【感染症エクスプレス@厚労省】VOL.548(2025年11月21日)
こんにちは、IDES11期生の中田由紀子です。初期研修後、赤十字の国際救援部外科コースで学び、その後は総合診療科・家庭医プログラムで研修を受け、臨床医師として勤務しておりました。臨床の傍ら、NGO等を通じてさまざまな国で医療活動を行い、感染症の脅威が国や地域によって異なる現状を目の当たりにしました。特に、限られた医療資源の中で感染症に立ち向かう現場を経験し、感染症対策を体系的に理解するとともに、公衆衛生の視点が不可欠であることを強く感じました。
2019年にCOVID-19が流行した際は救急科で研修をしており、日々の診療の中で感染症の拡大が社会全体に与える影響を肌で感じました。行政が発信する情報やガイドラインは現場を支える大きな力となり、ワクチン接種が迅速に進んだときには、医療者として深い感謝の念を抱きました。この経験を通じて、行政が果たす役割の重要性を実感し、自らもその一端を担いたいと考えるようになりました。その思いから、米国エモリー大学大学院公衆衛生修士課程(感染症疫学専攻)に進学いたしました。
在学中は、米国の保健システムや感染症サーベイランスの仕組みを学ぶとともに、米国疾病予防管理センターでのインターンシップを通じて、行政の立場から感染症対策に関わる意義と責任の大きさを学びました。しかし同時に、「自国の行政について深く理解しなければ、真の国際貢献はできない」と感じ、帰国後はIDESを通じて厚生労働省に入省いたしました。
現在は、主に危機対応医薬品等に関する政策や国際連携案件に携わっております。慣れない霞ヶ関の用語や行政手続き・法令の関係を学びつつ、上司や同僚から多くを教わり、日々成長の機会をいただいています。IDESでは、本省以外にも国立国際医療研究センターや感染症研究所、検疫所などをローテーションし、実務と政策の両面から感染症対策を学ぶ貴重な機会があります。ローテーションの関係で各機関での在籍期間は短いものの、その中で仕事を任せていただけることを大変ありがたく感じています。先を読み、自らできることを提案しながら行動する必要もありますが、これも2年目以降の海外研修に向けた良い訓練だと思い、日々励んでおります。

大型客船での着岸検疫
IDESプログラムは、医師や研究者としての専門知識を行政の実務に結びつける貴重な場です。短期間で多様な経験を積むことができ、国際機関での活動に関わる機会も得られる可能性があります。応募を検討されている皆さまと、一緒に学ぶことができれば嬉しく思います。
感染症の脅威は国境を越えて広がり、行政や研究、医療など、さまざまな機関の連携が不可欠です。米国がWHOからの脱退を表明するなど、国際保健を取り巻く環境が変化する中で、今こそ冷静に現場を見つめ、実務を通して確かな力を身につけたいと考えています。これからも謙虚な姿勢を忘れず、感染症対策の現場と行政の双方を理解しながら、地道に学びを重ねてまいりたいと思います。

PPE(個人用防護具)の着脱訓練
