[ 詳細報告 ]
分野名:細菌性食中毒
登録日:2016/03/17
最終更新日:2016/05/26
衛研名:堺市衛生研究所
発生地域:大阪府堺市
事例発生日:1996年7月
事例終息日:
発生規模:母集団不明
患者被害報告数:推定患者数:9,523名
患者の定義:
1.学童集団下痢症に関する全ての入院患者および,多発校学童患者
1.多発校学童からの二次感染が推測される学童家族で腹痛,下痢,血便いずれかの症状のある者
1.感染経路が明らかでない場合,血便症状を有した者,あるいは腹痛,下痢症状を有し検便にて大腸菌O157が検出された者
死亡者数:3
原因物質:腸管出血性大腸菌O157:H7
キーワード:腸管出血性大腸菌O157:H7、学童集団下痢症
背景:
腸管出血性大腸菌O157:H7(以下大腸菌O157という)による食中毒は、1982年アメリカのオレゴン州とミシガン州でハンバーガーにより起こった。
わが国において、公衆衛生上の大きな課題であるとの認識は、1990年9月の埼玉県の幼稚園における集団発生が契機となっているが、それ以前の1985年頃から報告が散見されていた。
埼玉県の事件以来、わが国の大腸菌O157に対する検査体制が整備されはじめ、発生状況がまとめられるようになった。
1996年における大腸菌O15の集団発生は、まさにO157感染症が流行したというべきものであり、これまでの発生状況とは趣が異なる大規模な集団発生が続発する年となった。5月の岡山県邑久町、6月の岐阜市、岡山県新見市の集団発生はいずれも300名を越える
ものであり、7月には堺市で世界的な大発生をみた。
概要:
1996年7月13日(土)市立堺病院より「下痢、血便を主症状とする学童10名の診察をした」との通報が堺市環境保健局衛生部に入った。
同様の情報が他の医療機関からも寄せられ、学童の集団食中毒を疑って調査を開始した結果、市内33小学校255名の学童下痢患者が判明した。
環境衛生局長を本部長とする堺市学童集団下痢症対策本部を設置し、情報収集、医療体制確保、原因究明活動等を開始した。
原因究明:
有症者検便26検体中13検体から大腸菌O157を検出、原因菌と断定した。
有症者及び二次感染防止の保菌者検索、推定食品、ふき取り等による原因追及の検査、および公共用水域等検査、
診断:
地研の対応:
7月13日(土)堺市衛生研究所に搬入された有症者検便26検体中13検体から大腸菌O157を検出、原因菌と断定した。
保菌者検索の検便検査(8,677検体)の実施、原因食品追求の食材等(939検体)の検査を実施した。
行政の対応:
1996年7月13日に、通報が堺市環境保健局衛生部に入った。
同日、堺市学童集団下痢症対策本部を設置し、情報収集、医療体制確保、原因究明活動等を開始した。
7月15日に、市民の不安を解消するため、医療相談ホットラインを設置する。
7月16日に、堺市学童集団下痢症対策本部長を市長とし、全庁体制で取り組む。
一次診療体制の確立とともに、溶血性尿毒症症候群への対応のため、三次医療機関への転送を実施。
二次感染防止のためのチラシ、啓発冊子の配布、広報車、インターネットによる情報の提供等の広報活動、公共施設の消毒、消毒液の配布、患者宅への訪問指導、飲料水の衛生確保の検査を実施。
7月21日から市民への無料検便実施。
7月27日から無症状菌陽性者に対し予防投薬等の指導を保健所で実施。
7月末より、小・中学校生、幼稚園児の一斉検便、菌陽性者には、医療機関による投薬等指導により陰性化に取り組む。
その他、治療に伴う医療費や生活費窓口開設、
食品産業界等に対する緊急融資等の施策を展開、
人権問題に対する人権問題対策プロジェクトチームを設置し、正しい知識の普及に努める。
8月2日に、堺市市議会において、病原性大腸菌O157対策特別委員会を設置する。
関連施策として、医療費の市負担、生活費貸付金制度、中小企業・農林漁業者助成金制度、被害者補償制度、フォローアップ検診対策を実施している。
地研間の連携:
検便検査の増加に伴い、当所だけでは対応できず、大阪府立公衆衛生研究所、大阪市立環境科学研究所に、検便の協力を依頼する。
また、検便の検査については、一般民間検査機関(11機関)にも依頼した。
国及び国研等との連携:
厚生省、国立感染症研究所、大阪府をはじめとする疫学解析、原因究明(ビーズ法の導入)、医療機関確保等の支援体制がもたらされた。
事例の教訓・反省:
学校給食の問題点として、施設の広さ、設備等ハード面と、衛生管理の確保のソフト面の改善及び、食品衛生管理体制の確立をはかる必要がある
現在の状況:
学校給食現場における調理施設・設備の衛生管理の徹底、食材の配送・検収・保管等搬入時からの食品のチェック、加熱処理(中心温度の確認)等調理の在り方に準拠徹底を図る。管理責任体制の明確化を図る。一方、同一食材が集中しないようにする。
今後の課題:
大腸菌O157に限らず細菌性新興感染症あるいは再興感染症は、今後も出現すると考えられる現在少なくとも今回の事例より大腸菌O157について学校給食に搬入される食品はもとより、それらを取り巻く環境由来も考慮することが望まれる。
大腸菌O157に起因した人権問題は、日常の暮らしの中では見えにくい今日の社会が抱える様々な問題を浮き彫りにした。このことに個人として、地域社会として、国や自治体の課題が提議されている。
問題点:
関連資料:
1)「堺市学童集団下痢症報告書」堺市学童集団下痢症対策本部(1997)
2)「堺市衛生研究所年報」(集団下痢症特集)堺市衛生研究所(1998)