ブルセラ症 – Brucellosis(詳細)

病原体の特徴

ブルセラ症brucel1osisは、人獣(畜)共通伝染病 Zoonosisの1つであり、原因菌としてB. melitensis(ヤギ)、B. abortus(ウシ)、B. suis(ブタ)およびB.canis(イヌ)の4菌種が主なものであり、それぞれ数種類の生物型を有する(表1)。これらはヒトの波状熱,マルタ熱(Malta fever)の原因となる。その他の菌種として、B. neotomea(キネズミ)、B. ovis, (ヒツジ)がある。ウシの伝染性流産の原因菌となったり、乳汁への排菌があるため,特に畜産国では公衆衛生上重要な菌である。 ヒトは終宿主ではないが、発症するとインフルエンザ様の熱が間欠的に起こるいわゆる波状熱を主徴として長期間感染が継続する。なお本疾患は感染症法の4類感染症に指定されており、診断後直ちに最寄りの保健所に届出を行う義務がある。現在、国内ではまれな疾患であり、実験室内感染あるいは海外渡航後の感染症としてみられることがある。なお本菌をエアロゾル化することでバイオテロに使用される可能性も指摘されている。

表1 ブルセラ属菌の鑑別
菌種 生物型 CO2要求性 硫化水素産生 下記成分を含む培地での発育性 特異血清を用いた凝集反応 ファージによる溶菌
チオニン* フクシン* A M R Tb Wb Bk Fz
B. abortus 1 (+) + + + L L L L
2 (+) + + L L L L
3** (+) + + + + L L L L
4 (+) + +*** + L L L L
5 + + L L L L
6** (-) + + + L L L L
9 + + + + L L L L
B. suis 1 + + **** + NL L L PL
2 + + NL L L PL
3 + + NL L L PL
4 + (-) + + NL L L PL
5 + + NL L L PL
B. melitensis 1 + + + NL NL L NL
2 + + + NL NL L NL
3 + + + + NL NL L NL
B. ovis + + (+) + NL NL NL NL
B. canis + + NL NL NL NL
B. neotomea + + NL or PL L L L

L = 全面的に溶菌 PL =部分的溶菌 NL = 非溶菌
* 濃度 = 1/50 000 (重量/体積)
† Rファージは非スムース型のB. abortusをRTDで溶菌させる(RTD: routine test dilution:完全な溶菌スポットを示すファージの最高希釈倍数)R/O ファージもB. ovisをRTDで溶菌させる。
‡ (+) = ほとんどの菌株が陽性 (-) = ほとんどの菌株が陰性。
** B. abortus 3型と6型の判別のために, チオニンの濃度は1/25 000(重量/体積)にて添加. 3型 = + , 6型 = – 。
*** この生物型の菌株はフクシンにて発育が阻止される。
**** フクシン,パイロニン(pyronin),サフラニンOに耐性を示すことがある。

主な臨床像

本菌は細胞内寄生菌であり,好中球やマクロファージに貪食されても殺菌に抵抗性を示し、増殖した菌はリンパ行性あるいは血行性に全身の臓器に散布され,そこで持続感染を起こす。

自然感染における感染源は感染動物の組織、乳汁、血液、尿、胎盤、膣排泄物、流産胎児などである。潜伏期間は1~18週、通常2~8週。ブルセラ症は全身症状を呈し、あらゆる臓器に感染を起こす。その症状に特異的なものはなく、発熱、発汗、疲労、体重減少、うつ状態などがみられる。ブルセラ症を発症するとインフルエンザ様の症状が間欠的に起こり、いわゆる波状熱の状態が数週間~数カ月続くことがある。朝は平熱にもかかわらず、午後から夕方にかけて発熱がみられるパターンが多く、悪寒を伴う高熱の場合もある。嘔気・嘔吐,下痢などの消化器症状や咽頭痛、乾性咳などの呼吸器症状、および発汗,頭痛、筋肉痛、倦怠感、さらに体重減少やうつ状態を訴えることもある。本疾患はときに関節炎、心内膜炎、骨髄炎、泌尿生殖器の感染および脳炎、髄膜炎を併発する。本感染による死亡率は一般的には低率であるが、心内膜炎はブルセラ症の死因となり得る重要な疾患である。

身体所見では、発熱、リンパ節腫脹、肝脾腫大がみられる。感染によって誘導される所見として比較的共通のものは脾腫、リンパ節特に頚部および鼠径部リンパ節の腫脹、および関節の腫脹と痛みがあり、その他に20~50%の患者に、進行の時期によって泌尿器生殖器症状があらわれる。B. melitensisの感染では約70%の患者に肝腫大が認められる。本感染による死亡率は一般的には低率であるが、心内膜炎を併発している場合には致死率は上昇し、ヒトのブルセラ症による死亡の多くはこれが原因である。ヒトブルセラ症の3~5%に神経症状や精神神経的な症状との関連性があるとされる。

