ハンタウイルス肺症候群 – hantavirus pulmonary syndrome,HPS(詳細)

はじめに

1993年に米国four cornerと呼ばれる米国南部のユタ,アリゾナ,ニューメキシコ,コロラド州で,発熱および急性呼吸窮迫症候群様の症状を呈する疾患がアメリカ原住民の間で流行した。米国疾病予防センター特殊病原体部門の研究者を中心としたグループにより,その疾患がそれまで存在が確認されていなかったハンタウイルスに起因することが解明され, HPSと命名された。

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病原体の特徴

ハンタウイルス(ブニヤウイルス科ハンタウイルス属)がHPSやHFRSの原因ウイルスである。シンノンブレウイルスをはじめとするHPSの原因ウイルスは,HFRSの原因ウイルスがひとつのグループに分類されるのに対して,いわゆる新世界ハンタウイルスに分類される。HPSの原因ハンタウイルスは,血清・遺伝子型の違いによってさらに細分される(表2)。ヒトは,ウイルスを含む排泄物(尿, 便), 唾液により汚染されたほこりを吸い込む(これが最も多い),手足の傷口からウイルスに汚染されたネズミの排泄物、唾液が接触して入る,ネズミに咬まれる等の経路で感染する。ハンタウイルス肺症候群の流行地は表2に示した。

表2.HPSの原因ハンタウイルスの自然宿主,疾患,流行地

血清・遺伝子型によるウイルス名 自然宿主 疾患(死亡率,%) 分布域
シンノンブレウイルス(Sin nombre virus シカシロアシネズミ(Peromyscus maniculatus) HPS(40%) 北米
ニューヨークウイルス(New York virus シロアシマウス(Peromyscus leucopus) HPS(40%) 北米
ブラッククリークカナルウイルス(Black Creek Canal virus アラゲコトンネズミ(Sigmodon hispidus) HPS(40%) 北米
バヨウウイルス(Bayou virus サワコメネズミ(Oryzomys palustris) HPS(40%) 北米
アンデスウイルス(Andes virus オナガコメネズミ(Oligoryzomys longicaudatus) HPS(40%) 南米
ラグナネグラウイルス(Lagna Negra virus ヨルマウス(Calomys laucha) HPS(40%) 南米

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主な臨床像

発熱,悪寒,頭痛,筋肉痛,悪心,嘔吐,下痢および眩暈が出現し,これらの症状に引き続いて,急激に呼吸不全とショックに進行する。

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臨床検査所見

末梢血液検査で,幼弱芽球を伴う白血球増多,免疫芽球(好塩基性細胞質,明瞭な核,高い核-細胞質比)の増多(10%以上),血小板減少,ヘマトクリット上昇が認められる。血清生化学検査では、肝機能障害(GOT,GPT,LDHの上昇)と腎機能障害(BUNやクレアチニンの上昇)を呈する.

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確定診断

  1. ウイルス検出
    1. 末梢血液からのウイルス検出
      急性期から発症後10数日までの患者の単核球細胞やその他の臨床検体からも,RT-PCR法によりウイルス遺伝子が増幅される.しかし,気管支肺胞洗浄液からウイルス遺伝子は検出されない.ウイルス血症の明らかな期間は不明である.(分離,RT-PCR)
    2. 病理学的検出
      免疫組織化学的検査で死亡例の各臓器の血管内皮細胞にウイルス抗原が検出される(感染病理学的抗原検出)
  2. ウイルス抗体の検出(発症時すでに抗体が検出され得る程度に上昇している)
    ELISAや間接蛍光抗体法による急性期と回復期におけるIgG抗体の有意な上昇の確認、もしくは、IgM抗体の検出。

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治療

特異的治療法はなく,対症療法が基本である.HPSが疑われる患者は,可能な限り早期に高度医療施設に搬送する.特に肺浮腫,低酸素血症,低血圧に対する治療が早期に開始されることが重要である.循環管理のための肺動脈カテーテルを挿入し,緻密な呼吸循環管理を行う.膜型人工肺(extracorporeal membrane oxygenation, ECMO)は,重症肺浮腫による呼吸不全の治療に有用である.呼吸管理の他に,循環管理も可能な静脈-動脈間ECMO(venoarterial ECMO)による治療で,循環動態の改善が期待できる.有効な抗ウイルス薬はない.

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予防(ワクチン)

有効なワクチンはない。

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バイオハザード対策

一般的にヒトからヒトへの感染は起こらないが,例外として南米パタゴニアからブラジルにおける Andes virusによる HPS流行時に,ヒトからヒトへの感染が確認されている。ハンタウイルス感染ネズミと接触する機会が増えるような家事,職業,野外活動がハンタウイルス感染症の感染リスクとなる。ネズミが家や職場に営巣しないように衛生環境を改善し,感染ネズミからの分泌物や唾液がエアロゾル化しないように行動する。家や物置などの構造物の中に,食物を置かない,営巣可能な所をなくす,ネズミが出入りできる穴をふさぐ,ネズミ取りや殺鼠剤を用いたネズミの捕獲などの対策が感染予防に有効である。ネズミが営巣していると思われる建物に入る時には,必ず,窓やドアを開けて,外気が入るようにする。建物に入室する時は,激しく動き回らず,ホコリを吸い込まないようにする。ハンタウイルスは,希釈されたブリーチ,洗剤,一般的な消毒液に感受性し,これらで消毒可能である。ネズミが営巣している可能性のある建物の中の汚染されている場所・物品は10%ブリーチ液やその他の消毒液で消毒する。ホウキや掃除機を使ってネズミの営巣場所を掃除しない。捕獲されたネズミや死んだネズミは,10%ブリーチ液に浸けて消毒してから扱う。使用済みのネズミカゴや手袋は,必ず消毒する。実験においてハンタウイルスを扱う場合には,BSL-3実験室で行う。

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感染症法における取り扱い

四類感染症に指定されており、下記の場合、法第12条第1項の規定による届出を直ちに行わなければならない。

  1. 患者(確定例)
    症状や所見から当該疾患が疑われ、上記の検査によって病原体の診断がされたもの。
  2. 無症状病原体保有者
    臨床的特徴を呈していないが、上記の検査により、病原体の診断がされたもの。
  3. 感染症死亡者の死体
    症状や所見から当該疾患が疑われ、上記の検査によって病原体の診断がされたもの。
  4. 感染症死亡疑い者の死体
    症状や所見から、当該疾患により死亡したと疑われるもの。

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参考文献

  1. 有川二郎.ハンタウイルス肺症候群.日本臨床 65増刊号2:126-130, 2007
  2. CDC website: All about hantavirus (http://www.cdc.gov/ncidod/diseases/hanta/hps/)
  3. 国立感染症研究所.感染症の話:ハンタウイルス肺症候群(http://idsc.nih.go.jp/idwr/kansen/k00-g30/k00_256/k00_256.html)

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2012年07月06日 16時09分 改訂