No.21007 苦みの強いユウガオによる食中毒

分野名:自然毒等による食中毒
衛研名:長野県環境保全研究所
報告者:食品・生活衛生部 土屋としみ
事例終息:事例終息
事例発生日:2020/07/09
事例終息日:2020/07/11
発生地域:長野県北安曇郡
発生規模:
患者被害報告数:2
死亡者数:0
原因物質:苦みの強いユウガオ
キーワード:ユウガオ、ククルビタシン類、ククルビタシンB、ククルビタシンD

概要:
  管轄する保健所の調査によると、患者は販売所でユウガオを購入し、自宅で食べた1グループ2名中2名(70代男女)。  2020年7月9日、販売所でユウガオを購入し、同日午後0時30分頃に調理して食べたところ、強い苦みを感じ、約30分後から嘔吐、下痢などの症状を呈した。なお、ユウガオの調理品(薄くスライスした炒め物)を喫食した際、患者は今までにない苦さを感じたとのことであり、1名は3~4切れ、もう1名は7~8切れを喫食した後、残りを廃棄していた。  7月10日ユウガオを食べて下痢、嘔吐等を呈した患者2名を診察した旨、医師から保健所に報告が入った。  患者の症状はユウガオの苦み成分(ククルビタシン類)による症状と一致していた。  7月11日患者を診察した医師から食中毒の届出があった。  7月11日患者が退院後、購入したユウガオ(調理前)の残品の確認と官能検査を保健所食品衛生監視員が行ったところ、強い苦みを感じた。また同日、検体を研究所に搬入した。

背景:
 ユウガオやズッキーニなどのウリ科植物は広く食用として栽培されているが、苦味成分であるククルビタシン類が含まれていることが知られている。このククルビタシン類を多量に含むウリ科植物を喫食することで腹痛、下痢、嘔吐などの症状を引き起こすケースがあり、まれに食中毒事例が報告されている。長野県では2019年度にも苦みの強いユウガオによる食中毒が2件発生した。

地研の対応:
 県及び保健所の依頼により、速やかにHPLCによるククルビタシンB及びDの定量と、薄層クロマトグラフによる確認試験を行った。   患者の購入したユウガオ(調理前)残品1検体、生産者の畑から採取した別のユウガオ2検体の計3検体の検査を実施した結果、ククルビタシンBが530~960µg/g検出された。

行政の対応:
 保健所で患者及び生産者の聞き取り調査を行い、検体を研究所に搬入した。  販売所に対し、食品衛生法第6条第2号違反として、自主回収の指導、生産者による出荷前の定期的な官能検査の実施、購入者に対する注意喚起の徹底等の行政指導を行った。  2020年7月11日プレスリリースを行い、事例の公表を行った。

原因究明:
   食中毒原因食品と推定された患者の購入したユウガオ(調理前)残品1検体、生産者の畑から採取した別のユウガオ2検体の計3検体が搬入された。喫食残品は廃棄され、入手できなかった。  3検体の果肉部分を少量スライスし、当所で複数名による官能検査を実施したところ、全員が3検体全てで強い苦みを感じた。  ウリ科植物のククルビタシン類による食中毒は広く知られており、当所ではククルビタシンBとDの標準品を持ち合わせていたため、これらをターゲットに分析した。  また患者が調理の際どの程度皮や種子等を除いているか不明であったため、定量には皮ごと縦割りにして、その一部を全量粉砕均一化し検体とした。  HPLCによる定量により、ククルビタシンBが患者の購入したユウガオ(調理前)残品から680µg/g検出された。また、生産者の畑から採取した別のユウガオ2検体は530µg/g及び960µg/g検出された。また全ての検体からククルビタシンDの微量ピークも認められた。  薄層クロマトグラフによる確認試験では、ククルビタシンBのスポットが全ての検体で確認されたが、ククルビタシンDのスポットは確認できなかった。  ウリ科植物による食中毒等事例でククルビタシンBを原因物質のひとつと推定している文献では74~468µg/gを調理残品から検出しているが、摂取量が明確でないためヒトの中毒量は不明である。

診断:
ユウガオの炒め物による食中毒(推定)

地研間の連携:
なし

国及び国研等との連携:
なし

事例の教訓・反省:
なし

現在の状況:
なし

今後の課題:
販売所の陳列場所には、苦みの強いユウガオに関する注意喚起のポップが以前から設置されていたが、患者はポップに気づいていなかった。 ユウガオやズッキーニなどは外観からククルビタシン類の含有を判断できないため、生産者、販売者および消費者に対して「調理前に味見して強い苦みがあれば食べない」「喫食時に普段とは違った強い苦みを感じた場合は食べない」という知識の普及が必要である。 関係機関と連携し、喫食量から推定した摂取量の蓄積を進める必要がある。また、自然毒の標準品は市販されていない、あるいは高額であるため、その確保が課題となる。

問題点:
ククルビタシンBが960µg/g検出された苦みの強いユウガオの果実を冷凍保存し、後日、皮、皮~果肉、果肉、胎座(わた)、種子に分けて分析した。 その結果ククルビタシンBの含有量は皮で450 µg/g 、皮~果肉で280 µg/g 、果肉で250 µg/g、胎座(わた)で5750 µg/g、種子で980 µg/g検出された。 果肉が最も低く、胎座(わた)が最も高い結果となり、20倍以上の差となった。 一般的に調理では皮や種子は除かれ、果肉が使用されるが、胎座(わた)の部分が混じる可能性がある。そのため分析値と実際に喫食したものとは相関が取れない可能性がある。

関連資料:
1) 山口瑞香ら,ヒョウタンによる食中毒事例について,大阪府立公衆衛生研究所研究報告,52,41-43(2014)  
2) 吉岡直樹ら,観賞用ヒョウタンによる中毒の原因物質と推定される苦味成分ククルビタシンBの分析,兵庫県立健康生活科学研究所 健康科学研究センター研究報告,8,26-29(2017)  
3) 田中佳代子ら,苦情事例におけるヘチマ中のククルビタシンの検査について,杉並区衛生試験所年報,34,40-42(2016)

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