臨床的には他の不明熱疾患(マラリア、腸チフス、結核、野兎病、悪性腫瘍、膠原病など)との鑑別が必要である。

ブルセラ症は国内ではまれな疾患であり、自然感染かどうかの判断に際しては、問診で海外の流行地域への渡航歴、とくにその地域でヤギやウシなどの乳汁や肉を摂取したかどうかを確認することがまず重要である。もしこれらの要因が全く考えられないのにもかかわらず、ブルセラ症患者が複数例発生した場合には、バイオテロも視野に入れた調査が必要となる。

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臨床検査所見

血液生化学検査

通常の血液検査で特異的な所見はない。一般的な血液検査や尿検査は、他の感染症を除外する以外はあまり意義がない。白血球数は正常かむしろ減少しており、リンパ球はやや増加傾向を示す。軽度の貧血が認められ、赤沈は正常かやや亢進している。末梢血白血球数は正常あるいは低下している場合が多いが、赤沈は正常かやや亢進している。血小板数の減少や肝機能異常を認めることがある。

潜伏期間は通常2~8週間とされているが、さらに長期の場合もある。血清抗体価の測定は、他菌種との交差反応の問題も指摘されているが、診断上有用な検査であり、治療効果の判定にも利用できる。

画像検査その他

本疾患を画像診断で推定することは難しく、呼吸器症状を伴っていても、胸部X線では所見が認められない場合もある。感染部位の検索には、骨シンチ、CT、およびMRIが有用である。脊椎の画像診断では発症後2、3週間後くらいから骨・関節の病変が認められ、関節の辺縁が不鮮明になったり、仙腸関節の間が広くなったりする。また脊椎炎を伴う症例では骨端炎、椎間板の狭小化、骨棘形成などの所見を認める。シンチグラフィが骨病変の検査としては感度が優れており、X線で異常を認めない早期の時点でも異常所見が観察される。

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確定診断

検体の採取、輸送、保存など

血液培養によって本菌を分離できれば診断が確定する。検体の塗抹染色ではグラム陰性の短桿菌が観察される。血液培養を行っても菌が分離されない例では、骨髄穿刺やリンパ節生検を行って培養を試みる。病原菌株の送付は一般的な病原体の輸送と同じに可能である。保存は凍結乾燥が適しているが、通常の細菌保存で数ヶ月は問題がない。しかし、ブルセラ症は検査室内や実験室内感染が多く報告されており、エアロゾールによる感染が容易におこる。

微生物学的検査法

Brucella属菌はグラム陰性の球伏に近い短桿菌で、鞭毛はない。そのため染色や培養の結果から、モラクセラやインフルエンザ菌などと誤認されることがある。

発育はやや遅く、好気性に発育し、普通の培地ではあまり発育せずアミノ酸、チアミン、ナイアシン、ビオチン、Mg2+を要求する。分離にはserum-dextrose寒天平板を使うが、brucella brothまたはtrypticase soy brothを使用してもよい。血清または血液を加えたり、5〜10%炭酸ガスがあるとしばしば発育がよくなるが、とくにB. abortusを検体から分離するときには炭酸ガスが必要である。約1週問で正円、隆起した琥珀色の透明な集落を生じる。検体から分離するときには3〜4週問培養したあとでないと、存在していないという結論を出してはならない。20〜40℃で発育し、37℃が最適である。至適PHは6.6〜7.4である。カタラーセ陽性、オキシダーゼ弱陽性、通常の培地では炭水化物から酸の産生を示さず、DNAのGC含量は約58%である。

診断のためには、直接患部からとって塗抹染色するか、蛍光抗体法で観察する。血液から、またリンパ節、肝臓、骨髄の生検から菌を分離する。培養は少なくとも4〜6週間炭酸ガス存在下で行う。ただし現在は自動化血液培養システムを用いた血液培養法でも一般的な培養時間で発育すると言われている。集落が出現したら、染色および生化学性状を調べる。検査室内感染を防ぐために、全ての処置はバイオセーフティ・レベル2の条件で安全キャビネットを使用して行われなければならない。ブルセラは血液培養ボトルから最初に染色した場合は、グラム陽性またはグラム染色性が不定の球桿菌として観察されることもあるため,グラム染色性が不定の小型の球桿菌はブルセラ以外の菌であることが証明されるまでは、ブルセラと同様の扱いをしなければならない。また、Phagetypingは菌種、生物型の同定に重要である。更には、診断的価値は低いが、ツベルクリン反応と同様の皮内反応(ブルセロリン反応:ブルセラ菌体抽出物を用いた皮内反応(遅延型皮内反応))を行うことができるが、補助診断である。

