No.24011 湧水に起因したカンピロバクター食中毒ー石川県

[ 詳細報告 ]

分野名:細菌性食中毒
衛研名:石川県保健環境センター
報告者:健康・食品安全科学部 北川恵美子
事例終息:事例終息
事例発生日:2023/08/11
事例終息日:2023/08/17
発生地域:石川県
発生規模:
患者被害報告数:892名
死亡者数:0名
原因物質:Campylobacter jejuni
キーワード:Campylobacter jejuni、湧水、食中毒

概要:
 2023年8月16日、県外在住の者から石川中央保健所に、当該保健所管内のA飲食店で8月11日に食事をした家族、友人が下痢をした旨の連絡があり、その後同様の申し出が複数あった。8月11日~17日にA飲食店を利用した1,298人について調査したところ、発熱又は消化器症状(下痢・嘔吐・嘔気・腹痛のうち、いずれか)を呈していた者は892人であった。このうちの多くがカンピロバクター感染による潜伏期間と一致していたこと、患者及び従事者の便からCampylobacter jejuni(以下、C.jejuni)が検出されたこと、使用水の湧水(原水)からC.jejuniが検出され、営業時は塩素による消毒はされていなかったこと、これらの有症者に共通するものはA飲食店が提供した飲食物以外にないことから、湧水を使用した飲食物を原因食品、C.jejuniを病因物質とする食中毒と判断された。

背景:
 カンピロバクター属菌による食中毒は、国内で発生している細菌性食中毒の中で発生件数が最も多く、患者から分離されるカンピロバクター属菌の95%以上は C.jejuniである。主な原因食品は、生や加熱不足の鶏肉であるが、水も感染源の一つであり、野生動物等を介した河川や湧水の汚染、ヒトや家畜の糞便による井戸水の汚染が発生要因としてあげられる。

地研の対応:
 患者及び従事者の糞便、施設で使用する水(以下、使用水)の水源としていた湧水(原水)のカンピロバクターの検査を行い、分離されたC.jejuniについて改良Penner PCR型別法による血清型別試験及びmP-BIT法による遺伝子解析を行った。

行政の対応:
 保健所は、食中毒の拡大防止を速やかに図るため、施設に対して探知翌日の8月17日から3日間の営業停止処分を行った。また、再発防止のため、消毒装置の稼働、水質検査の実施などを指示するとともに、従事者に食品衛生に関する衛生教育を実施した。

原因究明:
 保健所が探知当日の8月16日に施設に立ち入り調査を行ったところ、使用水として湧水を利用していたが、年1回以上の水質検査を実施しておらず、営業時は塩素による消毒をしていなかった上、湧水をそうめんの水洗いやそうめんを流すための水、市販のそうめんつゆの希釈水に使用していたことが判明した。そこで、施設の水栓3カ所で採水し、水道法に基づく水質基準検査方法に従い細菌検査を実施した結果、いずれも大腸菌が検出され、一般細菌数は基準を超えていた。このことから、使用水が何らかの食中毒起因菌で汚染されていることが疑われた。
 さらに原因食品及び病因物質を特定するために、患者の糞便4検体(2グループ)、従事者の糞便12検体について、食中毒起因菌及び胃腸炎関連ウイルスの検査を行ったところ、2グループからの患者の糞便3検体、従事者の糞便5検体からC.jejuniが検出された。なお、他自治体、医療機関の検査で有症者113人からもC.jejuniが検出された。また、施設が使用していた湧水(原水)と使用水(衛生指導後)について、カンピロバクターの検査を行ったところ、湧水(原水)からC.jejuniが検出された。
 以上より、本事例はC.jejuniに汚染された湧水を使用した飲食物を喫食したことが原因で患者数892名にのぼる大規模な食中毒となったと考えられた。
 追加試験として、9検体から検出されたC.jejuniについて、改良Penner PCR型別法による血清型別試験を実施したところ、gB群、gD群、gB群とgD群の3つの検出パターンがみられた。なお、gB群とgD群は、国内のカンピロバクター感染の腸炎患者から多く検出される血清型である。さらに、mP-BIT法による遺伝子解析を実施したところ、血清型gB群については、糞便と湧水(原水)から分離された菌株のmP-BITパターンは一致していた。一方、血清型gD群については、両者は一致していなかったことから、湧水は複数の血清型、遺伝子型のC.jejuniで汚染されていたことが確認された。カンピロバクター食中毒では同一事例から複数の血清型の菌が分離されることが知られており、本事例も同様であったと思われるが、湧水の汚染源は不明であった。

診断:
 (記述事項なし)

地研間の連携:
 該当事項なし

国及び国研等との連携:
 該当事項なし

事例の教訓・反省:
 本事例は、施設の使用水の衛生管理の不徹底により、カンピロバクターに汚染された湧水を使用した飲食物が原因で発生したと考えられた。営業者らは日頃から客に提供する食品をまかないとして喫食していたが、自らは体調に異変がみられなかったため、未消毒の湧水の危険性についての認識も欠如していた。
 湧水、井戸水等を原因とする水系感染症は、大規模な事例になりやすいが、適切な浄水処理や塩素消毒により防止することが可能である。本事例を受けて、県は、井戸水、湧水等を使用する営業施設に対して使用水の衛生的な管理の徹底について改めて通知した。

現在の状況:
 2024年度の監視指導計画において、使用水の衛生的な管理について重点的監視項目とした。

今後の課題:
 本事例は、帰省や観光シーズンと重なり、調査対象者は全国18都府県にわたり、調査に膨大な時間と労力を要した。このような広域発生事例に速やかに対応できるよう、平時から県内外の保健所等との連携を密にして体制を強化すること、食品衛生監視員の食中毒調査のスキルを維持することに注力する必要があると考える。

問題点:
 (事例の教訓と重複するため、記述事項なし)

関連資料:
 石川県保健環境センター研究報告書 第61号 2024

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