【疫学情報】 IDSC:新型インフルエンザの診断ガイダンス(09/9/1)国立感染症研究所感染症情報センター2009/09/04

2009年9月1日
新型インフルエンザA(H1N1)の診断ガイダンス

国立感染症研究所感染症情報センター

診断の基本的な考え方

新型インフルエンザA(H1N1)は、診断過程において臨床症状や身体所見から季節性インフルエンザとの鑑別は不可能である。また、下記に述べているようにいわゆる迅速診断キットの性能は病原診断として完璧なものではないという認識を持って使用すべきものである。RT-PCR検査はより性能が高いものであるが、日常的な検査法でないことは言うまでもない。

新型インフルエンザA(H1N1)の診断においては、地域や職場、家庭内、学校における流行の状況ならびに有症状者との接触の有無、程度を勘案し、迅速診断キットの結果にかかわらず、臨床的な総合診断を中心にするという診療スタンスが望ましい。また、インフルエンザ以外の発熱や呼吸器症状をきたす疾患である可能性についても常に念頭に置く必要がある。

迅速診断キット

迅速診断キットは感度がそれほど高くはないため、その結果が陰性でもインフルエンザ感染を否定することはできない。米国からの報告では新型インフルエンザA(H1N1)に対する感度は40~69%とされている1)。国内では、2009年5月の神戸・大阪での調査から53.5~77%と報告されている2,3)。検査結果に影響を与える要因としては、発症から検体採取までの期間、検体採取部位、年齢、メーカーによる違いなどが考えられている。発症翌日に検体が採取された場合に感度が高いとされているが、それでも40~80%程度である2,3)。発症当日や発症後数日以降に採取された場合はさらに感度が下がる。採取部位による違いに関して新型インフルエンザA(H1N1)でのデータはないものの、季節性インフルエンザでは鼻腔からの検体採取が勧められている4)。小児では、成人よりも感度が若干高いかもしれない。特異度に関しての十分なデータはないものの、ある程度高いものと考えられている。米国CDCが示す迅速診断キット使用のアルゴリズム5)を図に示す。

無症状者に対して迅速診断キットを使用した場合には、その意結果が陽性であってもその意義は不明であり、また陰性であっても今後の発症を保証するものではなく、臨床上の有用性はほとんどない。

RT-PCR検査

診断のゴールデンスタンダードと考えられているRT-PCR検査であるが、横浜市衛生研究所からの報告6)にあるように、RT-PCR検査が陰性であってもウイルスが分離された症例が複数認められている。また、米国では、複数回にわたりRT-PCR検査が提出されて初めて診断のついた症例も経験されているとのことである。検体採取時や保存時の条件等により、RT-PCR検査が偽陰性を示す可能性があることに留意すべきである。RT-PCR検査に要する費用や検査スタッフの負担も決して小さくはないため、施行する際にはその必要性を充分検討するとともに、治療方針の決定は、検査結果のみにとらわれることなく、包括的な臨床診断によるべきである。

詳細については、下記のページをご覧ください。
http://idsc.nih.go.jp/disease/swine_influenza/2009idsc/diagnosis0902.html