ポリオ – Acute poliomyelitis(詳細)

病原体の特徴

ポリオ(Acute poliomyelitis、急性灰白髄炎)とは、ポリオウイルスの中枢神経感染により生ずる四肢の急性弛緩性麻痺(acute flaccid paralysis:AFP) を典型的な症状とする疾患であり、かつては小児に多発したところから小児麻痺ともよばれていた。WHOが根絶のために各国と協力して対策を強化しているが、アフリカやインドなどで現在も発生している(図1)。

病原体となるポリオウイルスはピコナウイルス科エンテロウイルス属に分類され、抗原性の異なる1型、2型、3型の3種類がある(図2)。

ポリオウイルスの自然宿主はヒトのみである。糞便中に排泄されたウイルスが口から体内に侵入し、咽頭や小腸粘膜で増殖し、血流に入る。血中を循環したウイルスの一部が脊髄を中心とする中枢神経系に到達し、運動神経ニューロンに感染増殖して脊髄前角炎をおこすと、典型的なポリオ症状が現れる。

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主な臨床像

潜伏期は5-35日(多くは9-12日)である。感染しても90-95%は無症状である。4-8%は頭痛、咽頭痛、嘔気、嘔吐、筋肉痛などの感冒様症状を訴える場合がある。0.5-1%は無菌性髄膜炎を起こすが麻痺を起さず治癒する。

感染者の0.1%が麻痺型ポリオを発症する。1~2日の感冒様症状の後、激しい筋肉痛・知覚過敏から始まり、1-2日後に突然弛緩性麻痺が現われる。上肢よりも下肢、遠位筋よりも近位筋に多く、片側性であることが多い。知覚障害は非常にまれであり、知覚障害を合併する場合にはGuillain-Barre症候群など他疾患を疑う。麻痺発症後、多くの患者では、筋力低下、筋緊張低下及び筋肉萎縮が永続的な後遺症として残る。(図3

球麻痺を合併した場合は嚥下障害、発語障害、呼吸障害を生じることがある。発生頻度は麻痺型の5-35%である。死亡例のほとんどは、呼吸筋麻痺に伴う急性呼吸不全による。

ポリオ後症候群(ポストポリオ症候群):ポリオによる麻痺に罹患した者が、数十年後に突然、疲労、痛み、筋力低下などの症状を呈する症候群。頻度はポリオ発症者の40-60%とされる。多くは麻痺側に生じる。

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臨床検査所見

髄液:細胞数軽度上昇(10–200 /mm3)、蛋白軽度上昇

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確定診断

検体の採取、輸送、保存など

検体の採取・輸送・保管

  1. 発症後できるだけ速やかに、少なくとも2回以上便検体を採取し、いずれかひとつの便検体でもポリオウイルスが検出された場合、陽性とする。直腸ぬぐい液、咽頭ぬぐい液、髄液等からポリオウイルスが検出された場合も、検査陽性とする。検体は発症後できるだけ早く採取する。ポリオウイルスが分離されるのは麻痺の発症後、1〜2ヶ月程度の期間である
  2. -20℃での保管・輸送が望ましい。
  3. 検体の包装等は、国立感染症研究所の「感染性材料(病原体等及び診断用のヒトあるいは動物の検体)の輸送に関するマニュアルに従って、基本型三重包装容器に検体を入れる。

(http://idsc.nih.go.jp/disease/sars/info/MailingBox2.4.pdf)

微生物学的検査法

微生物学的検査法

  • 糞便、咽頭ぬぐい液などからポリオウイルス分離・同定を行う。
  • 分離・同定されたポリオウイルスはPCR法等により野生株とワクチン株かの型鑑別を行う。
  • 遺伝子検査や抗原性解析により非ワクチン株と判定されたポリオ分離株については、すべてVP1 全領域の塩基配列を解析する。ワクチン株と比較して 1.0%以上の変異を有するVDPVは、長期間伝播し変異を蓄積した可能性があるため、野生株ポリオウイルスが検出された場合と同様に対応する必要がある。

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治療

有効な治療はない。疼痛緩和、理学的療法がおこなわれる。呼吸不全に対しては人工呼吸器による補助換気が必要となる。

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予防(ワクチン)

予防接種によりポリウイルスの感染を予防する事が最も重要である。ポリオワクチンには、経口生ポリオワクチン(Oral polio vaccine:OPV)と不活化ポリオワクチン(Inactivated polio vaccine:IPV-注射による接種)がある。日本国内では現在OPVが使用されているが、米国などではIPVが使用されている。

現在日本では生後3ヶ月以上90ヶ月未満の間(生後3ヶ月~18ヶ月が標準投与年齢)にOPVが2回、主に集団接種方式で投与されている。使用されるワクチンには、1型、2型、3型の3種類のポリオワクチンが含まれており、凍結保存されていたワクチンを使用直前に融解・混和し、0.05mlを経口的に服用させる。1回の投与では3種類のウイルスが必ずしも腸管内で同じように増殖するとは限らないので、いずれの型に対しても免疫を効果的に成立させるため2回目の服用が行われる。2回目の服用では1回目の服用で免疫が成立しなかった型のウイルスが腸管で効率よく増殖し、それに対する免疫が獲得される。

OPVはポリオウイルスに対する血清中の中和抗体、腸管内の分泌型IgAとも誘導するため感染予防効果は絶大である。しかし生ワクチンであるところより、ワクチン株によるポリオ様の麻痺(ワクチン関連麻痺:Vaccine associated paralytic polio:VAPP)が発生する可能性がきわめて稀ながらある。我が国のOPVの添付文書によると、被接種者から麻痺患者が出た割合は約486万接種当たり1人、接触者の場合には約789万接種当たりに1人とされているが、約200万接種あたり1例という報告もある。(図4

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バイオハザード対策

主に糞便―経口感染であるが、時に飛沫感染もある。糞便,咽頭分泌液,血液が感染源となりうる。ガウン、手袋、サージカルマスクの着用を行う。患者の使用するリネン・食器などはディスポーザブルが望ましい。消毒薬では次亜塩素酸ナトリウム、グルタラール、ポピドンヨードなどが有効。

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感染症法における取り扱い

ポリオは二類感染症に定められており、診断した医師は直ちに最寄りの保健所に届け出る必要がある。経口生ポリオワクチン接種によるVAPP症例も届け出の対象となる。ワクチン接種者からの二次感染についても留意する必要があり、本人に経口生ポリオワクチンの内服歴がなくても届け出の対象となる場合がある。報告のための基準は以下の通りとなっている。

  • 診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、以下の方法によって病原体診断がなされたもの。
    • 病原体の検出
    • ポリオウイルスの分離・同定など

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参考文献

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2012年07月15日 14時03分 改訂