No.346 急性胃腸炎の集団発生

[ 詳細報告 ]
分野名:ウィルス性感染症
登録日:2016/03/17
最終更新日:2016/05/26
衛研名:富山県衛生研究所
発生地域:富山県
事例発生日:2002年1月
事例終息日:
発生規模:
患者被害報告数:93名
死亡者数:0名
原因物質:Norwalk Virus
キーワード:小型球形ウイルス、SRSV、ノーウォークウイルス、感染性胃腸炎、集団発生、小学生

背景:
冬期に発生する急性胃腸炎の集団発生には、飲食に起因するものが多く、特に小型球形ウイルス(SRSV)によるものが多い。平成9年には食中毒起因物質に追加され、以後、食品衛生を中心とした方策が講じられている。一方、SRSVは、疫学的状況からみても感染経路として飛沫・糞口感染によりヒトからヒトへ伝播される感染症ウイルスとしての性質もある。このためSRSVが集団の生活形態をとる幼稚園、小学校や高齢者等の福祉施設に侵入した場合、大規模な集団発生に発展する危険性が大きい。今回は、2002年1月に小学生のドッジボール大会に参加した児童の間でSRSVによる急性胃腸炎の集団発生があったので、その概要について報告する。

概要:
2002年1月20日(日)にK市の屋内体育館で開催された小学生のドッジボール大会参加者433名中93名(21%)が「嘔吐」「下痢」「腹痛」等の胃腸炎症状を呈した事例である。患者の発生期間は1月20日~22日であったが、最初の報告は1月21日でT保健所管内のFチームの児童であった。当初、Fチームが20日の夕食を摂ったZ飲食店が感染源と考えられ、患者7名と同店従業員5名から糞便が採取された。ELISA法で患児4名と従業員2名(無症状)からNLVが検出された。しかし、T保健所の疫学調査の結果、同店での夕食後1時間頃から発症した患者が認められ、潜伏時間が短すぎること等から、同店を感染源と認めるまでには至らなかった。
一方、この大会へは県内各地区から27チームが参加していたので、各保健所の調査の結果、そのうち3チームから患者が出ており、富山県全県的に散在していることが判明した。このような状況から大会当日の昼食弁当による感染を疑い、上記とは別の患者9名と、Fチームが食べた弁当業者の従業員4名から糞便を採取した。その結果、患児からNLVが検出されたが、弁当業者従業員からNLVは検出されなかった。またこの弁当に関する疫学調査の結果、患児の多発したSチームでは、業者の弁当を食べた児童と食べなかった児童が混在しており、患児の半数以上はこの弁当を食べていなかったことが判明した。さらに大会前に発病している児童もいることが判った。本事例の発生時期には富山県全域にNLVによる感染性胃腸炎が流行しており、大会前にすでにNLVに感染していた患者が、無症状かあるいは軽い症状で大会に参加し、殆ど密室に近い環境でヒトからヒトへ感染が拡大したと考えられた。

原因究明:
本事例が最初に確認された時点では食中毒ということであった。患者がドッジボール大会に参加したということから、富山県下で大会に参加した児童家族についての聞き取り調査が行われたが、食中毒としての共通食は特定出来なかった。しかし、大会参加以前に症状のあった児童がいたことが判明したことなどから、本大会に患児が参加したために、ヒトからヒトへの感染により、拡大していったのではないかと推定された。
本事例の場合、集団で行うドッジボールの競技においてもSRSVによる感染が起こりうると示唆された事例であった。

診断:

地研の対応:
保健所経由で、当所に搬入された患者糞便、施設従業員糞便からのウイルス検査を行った。

行政の対応:
食中毒症状の小学生の集団発生に対して初発の所轄保健所での調査により県下から27チームがドッジボール大会に参加していたことがわかった。県下各保健所で疫学調査の結果3チームから患者が発生していたが3チームの間に共通食がないなど感染源は特定できなかった。その結果、感染性胃腸炎の集団発生として扱われ、全県下に感染性胃腸炎の発生を未然に防止するために県民に注意を喚起した。

地研間の連携:

国及び国研等との連携:

事例の教訓・反省:

現在の状況:

今後の課題:
保健所は患者の発生状況や行動を速やか、かつ、的確に把握し、保健所、衛生研究所と本庁担当課(食中毒、感染症の両方)と緊密に情報交換を行うことが感染源、感染経路の原因究明につながるほか、日頃から発生要因を啓発していくことが、更なる拡大を防ぐために重要と考えられる。

問題点:

関連資料: