日本脳炎(詳細)

病原体の特徴

日本脳炎ウイルスは、極東から東南アジア、南アジアにかけて広く存在しており (図1)、全世界で毎年35,000~50,000人の日本脳炎患者と10,000人以上の死者が発生している。わが国においては、1960年代には毎年数百名以上の日本脳炎患者が報告されていたが、1992年以降は毎年数名までに減少している。我が国での発生は4月から10月中に西日本に多い (図2)。感染者のほとんどは無症状であり、脳炎を発症するのは、100-1000人に1人程度である。しかし、ひとたび脳炎症状を発症すると、致死率は25%におよび、回復してもその半数程度に重度の障害を残す。日本脳炎は、フラビウイルス科に属する日本脳炎ウイルスに感染して発症する。日本などの温帯では、水田で発生するコガタアカイエカ (図3)が媒介し、夏から秋にかけて発生する。亜熱帯、熱帯ではその他の蚊が媒介し、年中発生する。コガタアカイエカの飛翔距離は約2kmとされているが、それ以上の距離を飛ぶこともある。ウイルスは増殖動物であるブタの体内で増えて、血中に流れ出し、これを蚊が吸血する。この蚊がヒトを刺した際にウイルスを感染させる。ブタはコガタアカイエカに好まれること、毎年感受性のある個体が多数供給されること、さらに血液中のウイルス量が多いためが最適の増殖動物となる。我が国におけるブタの日本脳炎ウイルス感染は西日本に多い (図4)。ヒトにおいては血中に検出されるウイルスは一過性で少ない。したがってヒトからヒトへの感染はない。ヒトが終末宿主である。

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主な臨床像

潜伏期間は6~16日間。発症者は感染者の1%以下である。不顕性感染から発熱と頭痛のみ、さらに無菌性髄膜炎などと臨床症状は多岐にわたる。脳炎症例では、急性の高熱、頭痛、悪心、嘔吐で発病し、数日の経過で不穏、腹痛(小児が多い)、意識障害の進行、異常行動、運動機能障害、痙攣(小児は85%、成人は10%)が出現し昏睡にいたる。くりかえす痙攣は予後不良である。パーキンソン様症状やポリオに似た急性弛緩性麻痺を示す症例がある。感覚障害はまれ。項部硬直は1/3~2/3、脳神経症状(顔面神経麻痺など)は1/3程度にみられる。脳炎患者の死亡率は20-30%にいたる。3割程度は人工呼吸器管理となり、短期間に死に至る症例もある。急性期回復後に痙攣、運動神経および脳神経障害を残すものが1/3ある。回復した小児の75%に何らかの行動及び精神障害を残す。

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臨床検査所見

  • 血液所見
    末梢白血球数の上昇。低ナトリウム血症など。
  • 髄液所見
    圧の亢進、細胞数増加(10以下~数千/mm3、リンパ球優位)、蛋白質増加(正常~100mg/ml)、糖は正常。
  • CT/MRI
    白質全般の浮腫、視床(もっとも高頻度、出血が多い)、基底核、小脳、中脳、橋に異常所見がみられる。
  • 脳波
    徐波、periodic lateralized epileptiform discharges(PLEDS)

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確定診断

  • 血清診断
    赤血球凝集抑制(HI)試験、補体結合(CF)試験:単一血清ではそれぞれ1:640、1:32以上。急性期と回復期(2-3週間後)のペア血清では抗体価が4倍以上上昇。HI試験はCF試験よりも感度は高いが、海外で感染した場合には、その地域で流行しているフラビウイルス(デングウイルスなど)と交叉反応があるので注意を要する。
    ELISA:特異IgMが陽性。発症後にIgMが検出されるのは、髄液で4日以降、血液で7日たってからである。
  • ウイルス分離、ウイルス抗原検出、RT-PCR法によるウイルスRNAの検出
    脳材料が得られた場合は検出されることがある。血液や髄液からの検出は難しい。

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治療

日本脳炎は症状が出現した時点ですでにウイルスは脳内に達して脳細胞を破壊している。したがって症状出現後の薬剤治療には期待できない。特異的療法はなく、一般療法、対症療法が中心であり、合併症の予防を図る。

  • 一般療法
    気道の確保、栄養・水分の補給、褥瘡防止などの全身管理が重要。
  • 対症療法
    発熱、意識障害、脳浮腫、痙攣に対する治療など。ステロイドの有用性は明らかになっていない。

