[ 詳細報告 ]
分野名:細菌性食中毒
登録日:2016/03/17
最終更新日:2016/05/26
衛研名:神奈川県衛生研究所
発生地域:神奈川県寒川町、相模原市、秦野市(他に、東京都、岩手県、福井県)
事例発生日:1998年3月
事例終息日:
発生規模:摂食者数2526名、患者数642名、入院者数50名(神奈川県)
患者被害報告数:642名
死亡者数:
原因物質:Salmonella Enteritidis
キーワード:Salmonella Enteritidis、ケーキ、給食、食中毒、集団発生、小学校
背景:
サルモネラ食中毒は以前からわが国の主要な食中毒であるが、1989年以降、発生数および患者数は共に急激に増加し、その要因はS. Enteritidisの汚染を受けた輸入ヒナに起因した汚染鶏卵による食中毒の激増によるもので、本菌型による流行は現在も続いている。サルモネラ食中毒は腸炎ビブリオ食中毒と比較して、一般に1事例あたりの患者数が多い。これは本菌食中毒の発生原因となった施設、原因食品あるいはその食材の製造、流通、販売形態によるもので、これらは食中毒発生の広域化の要因ともなっている。
概要:
神奈川県寒川町A小学校、相模原市B小学校、秦野市CおよびD小学校の4校で、1998年3月17日から児童が食中毒の急性胃腸炎症状を呈しており、給食に三色ケーキが提供されていた。同年3月11~13日にかけて、同じ業者の三色ケーキが提供された東京都昭島市内の中学校3校の生徒および教職員の多数が腹痛、下痢、発熱等の症状を呈し、東京都は給食を原因とする食中毒として原因食品を調査していた。さらに同時期、同じ三色ケーキが提供された岩手県の小学校3校、福井県の小学校および幼稚園でも患者の発生が確認され、岩手県では患者の検便と当該ケーキからS. Enteritidisが分離された。
神奈川県内小学校4校の患者発生状況は、摂食者数2526名(A小学校:555名、B小学校:811名、C小学校:1,101名、D小学校:59名)、患者数642名(A小学校:103名、B小学校:163名、C小学校:366名、D小学校:10名)、入院者数50名(A小学校:33名、B小学校:6名、C小学校:9名、D小学校:2名)で、A小学校では3月17日に、B、C、D小学校では3月16日に、大阪府のT社製造の三色ケーキを摂食していた。検査の結果、神奈川県では患者等の検便781検体中205検体からS. Enteritidisが分離されたが、当該ケーキ32検体、給食従事者便、調理器具等の関連材料から本菌は分離されなかった。しかし、患者の喫食状況および検便の結果、岩手県における検査結果等から、三色ケーキを原因食品とする集団食中毒と断定した。
原因究明:
検査の結果、神奈川県では患者等の検便781検体中205検体からS. Enteritidisが分離されたが、当該ケーキ32検体、給食従事者便、調理器具等の関連材料から本菌は分離されなかった。しかし、患者の喫食状況および検便の結果、また、岩手県の検査で三色ケーキ10検体中2検体から当該菌が分離されたことなどから、三色ケーキを原因食品とするS. Enteritidisによる集団食中毒と断定した。
診断:
地研の対応:
児童等から分離されたS. Enteritidis株について、薬剤感受性試験およびパルスフィールドゲル電気泳動法(PFGE)による染色体DNAの解析を行い、菌株間相互の類似性を検討することによって疫学的情報を提供した。
薬剤感受性試験はNCCLSの平板希釈法に準じて6薬剤(ABPC、CP、SM、KM、CPFX、NFLX)のMICを測定した。その結果、供試菌株はいずれも6薬剤に感受性であった。またPFGEパターンは、小学校4校の児童由来のS. Enteritidis分離株は各々同一であった。
行政の対応:
3月19日、神奈川県茅ヶ崎市内および秦野市内の医師から、下痢、発熱、嘔吐等の食中毒症状を呈している児童を診察したという連絡が各管轄保健福祉事務所に入った。これを受けて各保健所で調査したところ、寒川町の小学校1校、秦野市の小学校1校で3月17-19日にかけて多数の児童が欠席していることが判明した。
喫食状況および施設調査等から、給食に提供された三色ケーキが原因食品として強く疑われたため、同時期に東京都昭島市の中学校で発生した食中毒事件への情報提供をすると共に流通調査を実施したところ、神奈川県相模原市の小学校1校にも同じ三色ケーキが納入されており、多数の児童が欠席していることが確認された。また、東京都の事件についても同じ三色ケーキが小学校の給食に提供されていたとの連絡があり、さらに岩手県でも当該ケーキが原因食品と疑われる学校給食による食中毒事件が発生していた。三色ケーキは大阪府にあるT社の2カ所の工場で製造されており、製造工程および流通状況を調査した。
地研間の連携:
国及び国研等との連携:
児童等から分離されたS. Enteritidis株のファージ型別を国立感染症研究所に依頼した。結果はすべてファージ型4であった。
事例の教訓・反省:
原因食品の流通調査を的確に実施することが大切で、また広域流通食品が原因と考えられない場合であっても、他自治体との情報交換等の連携を密にしておく必要がある。
現在の状況:
今後の課題:
問題点:
関連資料:
神奈川県内の小学校で発生したSalmonella Enteritidisによる集団食中毒事例、病原微生物検出情報、19、129-130(1998)