保健医療科学 生活習慣病対策のためのデータ活用 (2023年8月)

『保健医療科学』 2023 第72巻 特別号 p.19-21(2023年8月)
特集 : 国立保健医療科学院 20周年を迎えて— <科学院の現在 : 設立20周年記念シンポジウム>

生活習慣病対策のためのデータ活用

横山徹爾

国立保健医療科学院生涯健康研究部長

はじめに
 厚生労働省の「21世紀における国民健康づくり運動(健康日本21)」が開始されてから2年後,平成14年4月1日に国立保健医療科学院(以下,科学院)が設置され,私はこの時に技術評価部(当時)に着任した.同部には生物統計学の専門家が集まっていたことから,私は 生活習慣病対策や健康づくり施策におけるデータ活用に関する研究と人材育成に力を入れるようになり,現在の 涯健康研究部での活動に至っている. 健康日本21では,国は地域等における地方計画の策定等に対する技術的支援として,各種統計資料のデータベースを構築し,地方計画の策定等の際に利用できるようにすることを謳っており,平成25年度からの健康日本21(第二次) では,国や地方公共団体等において,各種調査統計,健康診査,保健指導,診療報酬明細書(レセプト)等の情報に基づき,現状分析を行うとともに,健康増進に関する施策の評価を行うこととし,国は,地方公共団体が健康増進計画の策定等を行う際に,各種統計資料等のデータベースの作成や分析手法の提示等の技術的援助を行うこととされた.また,平成 26 年度以降,医療保険者はレセプト等のデータ分析に基づくPDCAサイクルに沿った効果的かつ効率的な保健事業の実施のために,データヘルス計画の策定・実施が求められるようになった. このように,近年の健康づくり施策においては,各種データを効果的に活用し,根拠に基づいた計画の策定と実施,評価を行うことが不可欠になっているが,地方自治体におけるデータ活用はまだ発展の途にある.
 データを活用して保健活動を推進するためには,以下の4つの段階が必要と考える. 1 データの「収集・登録」 (法整備等も含む),2 大規模データの「加工・集計」 (データベースシステム等の利用),3 最適な「解析」(疫学・統計学理論に基づく),4 解析結果の「解釈(分析)」 (医学知識など保健医療分野の専門知識が必要). 1と2に関しては,例えば“政府統計の総合窓口(e-Stat)”では 各種公的調査統計の詳細な集計表が公表されており,“国保データベース(KDB)システム”では国民健康保険と 後期高齢者医療の健診・医療等及び介護保険のデータが利用可能であり,“レセプト情報・特定健診等情報データベース(NDB)”及びそのオープンデータにより,全保険者の健診・医療等のデータ活用が可能な状況が整備されている. 一方,3と4を進めるためには,疫学・統計及び保健医療等専門分野の人材育成が必要であり,科学院でも関連する多くの研修を行っているが,疫学・統計の専門知識を持つ人材はまだまだ少なく,全ての市町村に3で必要な高度な技術を求めるのは現実的でないかもしれない. そこで,国の役割として,前述のように地方公共団体に対してデータベースの作成や分析手法の提示等の技術的援助を行うという考えから,最小限の情報処理技術さえあれば 3 の最適な「解析」を実現できる分析ツールや見える化資料を開発し,科学院のWebサイトで提供するのと同時に研修教材としても活用している.

生活習慣病対策のためのデータ活用

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