黄熱(詳細)

病原体の特徴

黄熱ウイルス(Yellow fever virus)は、エンベロープを有する1本鎖RNAウイルスであり、フラビウイルス科フラビウイルス属に分類される。形態は、直径40-50nmの球状を呈する。(図1

分布は、南米(パナマから南緯15度)、アフリカ・サハラ砂漠以南(北緯15度〜南緯15度)の地域に常在している。(図2)感染数は年間約20万人であり、その90%はアフリカで発生している。死亡例は3万人に達すると推定される2)。

流行型は、都市型(urban yellow fever)と森林型(jungle yellow fever)とに分類され、両者が混在した流行も認める。都市型流行は、Aedes aegyptiに媒介され、ヒトの間で流行する。森林型流行は、アフリカでは、主にA.africanus、南米では、Haemagogus spp.が媒介し4)、主にサルの間で流行するが、時にヒトへの感染を認める。 森林型では、多種のサルの感染が知られるが、症状の程度は多様である。一部のサルは、ヒトと同様に多臓器不全を発症し、致死的な経過をとる。米国CDC(Centers for diseases control and prevention )は、バイオテロリズムに用いられる可能性のある病原体や生物由来の毒素を示しているが、その中で黄熱ウイルスは、将来的に大規模に拡散される可能性があるカテゴリーCに分類されている5)。

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主な臨床像

潜伏期は3-6日であり、臨床経過は、感染期、緩解期、中毒期の3期に分類される2)。感染期では、突然の発熱、頭痛、背部痛、嘔気などの非特異的な症状を呈し、眼球結膜の充血、顔面紅潮、舌の発赤、比較的除脈(Faget徴候)などの所見を認める。
緩解期は、発症後3-4日に症状が軽快する時期を指す。多くの症例は、緩解期に移行した後に治癒に至るが、約15%程度の症例において、次に示す中毒期に移行する。中毒期では、数時間から48時間の緩解期を経た後に、発熱、意識障害、黄疸などの症状が認められ、肝不全、腎不全へと進行する。出血傾向が顕著となり、消化管出血も多く認める。中毒期の症例の約20%~50%が死亡するとされる。病理所見では、肝臓に、肝小葉中心帯の壊死、好酸性変性、脂肪変性が認められ6)、腎臓においても、尿細管上皮に好酸性変化や脂肪変性が認められる。死亡例の多くは、発症後7-10日以内であり、その後は回復傾向を示し、死亡率は著しく低下する。黄熱の発症後に回復した者は、中和抗体を獲得するため、以降の感染に対して免疫を有する。経過中にみられる合併症として、細菌の二次感染による肺炎、敗血症が重要であり、これらが直接の死亡原因となりうる。
鑑別診断として、ウイルス性出血熱(エボラ出血熱、クリミア・コンゴ出血熱、ラッサ熱、マールブルグ病、南米出血熱など)、ワイル病、回帰熱、急性ウイルス性肝炎、マラリアなどがあげられる。

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臨床検査所見

血液検査所見では、白血球減少、貧血、血小板減少を認める。凝固系では、プロトロンビン時間の延長などを認める。生化学検査は、肝不全、腎不全を反映しAST、ALT、ビリルビンの上昇、クレアチニン、尿素窒素の上昇を認める。尿検査では、蛋白尿などを認める。

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確定診断

確定診断には、抗体検査及び抗原検査が実施される。抗体検査では、ELISA法によるIgM抗体の検出、及び急性期及び回復期におけるペア血清による中和抗体価上昇の確認が行われる。抗原検査は、血液または組織を用いた、ウイルス分離、PCR法などが行われる。感染症法により示される検査方法及び検査材料について、以下に示す。(表1)検査の解釈にあたっては、ウイルス血症は、発症後3-4日目まで持続し、中和抗体は、発症後5日目以降に検出される点に留意する必要がある7)。

(表1) 感染症法に示される検査方法
検査方法 検査材料
分離・同定法による病原体の検出 血液
PCR法による病原体の遺伝子の検出
IgM抗体の検出 血清
ペア血清による中和抗体陽転又は中和抗体価の有意の上昇

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治療

特異的な治療法や抗ウイルス剤は存在せず、適切な対症療法が重要である。重症例では、臓器不全を認めることから、人工呼吸管理、血液浄化法を含む集中治療が必要となる8)。また、出血、凝固異常に対して、輸血、凍結新鮮血漿の投与が行われる。消化管出血の可能性が高いと判断される場合には、H2ブロッカーなどの制酸剤の投与が検討される。

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予防(ワクチン)

黄熱にはワクチンが存在し、黄熱ウイルス17D株由来の弱毒生ワクチンが、世界的に使用されている。入国前に、黄熱ワクチンの接種義務付けている国では、接種実施機関で発行される接種証明書(イエローカード)の提示を求められる。また、流行地から非流行地に入国する場合に接種証明書を求められる場合もある。接種証明書の有効期間は接種後10日後から10年間である。国内では、各地の検疫所にて、黄熱ワクチンの接種が可能である。黄熱ワクチンの禁忌を以下に示す。(表2)

(表2)黄熱ワクチンの禁忌 9)より引用

  • 9か月未満の小児への定期接種(流行地域における6か月未満の小児への接種)
  • 妊娠女性(アウトブレイクにより感染の危険が高い場合を除く)
  • 卵タンパクへの重篤なアレルギーを有する者
  • 症候性のHIV/AIDSまたは他の原因による重篤な免疫不全、または胸腺疾患を有する者

