[ 詳細報告 ]
分野名:ウィルス性食中毒
登録日:2016/03/17
最終更新日:2016/05/26
衛研名:横浜市衛生研究所
発生地域:横浜市、神奈川県、愛知県、東京都、北九州市
事例発生日:2002年3月6日
事例終息日:
発生規模:喫食者1,794名中294名発症
患者被害報告数:
死亡者数:
原因物質:SRSV
キーワード:NLVs、SRSV、Norwalk like viruses、ウイルス性食中毒、集団発生、中華街、修学旅行、調理人、シジミ
背景:
今回の事件となった中華料理店は、横浜中華街のメインストリートに面した大規模店ということもあり、全国から観光客が訪れ、修学旅行を含む多数の団体客が利用したために、全国的な広域食中毒事件となってしまった。
また、他の一流ホテル調理従事者を多数含む野球チームが利用したために、そのホテルでの結婚式等の営業に支障をきたし、その波及効果が大きかった事件でもあった。
さらには、日本人はシジミを生では一般的に常食としないが、台湾料理店では冷凍したシジミ(生)を紹興酒に漬けて薬膳料理とする食生活があるようで、独特な中華料理に関連した事例である。横浜では、近年このシジミを介した食中毒事例がしばしば探知されるようになった。
概要:
2002年3月6日に愛知県内高校生が修学旅行先の横浜中華街の中華料理店で夕食をとり、東京都内の宿泊先で翌7日夜半から8日早朝にかけて嘔気、嘔吐、下痢、発熱を主症状とする急性胃腸炎を呈した。発症した生徒61人中22名が東京都内の病院に入院するという事態になり、食中毒疑いとして東京都から横浜市衛生局に調査依頼がなされたことを契機に判明した大規模な食中毒事件である。横浜市内の宿泊先であるホテルと夕食先である中華料理店を調査し、両施設の調理従事者19名の検便、ふき取り28検体、検食5検体、その他食品13検体について、Nested PCR(プライマー:36/35系およびYuri系)によりNLV遺伝子の検出を試みた。その結果、中華料理店の調理従事者7名からNLV遺伝子が検出されたが、それ以外のふき取り、検食、その他の食品の検体からは、NLV遺伝子が全て検出できなかった。同時に福祉保健センターでの調理従事者の聞き取り調査により、同調理従事者が自店ではない台湾料理店でシジミ(生)の薬膳料理を食べ、発症中であることを自覚していたにもかかわらず調理に従事していたことが判明した。そのために、台湾料理店での調査を行なった結果、紹興酒に漬けてあった残品のシジミからはNLV遺伝子が検出できなかったが、同時に収去した生のシジミからNLV遺伝子が検出された。
調理従事者およびシジミから検出されたNLV遺伝子を解析した結果では、調理従事者からは少なくとも2種類のgenotype 2型(Mexico typeおよびLordsdale type)が検出され、シジミからはgenotype 1型が検出された。
今回の事例では、原因施設となった調理従事者がシジミを喫食し、その調理従事者が発症中に何らかの食品を汚染し、修学旅行を含む団体客に二次感染させてしまったと推定される食中毒事件である。メインストリートに面した有名店ということもあり、利用客も多く、その後の調査で、少なくとも愛知県、東京都、茨木県、北九州市、神奈川県、川崎市、横浜市の18グループ(喫食者1,794名中294名発症)の患者が発生した広域的な集団食中毒事件であった。
原因究明:
原因究明の検査に関しては、細菌検査も同時に行い、細菌検査については全て陰性であった。ウイルス検査は、Nested PCR(プライマー:36/35系およびYuri系)によりNLV遺伝子の検出を試みた。一部の検体については、デンカ生研製のSRSV用ELISAを使用してみたが、G2型陽性となる検体もあるが、G1型とG2型の両方とも陽性になる検体もみられた。両者陽性となる検体の中には、Nested PCRではNLV遺伝子が検出できない検体もあった。
診断:
地研の対応:
当初は、修学旅行生の集団発生ということで東京都から照会された事例で、その原因究明のために修学旅行生の宿泊先のホテルと夕食先である今回原因となった中華料理店の調査を行った。衛研には、両施設の調理従事者の検便、検食、ふき取り等の検体が持ち込まれ、原因施設となった中華料理店の調理従事者のみNLV遺伝子が検出された。このNLV遺伝子が検出された調理従事者に関しては、検出できなくなるまでのフォローアップを行った。
また、他の一流ホテル調理従事者を多数含む野球チームが原因施設を利用したために、さらに三次感染の防止という観点からそのホテル調理従事者検便も早急に実施した。
行政の対応:
行政における対応として、原因施設となった中華料理店における利用者の調査で、3月6日から10日までの5日間にわたる利用者からも患者発生が認められた。このため喫食者1,794名中294名の患者が発生した広域的な集団食中毒事件となり、事件の重大さから3月12日から3月22日までの11日間という営業禁止処分となった。
地研間の連携:
患者発生のみられた各地研間で連絡を取り合い、検出されたNLV遺伝子の遺伝子型の情報交換を行った。当初は、シジミが初発原因と想定できなかったため、各地研で検出されたNLV遺伝子の遺伝子型に多様性が認められたことから、当所での検査結果に対して多くの問い合わせがあった。
国及び国研等との連携:
事例の教訓・反省:
今回のような広域にわたる事件に関しては、速やかな情報提供と各地研間との連絡が必要であることを痛感した事例である。今回の事件では営業禁止とするまでの5日間の内に更なる患者発生が生じ、全国的に及ぶ広域事件になってしまったと考えられる。従来のNested PCRの検査では、速くとも1~2日の所要時間が必要であり、事件を探知してから患者検体を採取し、結果がでるまでにはどうしても3~5日位日数が必要となる。このような大規模の患者発生を食い止めるためには、1日も速い検査結果の判明が重要であり、そのためには数時間単位で結果のわかるリアルタイムPCRの導入も考慮すべきと考えられる。
現在の状況:
当所では、上記のような教訓も踏まえ、平成14年度からリアルタイムPCRを導入し、現在ではウイルス性食中毒検査の全事例の検査を行い、速い場合では数時間で検査結果が判明するように対応している。そのために週末に検査依頼がある場合も少なくないが、即日対応を可能にしている。
今後の課題:
問題点:
関連資料: