[ 詳細報告 ]
分野名:その他
登録日:2016/03/17
最終更新日:2016/05/26
衛研名:神奈川県衛生研究所
発生地域:神奈川県内全域
事例発生日:2001年10月
事例終息日:2001年12月
発生規模:05件、137検体(検査数126)、患者および保菌者の発生無し
患者被害報告数:0名
死亡者数:0名
原因物質:炭疽菌が疑われる白い粉
キーワード:炭疽菌、バイオテロリズム、白い粉、定量PCR、バイオハザード
背景:
平成13年9月11日の米国における同時多発テロ事件以降、炭疽菌を加工したいわゆる“白い粉”によるバイオテロが米国内で発生した。我が国でも“白い粉”によるバイオテロの発生が懸念され、厚生労働省は「炭疽菌等の汚染のおそれのある郵便物の取扱について(平成13年10月18日付)」および「炭疽菌等の汚染のおそれのある場合の対応について(平成13年11月16日付)」の通知で、警察が扱う不審物“白い粉”の炭疽菌の検査は地方衛生研究所で行うこととした。
概要:
概 要
神奈川県においては平成13年10月18日にT警察署管内で最初に不審物の“白い粉”が発見され、衛生研究所に検査が依頼された。当所では健康危機管理体制における緊急検査として24時間の受け入れ体制で臨んだ。
県内における検査の成績は表に示したとおりで、平成13年12月31日までに当所、横浜市および川崎市衛生研究所に合わせて105件、137検体が依頼され、その内126検体の検査を行った結果、炭疽菌は全て不検出であった。
“白い粉”と接触した市民、警察官等から、患者および保菌者の発生はみられなかった。
炭疽菌検査成績
検査機関 件数 検体数 検査数 成績
県衛生研究所 51 66 59 全て不検出
横浜市衛生研究所 45 61 58 同上
川崎市衛生研究所 9 10 9 同上
計 105 137 126 同上
原因究明:
診断:
地研の対応:
当所では事件発生後、次に示した対応によりバイオテロに備えた。
10/18炭疽菌検査法の検討
10/19衛生研究所が保管する病原性微生物等の管理品目リスト(提出)
10/20炭疽菌検査マニュアルの作成
10/20衛生研究所危機管理要領の見直し
10/25感染研の講習会参加
10/26県警へ消毒法の回答
10/22朝日新聞の取材
10/23保健福祉事務所宛に炭疽菌に関する情報提供
11/06炭疽菌に関する連絡体制について(回答) 横浜海上保安部警備救難課
12/01リアルタイムPCRの購入
5/08県警の依頼で消毒薬の検定
5/20県警の依頼でポータブルリアルタイムPCRの研修
行政の対応:
○保健福祉事務所の対応
保健予防課が中心となり近隣の警察署生活安全課と連携をとり、事件発生時における検体の輸送方法、県民からの相談、患者発生時の対応等について協議し、初動体制は警察で、健康被害については保健福祉事務所で対応することとした。
市民が“白い粉”を保健福祉事務所に持ち込んだ場合を想定し、密閉容器、採取用具、防護服、殺菌剤等のセットを準備した。
[資料参照]
地研間の連携:
国及び国研等との連携:
10月25日国立感染症研究所において、炭疽菌に関する技術講習会が行われ、検査法およびPCR法が示され、各地方衛生研究所に炭疽菌の検査マニュアル、PCRプライマー、コントロールDNAが配付された。
事例の教訓・反省:
事件発生から、検査依頼までの警察、衛生研究所間の連絡は本県の初発事例(10月18日)直後に整備され、警察と連携した24時間検査体制で迅速な対応が行われた。その後も悪質ないたずらが続き、警察ではこれらを事件として扱い、検査終了後の検体から指紋採取を行うので、検体取扱には留意していただきたいという協力要請にも対応した。
10月25日の国立感染症研究所で行われた講習会の中で厚生労働省より、警察庁から各地方衛生研究所へ毒劇物・爆発物でないことが確認されたものについて、科学捜査研究所で対応できない生物学的検査の検査協力を依頼すると説明がなされた。しかし、実際にこのような体制が整っていた自治体は少数であり、検体採取後直接搬入される自治体が多くみられ、まずどちらが検査するべきかという課題が残された。
現在の状況:
“炭疽菌が疑われる白い粉”が搬入された場合は、一次検査として鏡検(グラム染色、芽胞染色)、リアルタイムPCRによる遺伝子検査を一次検査結果として迅速な報告を行っている。また、その成績の如何に関わらず直接分離培養(加熱・非加熱)および増菌培養検査(加熱・非加熱)も実施し、最終検査結果(3~4日後)として報告している。これらの検査で炭疽菌が疑われた場合は、国立感染症研究所へ確定依頼を行うこととしている。
検体の処理は、ディスポーザブル白衣、マスク、キャップ、手袋等を着用した取扱者が安全キャビネット内で開封、鏡検用、PCR用、培養検査用にサンプル採取し、その後の培養操作等で炭疽菌が疑われる場合には状況に応じてP3施設を利用する。検体相互間の汚染防止のために、検体処理用とその後の培養操作に使用するキャビネットは区別している。
今後の課題:
炭疽菌等の稀少感染症においては、その診断および同定が困難な場合が多く、同定に関しては標準菌株の確保、実技研修等による技術者の養成が望まれる。実際に大規模なバイオテロが発生した際には、現在のように地方衛生研究所のみで検査対応することは難しい。このため患者発生を想定し各医療機関の技術者に対する研修、被害拡大防止措置等を行う担当者の研修も今後の課題である。
問題点:
関連資料:
神奈川の感染症(平成13年度)