黄熱ワクチンには、非常にまれであるが、重篤な副反応が報告されており、黄熱病ワクチン関連内臓向性疾患(yellow fever vaccine associated vicerotropic disease; YEL-AVD)、黄熱病関連神経向性疾患(yellow fever associated neurotorpic disease)YEL-ANDが知られている2)。YEL-AVDの症状は、黄熱の症状と非常に類似しているとされる。これらの副反応への確立された対策はないが、YEL-AVD発症例において、200-300mg/日程度のstress-dose のステロイド投与の有用性を示す報告がある10)。
また、輸血を介したワクチン株の感染が示唆される事例があり、ワクチンを接種された者には、接種後の一定期間は、輸血製剤のドナーとならないように指導することが必要である11)。米国からの、複数例の黄熱ワクチンによる副反応の報告があり、その中からYFV-AVD、および、YFD-ANDの一症例を提示する12)。

  • 黄熱病ワクチン関連内臓向性疾患(YFV-AVD)症例
    2002年3月28日に、70歳男性がベネズエラへ渡航に備え、黄熱ワクチンを接種した。ワクチン接種5日後に、発熱、呼吸困難、筋肉痛、及び倦怠感が出現した。さらに3日後に発熱、血小板減少、肝酵素・ビリルビン・クレアチニンの上昇を認めたため、入院加療となった。入院後、血圧低下を認め、呼吸不全のため気管内挿管が行われた。低ナトリウム血症が進行し、腎不全のため血液透析が必要となった。血液及び尿培養では、細菌、真菌及びウイルスは検出されなかった。入院後21日、25日、33日に採取された血清と、26日に採取された胸水からは、フラビウイルスのプライマーを用いたPCR法(TaqMan™)及びウイルス培養はいずれも陰性であった。入院後26日に採取された血清にて、中和抗体価1:1280となった。入院後41日目に回復し退院となった。
  • 黄熱病関連神経向性疾患(YFV-AND)症例
    2002年5月17日に、16歳男性が南アフリカへの渡航のため黄熱ワクチンを接種した。その23日後に、左腕の感覚障害、発語不能、右半身の巧緻運動障害、言語性失語、重度の構語障害が現れた。頭部MRIでは、びまん性、両側性の白質病変を認めた。髄液所見は正常であった。ワクチン接種後26日の髄液では、黄熱ウイルス特異的IgM-capture ELISA法にて陽性を示した。髄液を用いて、フラビウイルスのプライマーによるTaqMan™とウイルス細胞培養が実施されたが、いずれも陰性であった。ロッキーマウンテン紅斑熱、単純ヘルペスウイルス、多発性硬化症、SLE、自己免疫疾患、及び代謝性酵素欠損症に対して行われた検査はいずれも陰性であった。コロラドダニ熱のRT-PCR法は陰性であった。発病4か月後の血清では、黄熱ウイルスの中和抗体は認めなかった。髄液培養からは、細菌、真菌は検出されなかった。経過中に発熱は認めず、3日間の入院の後に退院した。

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バイオハザード対策

患者の隔離

通常、ヒトからヒトへの感染はなく、黄熱ウイルスを媒介する蚊が国内に生息していないことから、標準予防策により対応が可能である。しかし、黄熱ウイルスを媒介する蚊が存在する地域では、患者が感染源となりうるため、少なくとも発症後5日間は、蚊との接触を避けるための隔離が必要となる。また、感染拡大防止の観点から、患者発生地域における疫学調査が必要となる。13)

検体、菌、汚染器材等の取り扱い

黄熱ウイルスは、感染症法にて4類病原体に指定されており、その取り扱いには、施設基準、保管、使用、運搬、滅菌などに関する基準の順守が必要である。ウイルスを取り扱う実験室は、BSL3以上であることが求められている。

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感染症法における取り扱い

感染症法では、4類感染症に分類される。患者及び無症状病原体保有者は、感染症法第12条第1項、感染症死亡者及び感染症死亡疑い者は感染症法第12条第4項により直ちに保健所への届出を行わなければならない。

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参考文献

  1. CDC public health image library http://phil.cdc.gov/phil/
  2. Elizabeth D. Barnett. Yellow fever: Epidemiology and prevention. CID 2007; 44: 850-6
  3. CDC Yellow fever Global Map http://www.cdc.gov/ncidod/dvbid/yellowfever/YF_GrobalMap.html
  4. Pedro N. Acha, et all. Yellow fever. Zoonoses and communicable disesase common to man and animals. 3rd Edition. Volume 2. Chlamydioses, Rickettsioses, and viroses. PAHO 2003. p377-387
  5. Bioterrorism overview. CDC www.bt.cdc.gov/bioterrorism
  6. Quaresma JA at al. Reconsideration of histopathology and ultrastructural aspects of the human liver in yellow fever. Acta Trop 2005; 94: 116
  7. Susan Robertson. The immunological Basis for immunization series. Module 8: Yellow fever. WHO 2006.
  8. Raul E Isturiz, et al. Global distribution of infectious diseases requiring intensive care. Crit Care Clin 2006; 22: 469-488
  9. WHO yellow fever http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs100/en/
  10. Claudia Vellozzi, et al. Yellow fever vaccine-associated vicerotropic diseases(YEL-AVD) and corticosteroid therapy: eleven United States cases, 1996-2004 Am J Med Hyg 2006; 75: 333-336)
  11. Transfusion-related transmission of yellow fever vaccine virus-California, 2009. MMWR 59;2: 34-37
  12. Adverse events associated with 17D-derived yellow fever vaccination- United States, 2001-2002. MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 2002 ;51:989-93.
  13. Fatal yellow fever in a traveler returning from Amazonas, Brazil, 2002. MMWR 2002; 51: 324-5.

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2012年07月15日 14時41分 改訂