[ 詳細報告 ]
分野名:ウィルス性感染症
登録日:2016/03/17
最終更新日:2016/05/26
衛研名:長崎県衛生公害研究所
発生地域:全国的(県内においては全県下で発生)
事例発生日:1976年4月
事例終息日:1977年2月
発生規模:
患者被害報告数:県内患者数(1976年春期流行1,399名,1977年春期流行2,271名)
死亡者数:0名
原因物質:風疹ウイルス
キーワード:風疹大流行、風疹ウイルス感染流行、妊婦の風疹罹患
背景:
近年のわが国における風疹の大きな流行は、1964年~1965年に沖縄地方で大流行が認められ360例の先天性風疹症候群児が出生した。その後、全国各地で局所的流行が発生していたが、1976年春の流行は全国に波及し、約10年振りといわれる大流行となった。
概要:
長崎県下において、1976年春に5月をピークとした風疹の流行があり、1,399名の患者が認められた。同年9~12月にかけて流行は一時終息したようであったが、1977年1月より再び患者数は増加し、2月には患者数2,271名となり1976年5月の患者数を上回った。
全国的には1977年春の流行規模は1976年より下回ってている。このような現象は、地域別の罹患率の違いによるものであり1976年春は東日本主体の流行であり、1977年春の流行は西日本主体の流行に移行していることによるものであると思われる。
原因究明:
妊婦の風疹HI抗体陰性率は、長崎市、諫早市、大村市、島原市及び西彼杵郡の総計1,161人の妊婦を調査した範囲では、地域差は認められず平均19.7%の陰性率であった。妊婦の年齢別では低年令ほど風疹HI抗体陰性率が高く、20~24才の妊婦では、平均34.7%の妊婦が風疹HI抗体を持っていなかった。
急性期の血清が得られなかった風疹顕性罹患妊婦5名中4名より、風疹IgM抗体が検出された。
風疹不顕性罹患妊婦69名中4名から風疹IgM抗体が検出された。不顕性罹患妊婦の分娩34例の出生児については、奇形は認められなかった。
診断:
地研の対応:
1969年以来県下住民の風疹に対する免疫度調査を実施してきたが、今回の流行に際して妊婦を対象として免疫度調査を実施した。一方、妊婦の風疹抗体検査上の問題点として、風疹罹患の心配がある妊婦の急性期血清が得られなかった時、あるいは不顕性感染で感染時期が不明の時には、単一血清中の抗体が妊娠中の感染により生じたものか、それ以前のものか判定する必要がある。そこで急性期血清が得られなかった妊婦については、風疹IgM抗体の検出を試み、同時に出生児の追跡調査を実施した。
行政の対応:
今回の風疹流行に際して、妊娠中に風疹に罹患したとの不安を抱く妊婦に対しては、各保健所及び衛生公害研究所において妊婦本人の相談を受け、検査の依頼があれば採血し、衛生公害研究所に送付して風疹HI抗体価を有料で検査を実施した。
その後、それぞれの妊婦については主治医が妊娠中の経過を診ていることから、本県は主治医からの検査依頼に対してのみ、県立保健所を経由して衛生公害研究所で集中して検査をすることとするとともに、長崎市及び佐世保市においても、市自らの保健所において、検査対応ができるように担当職員の技術研修を衛生公害研究所において実施した。
地研間の連携:
昭和51年12月16~17日の2日間に渡って北九州市で開催された第2回九州衛生公害技術協議会において、九州地区の各地方衛生研究所間で風疹流行状況に関する疫学的調査結果等の情報交換が行われた。
国及び国研等との連携:
国及び国研との連携については、不明である。
事例の教訓・反省:
風疹の流行に伴い、マスコミにより妊婦の風疹感染と先天性風疹症候群新生児の出生の関係が報道されたため、妊婦間に不安と心配が広がり、県内で風疹抗体検査が実施可能な機関は、流行初期頃は当研究所のみであったため、検査依頼が集中し一時期対応に苦慮した。複数の検査機関(長崎市及び佐世保市の保健所、さらには医師会の検査センター等)を研修して、検査対応できるよう指導してから混乱は収まった。また、調査により県内妊婦の34.7%は、風疹HI抗体を保有していないことから、女性には妊娠前にワクチンを接種して免疫を付与する必要がある。
なお、多くの妊婦は、自分の子供から風疹の感染を受けたとの不安や心配を抱いていることから、幼児期に男女とも一定年齢(ワクチン接種可能年令)に達すれば風疹ワクチンの接種を義務づけることが、先天性風疹症候群の子供の出生を予防できると考える。
現在の状況:
現在は、風疹の大きな流行は無く、また、複数の機関で検査対応可能である。さらに平成6年10月の予防接種法の改正により、男女とも幼児期にワクチンを接種できることとなっている。
今後の課題:
平成6年10月の予防接種法改正後、住民(男女)の風疹HI抗体保有状況が、どの様に変化しているのか年令階級別に調査把握し、今後の流行予測及びワクチン接種指導に備えておく必要がある。
問題点:
関連資料:
「長崎県下における風疹の血清疫学的調査」藤井一男ほか、長崎県衛生公害研究所報16, 163~167(1976)