【感染症エクスプレス@厚労省】Vol.518 (2024年8月4日)
2024年夏、パリ五輪が開幕し、夏季五輪メダル通算500個に到達した柔道競技での金メダルを皮切りとした日本人アスリートの活躍を毎晩観戦している方もいらっしゃることと思います。 “Games wide open”を大会公式スローガンに掲げ、世界中からフランス・パリにアスリート・大会関係者・観客が集まっているパリ五輪は、新型コロナウイルス感染症(以下COVID-19)により1年延期となり、無観客開催となった東京五輪からは隔世の感がありますが、多くの人が移動・集合するマスギャザリングイベントの際には、危機管理の一面として感染症対策も重要になってきます。
過去の五輪でも、2002年のソルトレイクシティ冬季五輪ではインフルエンザ、2010年のバンクーバー冬季五輪では麻しん、ロンドン夏季五輪ではノロウイルス、リオデジャネイロ夏季五輪ではジカウイルス感染症が課題となりました。
また、五輪以外でも、年に1回のイスラム教の大巡礼である「ハッジ」や2015年に日本で開催された世界スカウトジャンボリーでは髄膜炎菌感染症のアウトブレイクが報告されています。
東京五輪の際は、前職の東京都の保健衛生支援東京拠点で、COVID-19対応を専属で行い、アスリート・大会関係者の感染拡大を極力抑えながら、競技に専念できる環境を作る一助をさせていただきました。組織委員会感染症対策センターと同じフロアでタッグを組んで対応し、国内外の関係機関と密に連携を取り、COVID-19対策をオールジャパンで行った経験は、パンデミック下での感染症対策のレガシーとして、その後の保健所などでのCOVID-19対応にも活かすことが出来ました。
今週号の感染症エクスプレスで「夏休みの海外渡航時に気をつけたい感染症について」もご紹介しておりますが、ECDC(European Center for Disease Prevention and Control)のガイダンス等より、パリ五輪では、欧州でも流行が報告されている麻しんや、ヒトスジシマカによるフランス国内感染が認められているデング熱などの感染リスクがあり、渡航地・期間・現地での行動予定、また年齢・基礎疾患等を踏まえて、個々人での事前の予防接種や虫除け対策などを行っていくことが重要となります。
また、大会開催時には感染症サーベイランス体制の強化が行われ、集約された情報を元に評価、対策が行われることになります。
オールハザードの観点からはバイオテロなどCBRNE災害(Chemical・Biological・Radiological・Nuclear・Explosive)の対策も重要になってきます。
また、今回のパリ五輪は、フランス領ポリネシアで南太平洋に位置するタヒチでもサーフィン競技が開催されており、現地の医療体制・衛生管理が整えられていますが、熱帯気候や蚊の蔓延などによる感染症リスクはあり、自然災害にも注意は必要で、健康危機管理上、離島でのマスギャザリングイベントならではの対策も求められると考えられます。
さて、記事の最後に、帰国後のことにも少々ふれておきたいと思います。
帰国時には入国審査や税関の前に、空港でも海港でも検疫を行い、国内に存在しない感染症を防ぐために検疫所が設けられており、昨年度からIDES研修生も検疫医療専門職の一員として、1ヶ月から2ヶ月検疫所でまとまった研修を行うプログラムになっております。
人に対する検疫業務や健康相談業務はもちろん、船舶衛生検査や、港湾衛生調査での蚊やネズミの調査なども経験でき、国外からの感染症流入を平時からどのように防いでいるか、新たな視点も得ることが出来ています。
8月4日は「はしか(麻しん)予防の日」でもあり、日本で排除認定されている感染症にも注意を払いながら、アスリート・大会関係者・観客など全て関係者の健康と安全を願いつつ、引き続き日本人アスリートの活躍も楽しみに観戦していければと思います。
【参考資料】
(1) 2019国際的なマスギャザリングにおける疾病対策に関する研究会, 国際的なマスギャザリングにおける疾病対策に関する研究
(2) 国立感染症研究所, 病原微生物検出情報(IASR)Vol.43 No.7 <特集>マスギャザリング(東京2020大会)と感染症対策
(3)ECDC, Mass gatherings and infectious diseases, considerations for public health authorities in the EU/EEA
(4)ECDC, Joint public health advice for travellers attending the 2024 Summer Olympic and Paralympic Games