No.24003 複数種のクドア属粘液胞子虫の関与が疑われた食中毒事例ー岡山県

[ 詳細報告 ]

分野名:原虫・寄生虫・衛生動物
衛研名:岡山県環境保健センター
報告者:保健科学部細菌科 河合央博
事例終息:事例終息
事例発生日:2023/12/09
事例終息日:2023/12/10
発生地域:岡山県
発生規模:小規模
患者被害報告数:有症者数13名
死亡者数:0
原因物質:不明
キーワード:Kudoa iwatai、Kudoa konishiae、粘液胞子虫、サワラ、食中毒

概要:
 2023年12月9日に岡山県内の飲食店で夕食を食べた6グループ16名のうち6グループ13名が10日に嘔吐や下痢等の症状を訴えたことから保健所が調査を行ったところ、食品残品、患者便等からは病因物質は特定できず、原因不明の食中毒事件として処理された。しかし、食品残品のサワラ刺身には目視で確認できる白色斑点(シスト)が存在した。食中毒の病因物質であるKudoa septempunctataはシストを形成しないが、病原性不明の他種粘液胞子虫が関与した可能性を考慮し、シスト部の鏡検を実施したところ、4極嚢の粘液胞子虫を認めた。そこで、追加の遺伝子検査を実施したところ、Kudoa iwatai及びKudoa konishiaeの遺伝子が検出され、本事例の原因となった可能性が考えられた。

背景:
 Kudoa septempunctata以外の粘液胞子虫は、ヒトへの病原性は不明であるが、その関与が疑われる食中毒や有症苦情が全国的に発生している。

地研の対応:
 当センター及び保健所検査課で、患者便、調理従事者便、食品残品及びふき取り検体について検査を実施した。その結果、病因物質は特定されなかったが、サワラ刺身に存在したシスト部の鏡検では4極嚢の粘液胞子虫が認められたことから、K. septempunctata以外の粘液胞子虫の関与を疑った。そこで、国立医薬品食品衛生研究所へ検体(サワラ刺身、患者便)を送付し検査を依頼するとともに、当センターでも追加検査を実施した。

行政の対応:
 保健所は、当該飲食店の食事を原因とする食中毒と断定し、営業停止処分を行った。また、衛生教育を実施し再発防止の指導を行った。

原因究明:
 国立医薬品食品衛生研究所では、K. iwataiを検出するPCR法を実施した。また、当センターでは、不特定の粘液胞子虫を検出するPCRを実施し、増幅産物の塩基配列(シークエンス)から種を同定した。

診断:
 国立医薬品食品衛生研究所による検査の結果、サワラ刺身及び患者便からK. iwatai遺伝子が検出された。また、当センターの検査では、サワラ刺身及び患者便からK. iwatai及びK. konishiaeの2種類のクドア属粘液胞子虫の遺伝子が検出された。これを受け、再度サワラ刺身の鏡検を行ったところ、K. iwataiの特徴である4極嚢及びK. konishiaeの特徴である6極嚢の粘液胞子虫が混在していた。以上のことから、当該サワラにはK. iwatai及びK. konishiaeの2種類のクドア属粘液胞子虫が寄生し、本症例の患者の発症要因となった可能性が考えられた。

地研間の連携:
 特になし

国及び国研等との連携:
 2015年7月2日付け厚生労働省医薬食品局食品安全部 監視安全課食中毒被害情報管理室事務連絡「食中毒調査に係る病因物質不明事例の情報提供について(協力依頼)」に基づき、国立医薬品食品衛生研究所へサワラ残品及び患者便を送付した。また、粘液胞子虫の検査方法について教示いただいた。

事例の教訓・反省:
 粘液胞子虫が関与が疑われる食中毒や有症事例の調査の実施に当たっては、魚介類には複数種の粘液胞子虫が寄生している場合もあることも念頭に置くことが必要と考えられた。

現在の状況:
 本事例に係る検査を通して、K. septempunctata以外のクドア属粘液胞子虫の検査法として、シークエンスによる鑑別(種同定)等の検査体制を整備した。

今後の課題:
 K. iwataiについては、これまでにも有症事例においてスズキ、サワラ等から検出された事例がしばしば報告されており、ヒトへの病原性が疑われている。一方、K. konishiaeは、有症事例での検出例がほとんどなく、病原性はもとより寄生魚種その他の実態も不明である。これらを含めた粘液胞子虫には病原性が解明されていない種が多いため、今後も有症事例の疫学情報等を基礎データとして蓄積し、関係機関で共有することが重要と考える。

問題点:
 特になし

関連資料:
 特になし

ページの先頭へ戻る