また病原体に対する抗体を血清凝集反応(1:160倍以上の力価)または酵素抗体法、補体結合反応(CF、急性期と回復期で4倍以上の力価上昇)で検出することが必要である。しかし、菌体表層のポリサッカライドの構造が細菌の血清型診断に重要な影響を及ぼし、他菌種との交差凝集がある。即ち、Yersinia enterocolitica O9、Vibrio choleraeSalmonella O30、Escherichia coli O157:H7、Pseudomonas maltophilaFrancisella tularensis、Campylobacterなどに対して血清学的に交差反応を起こす。特に、大きな問題となるのはO側鎖の構成が同一である血清型 O9群のY. enterocolitica との交差凝集であり、ヒトのエルシニア症とブルセラ症の血清診断に大きな支障となっている。しかし、Y. enterocolitica O9は、我国で輸入動物以外から分離された報告はなく、血清診断上問題になることはないが、Y. enterocolitica O9の常在地であるモンゴルや中国などの国ではブルセラに対する血清診断法の限界があると言われており、正確なブルセラ症の実態把握ができない状態にある。しかし、近年、ブルセラ特異的な血清診断法が報告されている。この反応では、ワクチン接種動物をも区別可能である。さらにPCRなども用いられている。

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治療

薬物療法(抗菌薬療法)

本菌が細胞内寄生であるため、一般的に治療はいろいろな問題を抱えている。β-lactam剤はin vitroにおいては良好な薬剤感受性を示すが、細胞内への移行性を考えると有効性は期待できない。テトラサイクリンが最も有効性が高い薬剤と考えられているが、単独の投与で根治に至るのは難しく、再発率が高い。そこでWHOは、ドキシサイクリン(200mg/日)とリファンピシン(600~900mg/日)を併用し6週間投与する方法を推奨している。ただしWHOはドキシサイクリン(200mg/日)を6週間投与後、ストレプトマイシン筋注(1g/日)を2~3週間併用する方法が最も有効性が高いと述べている(投与量はWHO推奨量のまま掲載)。

ST合剤も使用頻度が高いが、再発率の高さからすると単独での使用は推奨されず、リファンピシンやキノロンなどとの併用法が挙げられている。

8歳以上の子供の場合は、ドキシサイクリン を体重1kgあたり2mgの量を経口で一日4回に分けて3週間投与し、ゲンタマイシン (1日 5 mg/kg) を筋注で初めの5日間併用する。一方、8歳以下の子供の場合はST合剤を一日2回に分けて3週間体重1kgあたり10および50 mg与え、はじめの5日間はゲンタマイシンを併用する。ST合剤単独もしくはリファンピシンかゲンタマイシンとの併用は妊婦やテトラサイクリン投与患者にも有効である。

髄膜炎や心内膜炎ではドキシサイクリンと他の薬剤との併用療法が効果があり、特にST合剤とリファンピシンとの併用が効果がある。

その他治療上の留意点

心内膜炎、骨髄炎などでは外科的処置も必要なことが多い。再発は抗菌薬の服用期間が短かかったり、外科的処置が適切になされなかった場合に起こる。

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予防(ワクチン)

ブルセラは細胞内寄生菌であるために、抗体による免疫は成立せず、再感染が起こりやすい。細胞性免疫が関与している。即ち、ブルセラ症の予防には死菌より生菌ワクチンが効果があり、抗体の予防効果はわずかであると考えられている。実際に、諸外国では、仔牛の時期に接種する生菌B. abortus 19株ワクチンやB. melitensis Rev I株を用いた予防対策がとられ、家畜の感染が減少した。しかしこれらのワクチン株は副作用が強いので、ヒトへは応用されていない。

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バイオハザード対策

患者の隔離

本菌のヒトからヒトへの感染は通常起こらないと考えられており、感染者の隔離は不要である。

検体、菌、汚染器材等の取り扱い

本菌は特に感染性が強いというわけではないので、一般的な病原細菌と同様の扱い方で大きな問題は生じない。ただし実験室内感染の報告もあるため、菌液の調整や各種試験に際しては慎重な取り扱いが必要である。

菌が発育した培地や汚染器材については、オートクレーブ処理を行う。

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2009年11月10日 14時疾患の詳細