発疹チフス(詳細)

病原体の特徴

発疹チフスの病原体は、細胞内でのみ増殖する発疹チフスリケッチア(Rickettsia prowazekii)である。世界中に分布しているが、近年はアフリカの高地帯や中南米からの報告が多く、1990年代以降ではブルンジの内戦に伴うもの、ロシアやペルーでの小規模なアウトブレイク、北アフリカやフランスでの散発例などがある1)2)3)4)5)。寒冷や衛生状態の悪化が流行と関連しており、戦争や貧困などの社会的悪条件の下で流行することが多い。第2次世界大戦以降その数は大きく減少したが、近年は再興感染症として再び注目されている。我が国では戦後まもなくに大規模な流行を認めたが、1957年の1例を最後に発生は認めていない。媒介生物は主にシラミ(Pediculus humanus corporis)であり、糞便中に病原体が大量に含まれている(図1)。また、ダニやムササビの1種(Glaucomys volans)が自然宿主として関与しているという報告もある6)7)。
感染経路は主に、シラミの体液やその糞便により刺咬部位や傷口が汚染されることによるが、エアロゾルとなったシラミやムササビの糞便を大量に吸入することにより、経気道的に感染することもある。患者を吸血して感染したシラミは、2~6日間糞便中にリケッチアを排泄してまもなく死亡するが、体内のリケッチアは死後も数週間感染性を持ち続ける。
発疹チフスリケッチアは、乾燥した糞便内での安定性と、旧ソ連が1930年代に生物兵器として研究を行なっていた可能性があることから、CDCはバイオテロが考えられる病原体としてカテゴリーBに分類している8)。

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主な臨床像

潜伏期は6~15日(通常は10~14日)である。倦怠感が先行して認められ、その後急激に強い頭痛と悪寒を伴う39℃以上の発熱が出現する。特徴的な発疹は発熱して2~5日後に腋窩などの体幹上部に出現し、徐々に四肢に拡がっていく。軟口蓋や結膜に認めることもあるが、顔面や手掌、足底には見られないことが多い。発疹は融合傾向のない紅斑から始まり、徐々に点状出血を伴う紫斑へと変わっていく (図2)。
意識状態の悪化、せん妄、昏睡、痙攣、難聴などの中枢神経症状を伴うことがあり、発熱して5~6日後から始まることが多い。また、咳嗽などの呼吸器症状を38~70%に認めるとの報告があり、肺病変を伴っていることがある9)。その他の非特異的な症状として、倦怠感、食欲不振、腹痛、強い筋肉痛や関節痛に伴う蹲踞姿勢などがある1)。脈拍数は腸チフスと異なり頻脈となる。
死亡率は、未治療の場合で最大60%と推定されていたが、適切な抗菌薬投与が行われた場合は4%程度であると考えられている。60歳以上の高齢者が最も死亡率が高い10)。
発疹チフスは再発例が知られており、Brill-Zinsser病という11)。組織に持続感染していたRickettsia prowazekiiの再活性化により、初感染から数年後に発症することがある。一般に発疹チフスと比較して軽症かつ死亡率も低いが、媒介生物を介した新たな感染源となり得る。
鑑別診断は、リケッチアが病原体となる発疹熱(Murine typhus)、ロッキー山紅斑熱(Rocky mountain spotted fever)を代表とする各種紅斑熱群リケッチア症、スピロヘータ科のボレリアが病原体となる回帰熱(Relapsing fever)、レプトスピラ症、腸チフス・パラチフス、Q熱(Q fever)などが挙げられる。発疹チフスの軽症例では、発疹熱との鑑別は難しい。

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臨床検査所見

血液生化学検査

抹消血における赤血球数、ヘモグロビン量の減少。白血球は第一病週やや減少、第2~3病週にやや増加、好酸球は消失またはほとんど見られなくなる。髄液では液圧軽度上昇、細胞数、蛋白、糖がやや増加。重症例で血清尿窒素の上昇。血清トランスアミナーゼ(GOT,GPT)は病初期より上昇する12)。

画像検査その他

胸部単純X線写真で、一次性肺病変や二次性細菌性肺炎を認めることがある。

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確定診断

  • 血清学的診断法

間接蛍光抗体法、Weil-Felix反応などがある。間接蛍光抗体法はWeil-Felix反応と比べて感度および特異度が高いことが利点であるが、病初期に有効でないこと、Brill-Zinsser病は最初からIgG抗体の上昇が見られること、発疹熱との鑑別が出来ないことなどが問題となる。Weil-Felix反応はプロテウス菌OX19およびOX2が陽性となり、簡単に施行可能なことが利点であるが、病初期には有効でないこと、Brill-Zinsser病の場合は通常陰性となること、感度および特異度が低いことなどが問題点である。また現在、国内では抗原供給から実施施設が限られている。他に、補体結合法や酵素抗体法が行われることもある。

  • 分子生物学的診断

PCR法やreal-time PCR法がある。これらは血液やシラミを検体として施行し、迅速で特異度が高く、Rickettsia prowazekiiの特定が可能である。

