保健医療科学 最近の薬事行政の話題と改正GMP省令について

『保健医療科学』 2022 第71巻 第2号 p.113-114(2022年5月)
特集:最近の薬事行政の話題と改正GMP省令について<巻頭言>

最近の薬事行政の話題と改正GMP省令について

寺田宙

国立保健医療科学院生活環境研究部

Revised GMP Ministerial Ordinance and current topics on regulations of pharmaceuticals and medical devices in Japan

TERADA Hiroshi

Department of Environmental Health, National Institute of Public Health

 

 医薬品と医療機器は人の生命や健康に直接かかわるものである.依然として世界的に猛威を振るっている新型コロナウイルス感染症に対してもワクチンは重症化リスクの低減に大きく貢献し,人工呼吸器や体外式膜型人工肺は重症患者の治療に不可欠なものとなっている.一方,医薬品と医療機器は時に重篤な健康被害をもたらす.過去には医薬品によるサリドマイド事件やスモン事件,医療機器ではヒト乾燥硬膜によるプリオン感染等,数々の薬害が繰り返され,多数の健康被害が発生した.これら医薬品,医療機器等の規制と適正を図ることを目的として制定されたのが薬事法である.薬事法は1960(昭和35)年の制定後,上述の薬害の教訓等を踏まえて幾度も改正され,2013(平成25)年に現在の「医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全性の確保等に関する法律」(薬機法)に改称された. さらに,2019(令和元)年には国民のニーズに応える優れた医薬品,医療機器等をより安全・迅速・ 効率的に提供すること等を目的として大改正が行われた.
 医薬品の品質を確保するためには品質試験で規格に適合していることを確認するだけでは不十分で,原料の受け入れから出荷までの全工程において組織的な管理を行う必要がある.このような医薬品を製造するための要件をまとめたものがGMPであり,国内の製造所はGMP省令を遵守しながら医薬品の製造を行わなければならない.しかしながら,2015(平成27)年のワクチンメーカーによる不正製造事案以降,GMP省令を大きく逸脱した事案が相次いで発覚している.2020(令和2)年の事案では 経口抗真菌薬に睡眠薬が混入し,意識消失や記憶喪失,ふらつき等の健康被害の他,因果関係は不明 であるものの死亡事例も報告されている.その後も後発医薬品メーカーを中心に品質問題が続発しており,供給停止や出荷調整が多品目に及び,医薬品の安定供給に深刻な影響を及ぼしている.これらの事案を受けて,厚生労働省は製造業者における管理の徹底と品質管理に係る人員体制の確保の他,製造所に対する製造販売業者の管理監督の徹底,都道府県による無通告立入検査の実施強化等,多角的な観点から再発防止策を講じている.また,2021(令和3)年8月には改正薬機法ならびに改正GMP省令が施行された.改正薬機法では製造業や製造販売業のみならず販売業関連や医療機器修理業等を含む薬機法関連の全ての業態に対して,法令遵守体制の整備が義務付けられた.約16年振りに改正されたGMP省令では不正製造事案等を踏まえて医薬品品質システムに関する規定が新たに加えられるとともに,GMPの事実上の世界標準であるPIC/Sガイドラインへの一層の整合化が図られた.
 PIC/SはGMP査察当局間の協力の枠組みであり,我が国はGMP調査の国際整合化等の観点から2012(平成24)年3月に加盟申請し,2014(平成26)年5月に45番目の加盟当局として承認された.PIC/S加盟に向け,個々のGMP調査員の質の確保が課題の一つとして浮き彫りとなり,GMP合同模擬査察 研修の拡充等によりGMP調査員を対象とした教育訓練の強化が図られた.また,国立保健医療科学院で実施している医薬品医療機器の品質確保に関する研修(旧称:薬事衛生管理研修)については修了が1年間のGMP関連業務経験に相当と規定され,リーダー調査員となり得る人材の育成を目指す重要な研修と位置付けられた.
 医療機器は従来,製造販売承認や製造許可等,医薬品に準ずる規制が行われてきたが,消耗品である医薬品に対し,長期にわたって使用される耐久材も含まれる医療機器では求められる特性が異なる.このため,薬機法では医療機器,体外診断用医薬品の製造販売等に関する章が独立して設けられる等,医療機器の特性を踏まえた規制とするとともに,単体プログラムが医療機器の範囲に含まれることが明確化された.以降,プログラム医療機器に対しては,その特性を踏まえた効率的な規制を行うため,様々な取り組みが行われている.
 本特集が変化の著しい薬事行政の理解の一助となれば幸いである.

本特集で用いられている略語

薬機法:医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全性の確保等に関する法律(医薬品医療機器等法とも略す)

FDA:Food and Drug Administration(米国食品医薬品局)

GMP:Good Manufacturing Practice(医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理の基準)

GMP省令:医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令

ICH:International Council for Harmonisation of Technical Requirements for Pharmaceuticals for Human Use(医薬品規制調和国際会議)

PIC/S:Pharmaceutical Inspection Convention and Pharmaceutical Inspection Co-operation Scheme(医薬品査察協定及び医薬品査察共同スキーム)

PMDA:Pharmaceuticals and Medical Devices Agency(独立行政法人医薬品医療機器総合機構)

QMS:Quality Management System(品質管理監督システム)

QMS省令:医療機器及び体外診断用医薬品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令

WHO:World Health Organization(世界保健機関)

 
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