[ 詳細報告 ]
分野名:細菌性食中毒
登録日:2016/03/17
最終更新日:2016/05/26
衛研名:千葉県衛生研究所
発生地域:千葉県東葛飾地域を中心に1都6県
事例発生日:2001年3月
事例終息日:2001年4月
発生規模:
患者被害報告数:感染者数259名(内千葉県191名)
死亡者数:0名
原因物質:腸管出血性大腸菌O157:H7(VT1&2)
キーワード:腸管出血性大腸菌,EHEC,O157,集団発生,ローストビーフ,牛タタキ,PFGEパターン,diffuse outbreak
背景:
腸管出血性大腸菌(EHEC)O157による感染症は、1996年の関西地方を中心とした大発生により社会的関心事となった。1997年以降も、散発患者発生や施設等における小・中規模な集団感染事例が続発し、腸管出血性大腸菌感染者報告数は増加傾向にある。近年、高度な調理・加工食品の普及や流通機構の発達で、同じ感染原因による患者が特定の地域内に止まらず、広範な地域で発生する“広域集団感染事例”(diffuse outbreak)が注目されている。2001年3月に、千葉県東葛飾地域を中心に関東1都5県と山形県において、ローストビーフおよび牛タタキを原因食品とする腸管出血性大腸菌O157:H7による大規模なdiffuse outbreakが発生した。
概要:
2001年3月16日に、本事例初発となる腸管出血性大腸菌O157:H7による患者発生があり、その後19日までに7例の患者発生が届け出られた。これらの患者の住居地は離れていて生活圏は異なり集団発生の認識は低かったが、3月中旬としては患者発生の集積性が高いことから、分離株のPFGE解析を行ったところパターンの一致が認められ、diffuse outbreakが強く疑われた。患者の喫食状況調査から、原因食品として某スーパーA系列店で販売された「牛たたき」および「ローストビーフ」が疑われ、収去検査の結果牛タタキから腸管出血性大腸菌O157:H7を分離した。患者由来株および食品由来株の毒素型、薬剤耐性パターンおよびPFGEパターンが一致した。当該食品は27日に店頭から自主撤去されたもののその後も感染者数は増加し、千葉県内で191名にのぼった。このうちHUSを併発した患者は12名であった。また、当該食品がA系列店以外でも販売されていたことから、隣接する埼玉県(28名)、神奈川県(23名)、東京都(7名)、茨城県(2名)や群馬県(7名)、山形県(1名)で合計68名の感染者が報告された。本事例の原因食品である「牛たたき」、「ローストビーフ」の製造は栃木県内、原料肉(輸入肉)の保管は大阪市内と関係機関は多岐であったが、関係者の協力で原料肉から患者由来株と同じPFGEターンの腸管出血性大腸菌O157:H7が分離された。本事例は、患者発生から原因食品の原材料まで追跡ができた事例である。
原因究明:
A系列店の食肉加工食品を収去し、検査を行った結果、「牛たたき」1検体から患者由来株とPFGEパターンが一致するEHEC O157:H7(VT1&2)が分離された。MPN法により汚染菌数の測定を試みたが、測定レベル以下であり菌数は不明であった。
診断:
地研の対応:
千葉県衛生研究所では、患者から分離された腸管出血性大腸菌の血清型、毒素型、薬剤感受性試験、パルスフィールドゲル電気泳動法によるDNA解析および収去食品の検査をおこなった。関係自治体の相互間で、分離菌株の交換およびe-mailによるPFGE解析結果の検討をおこなった。
行政の対応:
患者発生地の保健所では、患者から喫食状況の聞き取りなど疫学調査をおこなった。患者発生のあった5保健所の調査結果を基に、疑わしい原因施設および食材を絞り込み、検査に供するために食材の収去をおこなった。千葉県衛生指導課では、腸管出血性大腸菌O157が分離された食材の流通機構を調査すると共に、関係自治体と協力して原材料の特定をおこなった。“健康危機管理に関する検討委員会”を開き、原因究明および二次感染予防対策等を検討した。
地研間の連携:
国及び国研等との連携:
国立感染症研究所でおこなわれたパルスフィールドゲル電気泳動の結果、本事例に関連
して各都県で分離された腸管出血性大腸菌O157株のパターンの一致が確認された。
事例の教訓・反省:
本事例では、「牛たたき」あるいは「ローストビーフ」を購入して喫食した人に加えて、店内で試食をしただけの人も感染していた。EHEC O157:H7を含めた多くの腸管病原菌は、室温でも十分増殖可能である。生ものや加熱が不十分の食肉製品等の店内試食については今後注意が必要である。
現在の状況:
今後の課題:
問題点:
関連資料:
第22回日本食品微生物学会学術総会 講演要旨集,46