No.21004 ハシリドコロによる食中毒疑い事例

分野名:自然毒等による食中毒
衛研名:長野市環境衛生試験所
報告者:食品検査担当 寺島 園子
事例終息:事例終息
事例発生日:2021/05/10
事例終息日:2021/05/25
発生地域:長野県長野市
発生規模:
患者被害報告数:3名
死亡者数:0名
原因物質:アトロピン スコポラミン
キーワード:植物性自然毒、ハシリドコロ、アトロピン、スコポラミン、LC-MS/MS 

概要:
令和3年5月10日、一般家庭において、友人からもらった植物を味噌汁の具として夕食に喫食した。同日午後11時頃から口渇、下痢等を呈し、うち1人は5月11日午前1時30分頃に意識不明となり救急搬送された。 5月14日午後2時15分頃、市内医療機関から長野市保健所に有毒植物の喫食による食中毒の疑いのある患者が搬送された旨の連絡があったことから調査を開始した。喫食残品はなかったため、後日同一場所で採取された植物を鑑別したところ、ハシリドコロと同一の形状をしていた。この植物をLC-MS/MSを用いて検査を実施した結果、アトロピン及びスコポラミンを検出した。

背景:
ナス科の植物であるハシリドコロは、アトロピン及びスコポラミン等のトロパン系アルカロイドを含有しており、摂取すると呼吸困難、意識混濁、幻覚等の中毒症状を呈する。芽生えをフキノトウ、柔らかい葉をギボウシ等と誤認され、食中毒原因植物の一つとされている。

地研の対応:
5月18日、ハシリドコロに含有するアトロピン及びスコポラミンの定性・定量試験を実施した。

行政の対応:
採取された植物の調査結果及び当所における定性・定量試験の結果より、当該原因植物はハシリドコロである可能性が高いと推察された。しかしながら、同一場所で採取した植物が喫食した植物と同一である旨の確定ができなかったこと等から食中毒事例とは判断できず、調査は終了となった。患者には同一場所で採取した植物はハシリドコロである旨を伝え、今後は採取しないよう譲渡者への伝達を依頼した。

原因究明:
5月17日午後4時頃、喫食した植物と同一場所で採取された植物の一部が保健所に持ち込まれた。この植物を鑑別したところハシリドコロと形状が酷似していたことから、この植物が食中毒の原因と考えられた。 5月18日、この植物を検査検体として当所へ依頼があった。

診断:
検体を葉、茎及び実に分け、LC-MS/MS法にて定量分析した結果、アトロピン160~170μg/g、スコポラミン11~30μg/gをそれぞれ検出した。

地研間の連携:
なし
国及び国研等との連携:
なし

事例の教訓・反省:
なし

現在の状況:
これまでに検査経験のある自然毒の標準品は在庫している。

今後の課題:
自然毒食中毒発生事案に備えた標準品の確保や分析法の検討、作業手順書の整備が必要である。

問題点:
標準品の有効期限の考慮、行政機関との情報共有

関連資料:
厚生労働省HP 自然毒のリスクプロファイル

ページの先頭へ戻る