No.18009 沖縄県における麻しんの流行について

[ 詳細報告 ]
分野名:ウィルス性感染症
衛研名:沖縄県衛生環境研究所
報告者:企画管理班 伊波善之
事例終息:事例終息
事例発生日:2018/03/20
事例終息日:2018/06/11
発生地域:沖縄本島を中心とする県内全域
発生規模:健康観察対象者5,589名、検査実施対象者578名(本衛生研究所実施分)、麻しん患者101名
患者被害報告数:101名
死亡者数:0名
原因物質:麻しんウイルス
キーワード:麻しん、外国人観光客、沖縄県

概要:
2018年3月17日、台湾から麻しんを発症し感染力のある状態の観光客が来県、以後3日間にわたり沖縄本島内を観光し、観光先の従業員や居合わせた者等に感染した。更に、これら二次感染者を感染源とする職場感染、院内感染及び家族内感染などで感染は広がり、最終的には、県内全保健所からの発生報告、四次感染例まで確認され、計101人の麻しん患者が発生した。
同年5月11日に医療機関を受診した患者を最後に4週間、新たな患者が発生しなかったことから6月11日、流行終息宣言に至った。
また、流行中の本県を旅行した者がその後麻しんを発症し、帰省先にて初発例となった流行が他県でみられるなど、近年の国内の流行規模としては最大となった。

背景:
我が国において麻しんは排除状態にあるが、外国で感染した後、国内で麻しんを発症し、流行に至る事例が全国的に散発している。本県においては、入域外国人観光客数が増加傾向にある中、本県のMRワクチンの定期接種率の低さもあって、以前から外国人観光客を感染源とした輸入例による麻しん患者の発生と流行は懸念されていた。

地研の対応:
病原体検査について、麻しんと疑われる患者の確定診断のため、医療機関から依頼があった場合は全てPCR検査を行い、更に必要に応じて遺伝子検査も行った。また、同所内にある地方感染症情報センターは、一般利用者向けの麻しん流行状況について、WEBサイトを通して情報提供した。

行政の対応:
保健所は、麻しん患者や接触者等に対する積極的疫学調査や、医療機関から県衛生研究所への検体搬送を行った。県庁感染症対策担当課では、マスコミ対応をはじめ、生後6ヶ月から12ヶ月未満児への緊急予防接種に係る費用助成制度の実施(費用の半額を助成、対象者の約68%が利用)、沖縄県に来県する予定の方向けの麻しん対策に係る一問一答の作成、医療従事者向けの流行状況に係る情報発信を行った。県観光振興担当課では来県する予定の方向けの電話相談窓口を開設した。

原因究明:
本県衛生研究所にて初発患者の遺伝子検査を実施したところ、遺伝子型はD8と判明、当該患者の行動歴を踏まえると、来県直前の渡航先であるタイでの感染が推定された。

診断:
検体は、咽頭拭い液、血液(血清)、尿を用い、麻しん疑い578症例についてコンベンショナルPCRまたはリアルタイムPCRを実施した。その結果、109例がPCR陽性であった。そのうち麻しん確定例は95例であり,残り14例はワクチン株によるものであった。遺伝子検査(シーケンス)は、麻しん確定95例のうち,16例について実施した。コンベンショナルPCRのnested PCR用プライマーを用い塩基配列を決定し、近隣結合法にて系統樹解析を行った。検査はすべて病原体検出マニュアル(国立感染症研究所)に従い実施した。

地研間の連携:
特記事項なし

国及び国研等との連携:
行政対応について、国立感染症研究所感染症疫学センター職員から助言を得た。

事例の教訓・反省:
麻しん流行のピーク時における、保健所の積極学的疫学調査や行政検査のための検体回収・搬送や、県衛生研究所における病原体検査などサーベイランス体制の維持に困難が生じた。

現在の状況:
本事例を通した課題等を踏まえ、主に流行時における効率的なサーベイランス体制に関して、本県実施要領及び対応マニュアルの見直しを予定している。

今後の課題:
流行予測の見極めや、感染力が比較的低いとされる修飾麻しん患者やワクチン接種歴のある患者への対応など、限られた人員のもと、流行のステージや規模に応じたエビデンスに基づく効率的なサーベイランス体制の構築が求められる。また、MRワクチンの定期予防接種率の向上や、成人の未接種者へのワクチン接種の勧奨に係る取り組みが引き続き必要である。

問題点:
特記事項なし

関連資料:
特記事項なし