[ 詳細報告 ]
分野名:細菌性感染症
登録日:2016/03/17
最終更新日:2016/05/26
衛研名:茨城県衛生研究所
発生地域:
事例発生日:2000年5月
事例終息日:2000年7月
発生規模:患者数45名、届出患者数27名
患者被害報告数:45名
死亡者数:3名
原因物質:Legionella pneumophila serogroup1
キーワード:レジオネラ、循環濾過方式の入浴施設、集団発生、PFGE、殺菌効果、濾過器
背景:
レジオネラ症は、1999年4月に施行された「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(感染症新法)」において全数把握対象の四類感染症に位置づけられた。数年前から24時間風呂・循環式浴槽水等を感染源とするレジオネラ症事例が報告されている。
概要:
2000年6月23日、医療機関からレジオネラ肺炎を疑う患者の報告があった。調査の結果、石岡市の循環濾過方式の入浴施設を利用した複数の感染者の発生が確認され、県内の医療機関に対し診察時の注意喚起と情報提供を依頼すると共に疫学調査を実施した。
同施設は、2000年4月7日にオープンし6月23日までに計15,995名(一日平均250名)が利用していた。臨床症状や検査結果から45名が患者として診断され(3名死亡)、うち27名の四類感染症の届け出がなされた。45名の患者は、5月20日から6月23日に当施設を利用し、おもに6月8日から27日にかけて発熱、喀痰、呼吸困難、頭痛、倦怠感等の症状を呈した(潜伏期2~13日)。有症者のうちわけは、男27名、女18名で、平均年齢は62.5歳(9~85歳)であった。
患者と施設の浴槽水等の培養からLegionella pneumophila(L. pneumophila)SG1を分離し、パルスフィールドゲル電気泳動(PFGE)の結果、同一起源菌株であるとされ、入浴施設が原因となった感染であると結論した。
原因究明:
患者検体や環境検体の培養検査、血清抗体価、尿中可溶性抗原検出、PCR等を実施した。喀痰培養2検体からL. pneumophila SG 1が分離され(東邦大学)、PCR法で6名からL. pneumophilaに対するゲノムが検出された。尿中抗原は7名が陽性で、L. pneumophilaSG1に対する血清抗体価有意上昇者は18名であった(重複)。レジオネラ症防止指針に準じ実施した施設の浴槽水等35検体から18菌株(L. pneumophila SG1,3,5,6及びL. micdadei)が分離され、9検体からPCR法により遺伝子が検出された。分離された患者由来株と環境由来株L. pneumophila SG1の遺伝子解析(PFGE)は同一パターンをしめし、同一由来菌株であることが示唆され、施設の浴槽水循環系統の殺菌効果が不十分で濾過器を中心とした循環系でL. pneumophilaが増殖し浴槽水を汚染させたと推察された。
診断:
地研の対応:
「茨城県保健福祉部レジオネラ症対策本部」の一員として専門的立場から感染原因や感染経路の究明等について助言し協議を重ねた。また、検査は当衛生研究所があたったが、茨城県では初めての集団発生であったため、かなりの混乱を呈した。
行政の対応:
「茨城県保健福祉部レジオネラ症対策本部」及び「レジオネラ症対策班」を設置し、感染原因及び感染経路究明及び再発防止等について協議した。施設に対しては、6月24日から営業自粛を指導し、7月7日付けで公衆浴場法に基づき営業停止処分を行った。(最終的に計200日)発生当初、住民からの検査及びレジオネラ症に関する相談は、おもに各保健所が担当した。保健所に相談室を設置し専門相談員を配し、施設や県民に対し指導・相談すると共に、施設関係者を対象とした講習会を開催し、レジオネラ防止対策を行った。類似施設等の未然防止対策として公衆浴場の一斉立ち入り検査及びレジオネラ属菌の検査を実施し、同様の事故の発生を未然に防ぐことに努めた。
地研間の連携:
地研全国協議会関東甲信静支部細菌研究部会の資料から、先進的に取り組んでいる静岡県環境衛生科学研究所に連絡をとり検査情報など入手することができ、その後の検査を進めるうえで非常に参考になった。相互に情報交換できる地研間の連携を深めることが必須である。
国及び国研等との連携:
国立感染症研究所からレジオネラ菌検査の操作法など種々のレジオネラ関連情報を得ることができた。また、PFGEによる遺伝子解析を依頼した。
事例の教訓・反省:
当茨城県で初めての集団発生でかなり混乱した。また、診断のための検査に終始したきらいがあった。はじめの段階で、医療機関からの情報提供がレジオネラ症の疑いとし、感染推定場所がほぼ特定できていたことはその後の対策に大いに役立った。
現在の状況:
集団感染が発生し、県内全ての公衆浴場のレジオネラ属菌検査を保健所の検査課で行った。同様の検査手順で行うレジオネラ菌のスクリーニング法が確立し、県内の公衆浴場の汚染状況が把握できた。集団感染をおこした入浴施設は、県等の指導をうけ改善計画書を作成し3月1日再開した。
今後の課題:
今回のような四類感染症に該当する集団感染事例が発生したとき速やかに対処できる体
制づくりが不可欠。予算や情報提供など。
問題点:
関連資料: