[ 詳細報告 ]
分野名:細菌性食中毒
衛研名:富山市保健所 富山県衛生研究所
報告者:富山県衛生研究所 細菌部 木全恵子
事例終息:事例終息
事例発生日:2024年7月24日
事例終息日:2025年3月10日
発生地域:富山県富山市
発生規模:患者4名
患者被害報告数:4名
死亡者数:0名
原因物質:ボツリヌス菌
キーワード:食餌性ボツリヌス症、ボツリヌス菌
概要:
2024年7月に、同居家族4名が消化器症状、複視、自律神経障害、呼吸筋麻痺等の症状を発現し、食餌性ボツリヌス症の家庭内集団発生が疑われた。国立感染症研究所、富山県衛生研究所および国立医薬品食品衛生研究所において、患者検体および食品検体のボツリヌス菌・ボツリヌス毒素の検査が行われた。その結果、患者4名の便および、内3名の血清からボツリヌス菌またはボツリヌス毒素が検出された。一方、食品検体は全て陰性であった。富山市保健所が行った喫食調査においても患者4名には嫌気状態の食品の喫食は認められず、本事例の原因食品は不明であった。
背景:
ボツリヌス症は、ボツリヌス菌が産生するボツリヌス毒素による神経麻痺性疾患であり、弛緩性麻痺による症状(便秘、複視、眼瞼下垂、歩行障害、呼吸筋麻痺等)を引き起こす。特に呼吸筋麻痺による呼吸不全は、場合によっては死に至る。ボツリヌス症は感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(平成10年(1998年) 法律第114号。以後、「感染症法」と言う)において四類感染症に分類され、診断後直ちに届出を行わなければならない疾患である。2024年までのボツリヌス症の届出数は年間10件未満であり、国内では本感染症は極めて稀な感染症であることを示している。
ボツリヌス症は、感染経路の違いから食餌性ボツリヌス症、乳児ボツリヌス症、創傷ボツリヌス症、成人腸管定着ボツリヌス症の主に四つの型に分類される。このうち食餌性ボツリヌス症は嫌気状態の食品(缶詰や真空包装様食品など)の中で増殖したボツリヌス菌が産生したボツリヌス毒素を経口摂取することで発症する(毒素型食中毒)。国内の食餌性ボツリヌス症の届出は、1995年から2023年までに17件報告されている(厚生労働省食中毒統計)。このうち、原因食品が判明している事例は12件報告があり、原因食品は主に、いずし(魚の発酵食品)、瓶詰および真空包装形態の食品などの嫌気状態の食品であった。一方、原因食品不明の食餌性ボツリヌス症も5件(29.4%)報告されている。このような食餌性ボツリヌス症の発生状況のなか、2024年7月に富山市内で食餌性ボツリヌス症の家庭内集団事例が発生した。
地研の対応:
富山市保健所が当所に搬入した患者4名の検体(便、血清)を国立感染症研究所に送付した。また、富山市保健所が患者宅で収去した食品19検体を国立医薬品食品衛生研究所に送付した。同時に、当所においても患者便検体・食品検体の培養試験とボツリヌス毒素遺伝子検査を行った。
行政の対応:
富山市保健所は、2024年7月26日市内医療機関から、家族のうち3名が7月24日から複視、嘔吐等を呈して受診、入院しているとの連絡を受け、調査を開始した(調査開始後、もう1名が発症し、患者数は4名となった)。原因究明のため、富山市保健所が患者の喫食調査、患者検体の確保および患者宅の食品残品の収去を行った。富山県衛生研究所、国立感染症研究所および国立医薬品食品衛生研究所はボツリヌス菌およびボツリヌス毒素について検査を行った。2024年8月5日、県厚生部は医師会および県内の医療機関にボツリヌス症の患者発生について周知した。
原因究明:
国立感染症研究所は、患者4名の血清検体についてマウスによるボツリヌス毒素検出を行った。また、患者4名の便検体について、便の培養試験とマウスを用いたボツリヌス毒素検出を実施した。国立医薬品食品衛生研究所が患者宅で収去した食品検体19検体のマウスによるボツリヌス毒素検出を行った。同時に、富山県衛生研究所が患者便検体・食品検体の培養試験とボツリヌス毒素遺伝子検出を行った。
毒素検出試験の結果、患者血清3検体がボツリヌス毒素陽性、便4検体の培養上清がボツリヌス毒素陽性であった。また、抗毒素中和試験でA型ボツリヌス毒素が検出された。培養試験とボツリヌス毒素遺伝子検出の結果、ボツリヌス菌(A型・B型ボツリヌス毒素遺伝子陽性)が検出された。これらの結果から、分離株はB型毒素遺伝子が機能していないA(B)型ボツリヌス菌と判明した。
また、食品検体19検体はボツリヌス毒素およびボツリヌス毒素遺伝子は陰性であった。
診断:
患者4名:A(B)型ボツリヌス菌によるボツリヌス症と診断された。
原因食品:不明であった。
地研間の連携:
該当事項なし
国及び国研等との連携:
国立感染症研究所が患者4名の検体(便、血清)のボツリヌス毒素検出と便の培養試験を実施した。国立医薬品食品衛生研究所が食品検体19検体のボツリヌス毒素検出を行った。
事例の教訓・反省:
【背景】で述べた通り、原因食品となる嫌気状態の食品の関連性が不明である食餌性ボツリヌス症例は、本事例を含め、複数報告されている。このため、喫食調査で疑わしい食品の喫食歴がない場合であっても食餌性ボツリヌス症を否定する根拠にはならないことに注意すべきである。
現在の状況:
(記述事項なし)
今後の課題:
ボツリヌス症では、臨床症状からボツリヌス症が疑われた時点で、食餌性ボツリヌス症の可能性を考慮し、速やかに喫食調査を行う必要がある。このために、医療機関と行政の連携が重要である。
問題点:
(事例の教訓と重複するため、記述事項なし)
関連資料:
・川岸利臣他.富山県で発生したボツリヌス症の家庭内集団発生例について.病原微生物検出情報. Vol46 (No.1) p20-22, 2025
・木全恵子他.富山県で発生した食餌性ボツリヌス症の家庭内集団発生例について.北陸と公衆衛生.第71号 p7-9, 2025