検体の採取、輸送、保存など

病原体分離や分子生物学的診断を行なう場合は急性期の血液検体を、血清学的診断を行なう場合は急性期と回復期の血清検体を採取する。血液及び血清検体は冷蔵して輸送する。また、保存する際は-80℃で凍結する。

微生物学的検査法

最も信頼性が高いのは病原体分離であるが、発疹チフスリケッチアはリスクグループ3に分類されており、バイオセーフティーレベル3以上の実験室が必要となるため、一般に行なうことは難しい。

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治療

薬物療法(抗菌薬療法)

テトラサイクリン系抗菌薬が第一選択薬であり、薬剤過敏症などで使用出来ない場合はクロラムフェニコールが代替薬となる。代表的な投与例は、ドキシサイクリン200mg/日を5日間、ないしは解熱後2~4日間投与する。いずれの薬剤も短期間で効果を認めるため、治療開始後48~72時間以内で反応が見られない場合は別の疾患を鑑別する必要がある。また、治療の遅れは重症化を招くため、原因不明の発熱患者で本疾患を疑う場合は速やかに治療を開始するべきである。その他の抗菌薬については、ニューキノロン系抗菌薬は治療失敗による死亡例の報告もあり、in vitroでの感受性に関わらず使用を避けるべきである13)。セフェム系抗菌薬は無効である。Brill-Zinsser病の治療は、発疹チフスと同様である。

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予防(ワクチン)

世界的には弱毒生ワクチンや不活化ワクチンが開発されているが、ワクチン需要などから市場に広く出回っているものはない。また、我が国でも使用可能なワクチンは存在しない。シラミが発生しないよう衛生環境に注意することが重要である。

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バイオハザード対策

患者の隔離

発疹チフスの感染経路として、ヒトからヒトへの直接感染の報告はない。そのため、陰圧環境の個室隔離は必ずしも必要としないが、媒介生物であるシラミの駆除という視点からは個室管理を考慮する。

検体、菌、汚染器材等の取り扱い

感染拡大防止に最も重要なことは、媒介動物であるシラミの駆除である。患者からシラミを取り除くには、入浴して衣服を新しいものに取り替える必要がある。汚染した可能性がある器材などは、焼却ないしはオートクレーブで滅菌を行なう。オートクレーブが困難な器材や院内環境は、殺虫剤として10%DDT、1%マラチオン、1%ペルメトリンなどが有効とされているが、国内で使用出来ないものもある14)。

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感染症法における取り扱い

発疹チフスは感染症法で四類感染症に分類されており、診断後は直ちに最寄りの保健所に届出が必要である。届出の要点としては、診察あるいは検案した医師の判断で、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ前述の検査により病原体の診断がなされた場合となる。

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参考文献

  1. Raoult D, Ndihokubwayo JB, Tissot-Dupont H, et al. Outbreak of epidemic typhus associated with trench fever in Burundi. Lancet 1998; 352: 353-58.
  2. Tarasevich I, Rydkina E, Raoult D. Outbreak of epidemic typhus in Russia. Lancet 1998; 352: 1151.
  3. Raoult D, Birtles RJ, Montoya M, et al. Survey of three bacterial louse-associated diseases among rural Andean communities in Peru: prevalence of epidemic typhus, trench fever, and relapsing fever. Clin Infect Dis 1999; 29: 434-36.
  4. Mokrani K, Fournier PE, Dalichaouche M, et al. Reemerging threat of epidemic typhus in Algeria. J Clin Microbiol 2004; 42: 3898-900.
  5. Brouqui P, Stein A, Dupont HT, et al. Ectoparasitism and vector-borne diseases in 930 homeless people from Marseilles. Medicine(Baltimore) 2005; 84: 61-68.
  6. Burgdorfer W. Possible extrahuman reservoirs of Rickettsia prowazekii: ticks, International symposium on the control of lice and louse-borne diseases. Seminal publication edn. Washington, DC: PAHO-WHO, 1972: 109-12.
  7. Bozeman FM, Masiello SA, Williams MS, et al. Epidemic typhus rickettsiae isolated from flying squirrels. Nature 1975; 255: 545-47.
  8. Berns KI, Atlas RM, Cassell G, et al. Preventing the misuse of microorganisms: the role of the American Society for Microbiology in protecting against biological weapons. ASM News 1998; 64: 383-89.
  9. Bechah Y, Capo C, Mege JL, et al. Epidemic typhus. Lancet Infect Dis 2008; 8:417-26.
  10. Cowan G. Rickettsial diseases: the typhus group of fevers–a review. Postgrad Med J 2000; 76: 269-72.
  11. Lutwick LI. Brill-Zinsser disease. Lancet 2001; 357: 1198-200.
  12. Raoult D, Woodward T, Dumler JS. The history of epidemic typhus. Infect Clin Dis North Am 2004; 18: 127-40.
  13. Zanetti G, Francioli P, Tagan D, et al. Imported epidemic typhus. Lancet 1998; 352:1709.
  14. Raoult D, Roux V. The body louse as a vector of reemerging human diseases. Clin Infect Dis 1999; 29: 888-911.

関連情報サイト

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2012年07月15日 15時02分 改訂