[ 詳細報告 ]
分野名：自然毒等による食中毒
衛研名：高知県衛生研究所
報告者：食品科学課 谷脇 妙
事例終息：事例終息
事例発生日：2021/03/04
事例終息日：2021/03/11
発生地域：高知県中央西保健所管内
発生規模：1家族1名
患者被害報告数：１名
死亡者数：０名
原因物質：コルヒチン
キーワード：コルヒチン、グロリオサ、山芋、誤食、食中毒、植物性自然毒
概要：
令和3年3月4日、高知県中央西保健所管内に居住する70歳代の男性が畑でヤマイモに似た球根を採取し、同日15時頃喫食。同日21時頃から嘔吐、下痢等の食中毒症状を呈した。
翌日、医療機関を受診し、採取した球根の残品を見せたところ、医師からグロリオサの球根を誤食した可能性がある旨、説明を受けた。帰宅し、療養していたが、症状が悪化したため3月7日に再受診したところ、高知市の医療機関に救急搬送された。
3月8日、高知市の医療機関からグロリオサ球根の誤食によるコルヒチン中毒疑いとして高知市保健所に届出があり、高知県中央西保健所が現地調査をしたところ、採取した畑の一画にグロリオサが植えられていたことが判明。症状がコルヒチン中毒と一致していること、及び医師から食中毒の届出があったことから、グロリオサの誤食によるコルヒチン食中毒と断定した。
なお、3月11日、高知県衛生環境研究所で患者が採取した残品及び同じ畑で改めて採取した球根を検査したところ、いずれからもコルヒチンが検出された。
背景：
高知市三里地域ではグロリオサの栽培が盛んであり、栽培農家及び地域住民は球根の毒性等について知識があるが、一般県民には十分浸透していない。そのため、球根を誤食する事案が散見されており、死亡事例も発生している。
地研の対応：
高知県中央西保健所からの依頼により、患者が採取した残品及び同じ畑で改めて採取した球根について理化学的分析を実施し、その結果を報告した。
行政の対応：
高知市の医療機関からグロリオサ球根の誤食によるコルヒチン中毒疑いの届出を受けた高知市保健所が、患者の居住地を所管する高知県中央西保健所に連絡。高知県中央西保健所は、患者調査を高知市保健所に依頼するとともに現地調査を実施した。
患者の親戚及び近隣住民への聞き取り及び球根を採取した畑の実地調査の結果、患者が球根を採取した畑の一画に親戚によりグロリオサが植えられていたが、患者はそのことを知らず、球根をヤマイモと誤って食したことが判明した。
患者は腎不全及び横紋筋融解症と重症であり、聞き取り調査は不十分であったが、症状がコルヒチン中毒と一致していること、及び医師から食中毒の届出が提出されたことから、高知県中央西保健所は、本件をグロリオサの誤食によるコルヒチン食中毒と断定した。
高知県食品・衛生課は、直ちに本件についてプレスリリースするとともに、同課ホームページにおいて有毒植物の誤食による食中毒予防のポイントを示し、注意喚起を行った。また、高知県中央西保健所では、保健所主催の講習会や研修会の場を活用し、注意喚起を実施した。
原因究明：
高知県中央西保健所は、調査結果及び医師のコルヒチン中毒との診断に基づき、患者が採取した残品及び同じ畑で改めて採取した球根を高知県衛生環境研究所へ搬入。コルヒチンの検査を依頼した。
診断：
令和3年3月11日、患者が採取した残品及び同じ畑で改めて採取した球根を高速液体クロマトグラフ-質量分析法(LC-MSMS法)により検査したところ、それぞれ1.04mg/g、0.82mg/gのコルヒチンを検出した。
地研間の連携：
なし
国及び国研等との連携：
なし
事例の教訓・反省：
患者は、将来居住する予定である実家を手入れするため定期的に帰省していたが、新型コロナウイルス感染症の影響で暫く帰省できずにいた。その間に親戚が高知市三里地域のグロリオサ栽培農家から株分けしてもらったグロリオサを実家の墓の側の畑に植栽していた。周辺の住民は、花を見て畑の一画でグロリオサを栽培していること、球根が猛毒であることも認知していたが、患者はグロリオサを栽培していることを知らされていなかった。さらに、花及び茎葉が枯れて球根のみになっている時期であったことも誤食につながる要因となった。
県内でヤマイモ等と誤食する事例が散発していることを踏まえ、広く県民にグロリオサの毒性及び誤食防止の注意喚起を強化・継続することが必要である。
現在の状況：
有毒植物による食中毒等の原因究明に資するため、有毒成分の理化学的分析に関する検査法の習熟、検査スキルの維持に取り組んでいる。
今後の課題：
一般県民に対するグロリオサの球根の毒性及び誤食による健康被害の発生リスクに関するマスメディア等を活用した効果的・継続的な周知。
問題点：
特になし
関連資料：
グロリオサ球根の誤食によるコルヒチン中毒の一救命例,三木俊史ら,高知県医誌27(1):217～222,2022