『保健医療科学』 2021 第70巻 第4号 p.337(2021年10月)
特集:子どもへの虐待のない社会の実現に向けて―児童虐待予防に向けた課題と戦略―<巻頭言>
子どもへの虐待のない社会の実現に向けて―児童虐待予防に向けた課題と戦略―
大澤絵里
国立保健医療科学院国際協力研究部
Toward the realization of a society free of child abuse:
Challenges and expected strategies for preventing child abuse
OSAWA Eri
Department of International Health and Collaboration, National Institute of Public Health
<巻頭言>
児童虐待相談対応件数は,平成2(1990)年度に統計が開始されて以来,増加の一途をたどっている.平成12(2000)年に児童虐待防止法が制定され,その後も多くの関連法が改正されてきた.昨今では,令和元(2019)年の児童福祉法改正による子どもへの体罰禁止,民法の改正による特別養子縁組制度に関する改正,また平成28(2016)年には,児童福祉法および母子保健法が同時に改正となり,家庭養育原則とし,地域や施設での対応について示された.子どもを中心として児童虐待防止の対応には,保健医療専門家,福祉専門家,教育専門家,法律専門家など多くの専門家のかかわりが必要であり,今後も多職種多機関のつながりや連携は必須である.
本特集号では,児童虐待防止に関連した法律の理解のために,昨今の児童虐待防止に関わる法律改正を中心に,過去からの法律の変遷を概説した.人材の視点として,地域で児童虐待防止に関わる保健医療の代表職である保健師の児童相談所への配置に対して,その期待される役割について示し,福祉職の代表職である児童福祉司の国会資格化も含めた今後の資質向上のための望ましいあり方を提示した.人材育成に関しては,本院で令和元(2020)年度より始めている福祉職,保健医療職を対象にした児童虐待防止に関わる研修の合同実施について報告している.また社会や地域で虐待を受けた子どもの受け入れや児童虐待予防のしくみづくりに関連して,今後必要とされる社会的養育システムの構築や,自治体における児童虐待予防の対応のしくみに対する課題と展望を概説した.本特集号では,上述の通り,児童虐待防止に対して多職種多機関での視点やその対応が必要であるという基本姿勢に則り,子どもへの虐待のない社会の実現に向けて,それぞれの専門家の視点で,現在,児童虐待防止のための施策をとりまく現状や今後期待されることについて,概説いただいた.
児童虐待防止に関わる多くの関係者の皆さんにとって,本特集号で取り上げた多様な視点での議論が,それぞれの立場において,医療・保健・福祉・社会との連携による児童虐待防止の活動の推進のための参考となれば幸いである.