Bウイルス感染症(詳細)

はじめに

アジア産マカク属成サルに咬まれたり,解剖や実験で直接皮膚や粘膜に,サルの唾液や培養細胞が付着したしたりした研究者,技術者,獣医などがまれに感染・発症する。Bウイルス(Cercopithecine herpesvirus 1 )は,アジア産マカク属の霊長類が保有するα-ヘルペス属ウイルスで,ヒトでは単純ヘルペスウイルスや水痘・帯状疱疹ウイルスに相当するウイルスである。中枢神経系に親和性の高いウイルスであることが特徴である。人獣共通感染症のひとつである。

▲TOP

病原体の特徴

Bウイルス。ヘルペスウイルス属のBウイルス(サルヘルペスウイルス,Cercopithecine herpesvirus 1)が病原体で,ヒトの単純ヘルペスウイルス 1型(herpes simplex virus type 1HSV-1)や2型(HSV-2)に類似するエンベロープをもつDNAウイルスである。サルでは無症状もしくは口腔粘膜や皮膚に水疱をつくるだけの軽い疾病だが,ヒトでは感染・発病すると重篤となる。

▲TOP

主な臨床像

3 日~ 3 週間(普通は 1 か月)以内に発症する。アジア産マカク属サルに咬まれたり,引っかかれたりした後,発熱,頭痛,肺炎,神経症状が出現する。ときに傷口に水疱などの皮膚症状が見られることもある。未治療では,発症から 1 日から 3 週間で,8割が脳炎症状により死亡する。死亡しなくても重篤な後遺症が残ることが多い。

▲TOP

臨床検査所見

脳脊髄液での細胞増加と蛋白増加が認められる。MRI では,中枢神経系(視床から上部脊髄にかけて)に異常所見を認めることがある。

▲TOP

確定診断

  1. ウイルス検出による診断
    検査材料は,咽頭拭い液,脳脊髄液,咬傷部・擦過部位の生検組織が適切である。ウイルス分離・同定による病源体の検出が診断の基本となる。ウイルス分離検査は, BSL-3実験室もしくはBSL-4実験室で実施される。また,PCR法による病源体の遺伝子の検出も診断に有用である。
  2. 抗体検出による診断
    検査材料は血清である。検査実施前には,56℃で30分処理の熱非働化処理を要する。ELISA法(ドットブロット法を含む)による抗体検出が一般的である。HSV-1HSV-2とBウイルスの抗原性は交差するので,従来の抗原抗体反応系は使用できない。ウエスタンブロット法,競合的ELISA,中和抗体法を用いて,急性期と回復期における抗体価の有意な上昇を確認する必要がある。ただし我が国では,現在のところBウイルス特異的抗体検出システムは整備されていない。

▲TOP

治療

サルに咬まれた後の発症予防及び治療には,アシクロビル,バラシクロビル(アシクロビルのプロドラッグ),ファミシクロビル,ガンシクロビルが用いられる。発症予防には曝露後2~3時間以内に下記の抗ウイルス剤を投与する。アシクロビル(10mg/kg 8時間ごと)を14日以上投与する。神経症状のある時はガンシクロビル(5mg/kg 12時間ごと)を14日間投与する。抗ウイルス薬は可能な限り早期に投与開始する。
発症予防には,経口バラシクロビル(3g)分3/日あるいは経口アシクロビル(4 g)分5/日を14日間又は検査結果がでるまで投与する。Bウイルス感染が確認された患者では,治療終了後には,Bウイルスの再活性化予防のためにバラシクロビルやアシクロビルの経口投与を継続する。継続期間については結論が得られていない。
治療上の注意:外傷部,結膜,だ液からウイルスが分離されることから,Bウイルス患者の治療の際には必ず手袋をする。また,マスク,眼鏡等により粘膜を保護する。

▲TOP

予防(ワクチン)

有効なワクチンはない。サルに咬まれた後は,直ちに(5分以内),15 分以上よく洗浄することが最も重要である。傷口は石けん又は消毒薬を用いて,目・粘膜は流水を用いて丹念に洗浄する。抗体検査のため,患者の急性期血清を確保する。咬んだサルのウイルス学的検査(抗体検査など)を要する場合もある。
サルがBウイルスを唾液などに排出していることが明らかで,咬まれた傷が深く十分消毒できなかった場合には,予防投与を開始する。ウイルス検査が陽性の場合や,臨床症状(創傷周辺の掻痒,疼痛,しびれなど)が現れた場合には,治療のための抗ウイルス薬投与を開始する。ウイルス検査が陰性の場合は,Bウイルス抗体価を測定し,3週間以上症状が出現しないか注意して経過観察する。
輸入サル,ニホンザルは B ウイルスに感染していて,ウイルスを排出している可能性があるので,防具を着用し,サルを慎重に扱うなど,厳重な予防措置を講じる。

▲TOP

バイオハザード対策

BSL-3(少量培養の場合)またはBSL-4実験室にて扱われる病原体である。

▲TOP

感染症法における取り扱い

四類感染症に指定されており、診察あるいは検案した医師の判断により,下記の場合,法第12条第1項の規定による届出を直ちに行われなければならない。患者を診断した医師は,直ちに指定の届出様式により最寄りの保健所に届け出る

  1. 患者(確定例)
    症状や所見から当該疾患が疑われ,上記の検査によって病源体の診断がされたもの。
  2. 無症状病源体保有者
    臨床的特徴を呈していないが,上記の検査により,病源体の診断がされたもの。
  3. 感染症死亡者の死体
    症状や所見から当該疾患が疑われ,上記の検査によって病源体の診断がされたもの。
  4. 感染症死亡疑い者の死体
    症状や所見から,当該疾患により死亡したと疑われるもの。

▲TOP

参考文献

  1. Centers for Disease Control and Prevention (CDC). Fatal cercopithecine herpesvirus 1 (B virus) infection following a mucocutaneous exposure and interim recommendations for worker protection. MMWR Morb Mortal Wkly Rep 47:1073-6, 1998
  2. Holmes GP, Chapman LE, Stewart JA, Straus SE, Hilliard JK, Davenport DS. Guidelines for the prevention and treatment of B-virus infections in exposed persons. The B virus Working Group. Clin Infect Dis 20:421-39,1995
  3. National B Virus Resource Center(http://www2.gsu.edu/~wwwvir/index.html)

▲TOP

2012年07月15日 14時30分 改訂