『保健医療科学』 2023 第72巻 第5号 p.375(2023年12月)
特集 : 介護保険における保険者機能強化の現状とこれから
<巻頭言>
介護保険における保険者機能強化の現状とこれから
大夛賀政昭
国立保健医療科学院医療・福祉サービス研究部
Current status and prospects for strengthening management of long-term care insurance
OTAGA Masaaki
Department of Health and Welfare Services, National Institute of Public Health
<巻頭言>
保険者とは,保険事業を運営する主体であり,公的社会保険の場合,国や公的な団体が保険者となる.保険者機能とは,保険運営に係わる機能を指し,介護保険の場合,保険料の徴収,被保険者の資格管理,保険給付,保険福祉事業の実施に加え,市町村介護保険事業計画の策定などが,その言葉の本来的な意味においては想定されてきた.しかしながら,2006 年度以降,地域包括ケアシステムの構築に向けた各種取り組みが進められる中で,保険者機能として想定される内容として,上記に加えて,地域分析による自らの地域特性に合った細かな単位での介護サービス基盤の整備といったことや,地域住民による介護予防・生活支援にかかわる活動や専門職・関係機関間の連携を促進するための仕組みづくりなどもその範疇に入ってきている.
厚生労働省の諮問機関である社会保障審議会介護保険部会における保険者機能をテーマとして検討された内容を追ってみると,2004 年 7 月の「介護保険の見直しに関する意見書」では,被保険者に対しての適切な情報提供や給付等のチェック機能,サービス供給への関与などが記されているのに対し,2019 年 12 月の意見書では,保険者機能は地域保険としての地域のつながり機能・マネジメント機能と説明され,2022 年 12 月の意見書では,給付適正化・地域差分析や地域包括ケアシステムの構築に向けた保険者への支援の必要性についても触れられるなど,その内容の広がりを改めて認識することができる.こうした保険者機能の広がりは,市町村間の取り組み格差を生んでいることから,その是正に向けた都道府県の役割はより重要になってきている.
本特集号では,このような状況にある介護保険における保険者機能強化をテーマとして取り上げ,これを推進していくための理論としてどのようなものがあるか,またどのような自治体(市町村・都道府県)の実践がなされているかを紹介する.
本特集号を構成する論文としては,介護保険における保険者機能強化に係る政策動向,保険者が地域包括ケアシステムの構築に向かうための条件と課題,保険者機能の評価や地域マネジメントの考え方,保険者機能強化におけるソーシャル・マーケティングやロジックモデルの活用といった内容について取り上げ,最終稿には当院で実施している保険者機能強化をテーマとした研修にも触れさせて頂いた.
本特集号により,保険者機能強化というテーマについて読者の理解を深めることに加え,市町村やその支援にあたる都道府県や関係機関をはじめとして,保健医療福祉領域の実践に携わる読者に対し,広く参考になることを期待する.