『保健医療科学』 2025 第74巻 第3号 p.221(2025年8月)
特集:日本の健康的で持続可能な食環境づくりのための戦略的イニシアチブをはじめとする食環境整備の現状とこれから―
<巻頭言>
日本の健康的で持続可能な食環境づくりのための戦略的イニシアチブをはじめとする食環境整備の現状とこれから―
和田安代
国立保健医療科学院生涯健康研究部
Current status and future prospects for food environment improvement,including the Japanese Strategic Initiative for a Healthy and Sustainable Food Environment
WADA Yasuyo
Department of Health Promotion, National Institute of Public Health
<巻頭言>
日本はこれまで,食事,人材,エビデンスの 3つの柱を重視した栄養政策を長年にわたり行ってきた.誰一人取り残さない栄養政策を展開していく上で,健康増進等に関心がある関心層だけでなく,無関心層をも含めた健康づくりを推進していく必要があり,2021 年 6 月には「自然に健康になれる持続可能な食環境づくりの推進に向けた検討会」報告書が公表された.2021 年 12 月に開催された東京栄養サミット(Tokyo Nutrition for Growth Summit 2021)では,日本政府として誰一人取り残さない栄養政策をさらに促進していくことをコミットメントとして表明し,2022 年 3 月には厚生労働省が「健康的で持続可能な食環境づくりのための戦略的イニシアチブ(以下,食環境戦略イニシアチブ)」を創設した.食環境づくりとは,人々がより健康的な食生活を送れるよう,人々の食品(食材,料理,食事)へのアクセスと情報へのアクセスの両方を,相互に関連させて整備していくことを指し(厚生労働省.健康的で持続可能な食環境戦略イニシアチブ),無関心層をも含めて自然に健康になれる食環境づくりの重要性が増している.関心層・無関心層を含めた者を対象とした食環境を改善していくためには,個々の職種,企業,団体のみの取組では,限界があり,産学官で力を結集し,大きなムーブメントを生み出していく必要がある.
健康日本 21(第三次)では,社会の多様化にともなって健康課題も多様化する中で,「誰一人取り残さない健康づくり」の展開(Inclusion),「より実効性をもつ取組」の推進(Implementation)に重点が置かれている.また,健康日本 21(第三次)において,食環境づくりをはじめとする社会環境の質向上が重視され,国が推進する食環境戦略イニシアチブに全ての都道府県が連携していくことが目
標とされた.食環境づくりが産官学の多くのステークホルダーが関与したものであり,部局・領域横断的な取組となる中,行政管理栄養士をはじめ自治体全体で様々な関係者との調整等を重ねながら,食環境づくりを着実に推進し,成果を創出していく必要があると考えられる.
本特集号では,食環境戦略イニシアチブ推進の背景と概要,食環境整備推進のための産学官連携共同研究プロジェクト,栄養政策等の社会保障費抑制効果の評価に向けた医療経済的な基礎研究,食環境整備の経済的価値,自治体における食環境づくりの事例,職場の食環境づくりの事例といった内容について,第一線でご活躍されている著者らから,ご紹介いただいている.また,国立保健医療科学院での食環境整備や栄養政策に関連する研修や研究の取組みについても触れさせていただいた.
本特集号により,食環境整備に関する理解を深めることに加え,各自治体における食環境整備の取組みが展開され,国民の健康増進に寄与したものになることを期待する.