【感染症エクスプレス@厚労省】Vol.519 (2024年8月19日)
夏休みを利用して海外へ渡航し、帰国された方もいらっしゃる中で、感染症には、潜伏期間が数日から1週間以上と長いものもあり、渡航中又は帰国後に症状がなくても、しばらくしてから感染症を発症する場合があります。
海外では、国内に常在しない感染症や日本よりも高い頻度で発生している感染症が報告されており、また、多くの人が移動・集合する大型イベントでは、感染症へのリスクが高まるため、注意が必要です。
〇食べ物や水を介した消化器系の感染(A型肝炎、腸チフスなど)
・ A型肝炎は、世界各地でみられますが、衛生状態が悪く飲用水の管理が悪い地域でのリスクが高く、2~7週間の潜伏期間の後に、発熱、全身倦怠感、食欲不振、吐き気や嘔吐が見られ、数日後に黄疸が現れます。
・ 腸チフスは、特に南アジアで感染のリスクが高く、感染して1~3週間は症状はなく、その後、高熱、頭痛、全身倦怠感、発しん、便秘などの症状が現れ、高熱の割に脈が遅いのが特徴的です。重大な症状として、腸出血、腸穿孔を起こすこともあります。
〇蚊などを介した感染症(マラリア、デング熱、チクングニア熱、ジカウイルス感染症、オロプーシェ熱など)
・ マラリアは、潜伏期間は1~4週間であり(原虫種によって異なります。)、発熱、悪寒、頭痛、嘔吐、関節痛、筋肉痛などの症状が現れます。
熱帯熱マラリアはアフリカやアジア・太平洋の熱帯地域が流行の中心で、発症から24時間以内に治療しないと重症化し、脳症、腎症、肺水腫、出血傾向、重症貧血など、さまざまな合併症がみられ、死に至ることがあるため早期診断、治療が重要です。
・ デング熱は、日本人の推定感染地域として多いアジアや、流行拡大している中南米を含め熱帯・亜熱帯地域に広く分布し、2~14日(通常3~7日)の潜伏期間の後、発熱、頭痛、関節痛、筋肉痛、発しんが現れ、時に重症化することがあります。
・ チクングニア熱は、アフリカ、南アジア、東南アジアが流行の中心で、蚊によって媒介される感染症です。潜伏期間は2~12日(通常3~7日)で、発熱と激しい関節痛を主な症状とし、数ヶ月症状が続くこともあります。
・ オロプーシェ熱(Oropouche fever)は、中南米地域を中心に流行の見られる節足動物(ヌカカや蚊)媒介感染症で、2024年はボリビア、ブラジル、コロンビア、ペルー、キューバから報告されており発生地域が拡大しています。3~12日(通常4~8日間)の潜伏期間ののち、デング熱に類似した症状を呈しますが、一部の患者では無菌性髄膜炎の症状を呈することがあります。多くは1週間以内に回復します。
○ダニを介した感染症(リケッチア症、重症熱性血小板減少症候群、ダニ媒介脳炎など)
・ リケッチア症は、アフリカ紅斑熱などの地域流行性の紅斑熱、ライム病、つつが虫病、ダニ媒介回帰熱など多くの種類があり、多くは1~2週間の症状のない期間の後、発熱、頭痛、不快感、嘔気・嘔吐が見られ、重症になると死亡することがあります。流行地域は疾患により異なります。
・ 重症熱性血小板減少症候群(SFTS)は、東アジアを中心に分布しており、6日~2週間の潜伏期間を経た後、主な初期症状として、発熱、全身倦怠感、消化器症状が現れ、その後、重症化し、死亡することもあります。
・ ダニ媒介脳炎は、東部から中央ヨーロッパ、ロシア、中国北部で分布しており、4~28日間の潜伏期間があった後、頭痛、筋肉痛、倦怠感、発熱が起こります。悪化すると、脳炎症状が出て、重症型の場合は死亡することがあります。
今年3月に本疾患を予防するワクチンが薬事承認されています。
〇人から人に広がる感染力の強い感染症(麻しん、風しんなど)
・ 麻しん、風しんは世界の多くの国で流行しており、麻しんの潜伏期間は通常10~12日間、風しんは14~21日間で、発熱、発しんが主症状です。
・ 特に、現在、海外で流行が報告されている麻しんは、海外からの輸入症例を契機とした国内における感染事例も報告されており、注意が必要です。
医療従事者の皆さまにおかれましては、海外渡航者への感染症に関する注意喚起に引き続きのご協力をお願いします。
・ 夏季休暇の海外渡航者に対する感染症予防啓発について(協力依頼)(自治体あて事務連絡)