[ 詳細報告 ]
分野名:細菌性食中毒
衛研名:埼玉県衛生研究所
報告者:食品微生物担当 吉田理沙
事例終息:事例終息
事例発生日:2024/08/20
事例終息日:2024/08/20
発生地域:埼玉県内
発生規模:-
患者被害報告数:4名
死亡者数:0名
原因物質:黄色ブドウ球菌(新型エンテロトキシンP遺伝子保有)
キーワード:細菌性食中毒、黄色ブドウ球菌、新型エンテロトキシン、SEP
概要:
2024年8月20日、県内の医療機関から「学童保育所の児童がおう吐の症状を呈している」旨、管轄保健所に通報があった。調査の結果、施設Aが8月20日に調理したそぼろ丼弁当を喫食した当該施設の児童19名中4名(21.1%)がおう吐の症状を呈したことが判明した。有症者4名に8月20日以外の接点はなく、原因として考えられる共通食はそぼろ丼弁当に限定されていた。発症者の潜伏期間は4時間半と一致しており、共通する食事による単一ばく露が疑われた。当所へ搬入された患者便、従事者便、食品残品及びふきとり検体から共通に黄色ブドウ球菌(新型エンテロトキシンP遺伝子保有)が検出された。以上の疫学情報及び検査結果から、埼玉県は本件について、施設Aが調理提供したそぼろ丼弁当を原因とした食中毒事例であると断定し、施設Aに対して行政処分を行った。
背景:
黄色ブドウ球菌による食中毒は、食品中で菌の増殖に伴って産生されるブドウ球菌エンテロトキシン(SEs)を、食品と共に摂取することで嘔吐や下痢を引き起こす。SEsは古典型(SEA~SEE)と新型に大別され、食中毒のほとんどは古典型SEsによるものである。一方、新型SEsはこれまで20種以上が報告されているが、健康被害事例の報告はわずかで、各毒素の保有状況やヒトにおける嘔吐活性などその実態はよく分かっていない。2024年に埼玉県内で、エンテロトキシンP(SEP)遺伝子を単独で保有する黄色ブドウ球菌による食中毒が発生したため、その概要を報告する。
地研の対応:
保健所の依頼に基づき、患者便4検体、従事者便3検体、食品残品3検体及び施設設備等のふきとり6検体について食中毒原因検査を行った。検査の結果、患者便2検体、従事者便1検体、食品残品3検体及びふきとり3検体(従事者手指、冷蔵庫取っ手、冷凍庫取っ手)からSEP遺伝子保有黄色ブドウ球菌が検出された。また、食品残品であるそぼろ丼弁当3検体の黄色ブドウ球菌数の平均は1.4×108CFU/gで、そぼろ部分が7.0×108CFU/g、米部分が9.9×107 CFU/gと部位による菌数の差はなかった。分離された株についてコアグラーゼ型別及びMultilocus Sequence Typing(MLST)を実施した結果、全ての分離株がコアグラーゼ型ではIII型、MLSTではST7に分類され、複数の便や食品残品から得られた黄色ブドウ球菌は遺伝的に同一のものであることが強く示唆された。
行政の対応:
施設Aに対し、食品衛生法に基づき3日間の営業停止処分を行うとともに、衛生教育を実施し再発防止の指導を行った。
原因究明:
保健所の施設調査では、従事者の手洗い不足及び調理や盛付けの際に使い捨て手袋等を使用せず素手で作業していたことが明らかになった。このことから、黄色ブドウ球菌を保有した従事者が手洗いを適切に行わず広く施設内を汚染し、盛付け担当の従事者の手指を介してそぼろ丼弁当を汚染したと考えられた。また、盛付け後の放冷が不十分であったことに加え、そぼろ丼弁当が配送され喫食されるまでの間、十分な冷蔵管理がされておらず、黄色ブドウ球菌のさらなる増殖及び毒素の産生に繋がったと推察された。
診断(定性・定量):
特になし
地研間の連携:
特になし
国及び国研等との連携:
特になし
事例の教訓・反省:
本事例で検出されたSEP遺伝子保有黄色ブドウ球菌は、これまでに単独で食中毒事例を起こした報告がなく、非常に珍しい事例であった。当所では、通常古典型SEsのみを対象に黄色ブドウ球菌の検査を実施していたが、新型SEs遺伝子検査についても実施体制を整えていたことから、突然の検査にも対応することができた。日ごろから様々なケースを想定した検査体制を整備しておくことが、より迅速かつ効果的な検査につながることを実感した事例であった。
現在の状況(技術、体制、設備等):
特になし
今後の課題:
新型SEs産生黄色ブドウ球菌については、健康被害事例も少なく、ヒトにおける嘔吐活性、発症にいたる毒素量、及びその毒素量を産生するための菌量について十分に明らかになっていない。そのため、同菌による食中毒事例の疫学情報の集積及び分離菌株の解析を継続していく必要がある。
問題点:
特になし
関連資料:
2024年8月26日,プレスリリース(埼玉県保健医療部食品安全課); https://www.pref.saitama.lg.jp/a0708/news/page/news2024082601.html
