう。加えて生物テロのほとんど総てが日常出会うことのない稀な感染症であり、生物テロ攻撃を受けた場合、被害の拡大防止の最大の鍵は現場からの早期の届出であることを考えあわせると、第一線の医療機関で生物テロ関連疾患の正確な情報を迅速に入手できる態勢が危機管理上不可欠である。

本研究班の臨床小班に生物テロ関連疾患の診断、検査、治療マニュアルの作製を担当してもらったが、必要な疾患を網羅して要領よく整理、記載してあり、貴重な画像もふんだんに取り入れて極めて実用的なものが出来上がっている。国内関連部署に提供されるとともに、感染研のホームページに取り入れられれば全国医療機関からのアクセスが容易となり、危機管理に大きく寄与するものと期待している。

主任研究者 島田 馨(東京専売病院)

臨床小班総括

米国では2001年9月11日の同時多発テロ直後に炭疽菌を用いた生物テロ事件が発生し、強毒な微生物に対する注目が急速に高まった。一方、温帯の島国という地理的条件に恵まれていることや、旧来公衆衛生的な施策等によって数多くの伝染病を克服してきたわが国では、強毒な病原体とその感染症について疫学、臨床症状や診断、治療などに関する情報が不足しがちである。強毒な病原体は生物テロに用いられる可能性が高く、万一の場合には迅速な情報入手が必要であるが、生物テロに関連した疾患情報をまとまって検索できるシステムはいまだ現実のものとなっていない。今回、厚生労働科学研究費補助金『生物テロに使用される可能性の高い病原体による感染症の蔓延防止、予防、診断、治療に関する研究』において作成された『生物テロ関連疾患の診断・検査・治療マニュアル2005』は、インターネット上で手軽に検索し、情報を得ることを主目的としたものである。それぞれの疾患につき、サマリーと詳細な記述を並列させ、疾患の概略を手短に理解できるとともに、詳しい情報も得られるように配慮した。疾患のサマリーでは、疾患が発見されるような状況から診断、治療にいたる対応の流れをフローチャートで示すとともに、病原体の特徴、潜伏期、感染経路、臨床症状、検体採取と輸送、検査法や治療などの要点をコンパクトにまとめた。また、カラー図版を多用することによって”目で見て理解する”要素を重視した。

小説の世界ではさまざまな病原体が生物テロに用いられているが、現実の生物テロに用いられる可能性のある病原体は、炭疽菌、天然痘ウイルスなど、比較的限定されるだろうという考えもある。しかし、上にも述べたように、強毒な病原体は日常での遭遇が少なく、ともすれば情報も不足しがちである。そのような病原体とその感染症についてまとまって記載されている情報源は、わが国の臨床現場にとって極めて重要なものだと考える。今回取り上げた病原体で必要十分だとは考えにくい。必要や利用者の意見に応じて改定を加えていく必要があるものと考えており、その機会が与えられることを望みたい。

本マニュアルは多数の専門家が参加して作成された。中でも佐多徹太郎、松本哲哉、藤井 毅の3名は、マニュアルの骨格作りや統一的な全体構成について極めて重要な役割を果たした。彼らの献身的な努力がなければ、このマニュアルは完成しなかったといっても過言ではない。ここに敬意を表し、心より御礼申しあげる次第である。

岩本 愛吉(東大医科研)