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予防(ワクチン)

  • 予防接種法に基づく定期予防接種スケジュール
    • 第1期(3回)
      初回接種(2回):生後6か月以上90か月未満(標準として3歳)。1-2週の間隔をおいて2回接種する。
      追加接種(1回):初回接種後おおむね1年後(標準として4歳)。初回接種のみでは十分な抗体量が作られないことがあるため1回追加接種する。
    • 第2期(1回):9歳以上13歳未満(標準として9歳)
      現在使用されている乾燥細胞培養日本脳炎ワクチンは、平成21年6月に第1期の定期予防接種に使用可能なワクチンとして位置付けられたが、第2期の定期予防接種に使用できない。また従来のマウス脳由来日本脳炎ワクチンが平成22年3月9日から使用できなくなったため、第2期の定期予防接種に使用可能なワクチンはない(図5)。今後の方針に注目したい。
  • 流行地域へ旅行などする場合
    流行地域へ1か月間以上滞在する場合、1か月以内でも流行期に郊外(水田などがある場所など)に行く場合などは接種が望ましい。
    定期の予防接種を完了していても、その有効期間は3-4年と言われている。基礎免疫(初回接種および追加接種)を受けている場合は、1回追加接種する。全くワクチンを受けていない場合には、基礎免疫から始める。流行地域に訪問する10日前までにワクチン接種を終了する。
  • 防虫対策
    虫よけスプレー(DEET:diethyltoluamide含有)、蚊帳、蚊取り線香などにより蚊に刺されることを防ぐ。肌を露出しない。

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バイオハザード対策

患者の隔離

基本的にヒトーヒト感染はないため隔離は不要。標準予防策で対応する。

検体、菌、汚染器材等の取り扱い

検査室での感染例が報告されている。検査室では、針刺しによる血液暴露や粘膜からの感染が発生しうる。Biosafety Level 3で対応する。

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感染症法における取り扱い

日本脳炎は4類感染症に指定されており、診断した医師は直ちに最寄りの保健所に届ける。報告の基準は以下である。

  • 患者(確定例)
    症状や所見から当該疾患が疑われ、下記の検査によって病原体の診断がされたもの。
  • 無症状病原体保有者
    臨床的特徴を呈していないが、下記の検査により、病原体の診断がされたもの。
  • 感染症死亡者の死体
    症状や所見から当該疾患が疑われ、下記の検査によって病原体の診断がされたもの。
  • 感染症死亡疑い者の死体
    症状や所見から、当該疾患により死亡したと疑われるもの。

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参考文献

        1. 国立感染症研究所感染症情報センター.日本脳炎.
          http://idsc.nih.go.jp/idwr/kansen/k02_g1/k02_01/k02_01.html
        2. 国立感染症研究所感染症情報センター.日本脳炎Q&A第2版(平成21年6月4日一部修正).
          http://idsc.nih.go.jp/disease/JEncephalitis/QAJE.html
        3. 厚生労働省.日本脳炎ワクチン接種に係るQ&A(平成22年4月改訂版).
          http://www.mhlw.go.jp/qa/kenkou/nouen/index.html
        4. 厚生労働省.海外旅行者のための感染症情報.日本脳炎
          http://www.forth.go.jp/archive/tourist/kansen/08_j_ence.html
        5. CDC.Traveler’s health-Yellow Book.Japanese encephalitis.
          http://wwwnc.cdc.gov/travel/yellowbook/2010/chapter-2/japanese-encephalitis.aspx
        6. Fisvher M.,et al.Japanese encephalitis vaccines. Recommendations of the advisory committee on Immunization Practices(ACIP) recommendations and reports.MMWR March 12,2010/59(01);1-27
          http://www.cdc.gov/mmwr/preview/mmwrhtml/rr5901a1.htm
        7. Vaughn DW,et al.Flaviviruses (Yellow Fever, Dengue, Dengue Hemorrhagic Fever, Japanese Encephalitis, West Nile Encephalitis, St. Louis Encephalitis, Tick-Borne Encephalitis) ,in Mandell GL.et al: Mandell Douglas, and Bennett’s Principles and Practice of Infectious Diseases, 7th ed:2133-2156. Elsevier, Churchill Livingstone, 2009

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2012年07月15日 14時01分 改訂