[ 詳細報告 ]
分野名:細菌性食中毒
登録日:2016/03/17
最終更新日:2016/05/26
衛研名:福岡県保健環境研究所
発生地域:福岡県、大分県
事例発生日:2001年9月25日
事例終息日:
発生規模:
患者被害報告数:4名
死亡者数:0名
原因物質:腸管出血性大腸菌O157
キーワード:鹿刺し、腸管出血性大腸菌O157、食中毒、DNA解析
背景:
腸管出血性大腸菌O157は、1996年に小学校での大規模集団発生が多発して以降、保育所、福祉・養護施設、病院や寮において毎年のように報告されている。また二次感染により発生が長期化・拡大した事例も報告されている。原因食品が牛タタキ、ローストビーフ、ビーフ角切りステーキ、和風キムチなど多地域に流通していた場合には、広域にわたる被害が発生している。現在では、これら被害の拡大を未然に防止するため、パルスネットにより迅速な情報交換を行える体制が整備されつつある。
概要:
2001年10月2日、腹痛、下痢、嘔吐のため医療機関を受診していた福岡県内の5歳女児から腸管出血性大腸菌O157、VT2が検出された旨の届出が保健所にあった。さらに10月日、同症状で入院中であった母親からも同菌が検出された旨の届出があった。
福岡県においては、保健所が患者及び家族等に対し健康調査、疫学調査を実施すると同時に、地研において患者、接触者の便及び食品残品などの検査を行った。その結果、症状の無かった祖母及び父親、患者宅の鹿刺し残品からも同菌が検出された。疫学調査の結果、大分県内で9月21日に購入した鹿刺しを家族4人で喫食していたことが判明したため、10月5日、福岡県保健福祉部生活衛生課より大分県生活環境部生活衛生課へ通報した。これを受け、大分県は10月5日に鹿刺しを販売していた店頭から鹿刺しの撤去ならびに鹿刺しの自主廃棄を指導した。地研において鹿刺し10検体、加熱用鹿肉2検体の合計12検体について検査を行った結果、鹿刺し5検体から同菌が検出された。両地研で分離された菌株について、パルスフィールドゲル電気泳動によるDNA解析を実施した結果、これらの菌株はほぼ同一のパターンを示した。
原因究明:
患者由来の検体(便)及び食品残品(鹿刺し)については福岡県で、患者の喫食した食品残品と同一ロットと考えられる鹿刺し及びその原材料については大分県において検査を実施した。検査は、通常の培養検査、PCR及びパルスフィールドゲル電気泳動について実施した。その結果、福岡県で分離された5菌株(患者由来4菌株、鹿刺し残品由来1菌株)、大分県で分離された5菌株(いずれも鹿刺し由来)の合計10菌株はほぼ同一のDNAパターンを示したことから、同一クローンであると示唆された。したがって、本食中毒は、腸管出血性大腸菌O157、VT2に汚染された鹿刺しが提供されたことが原因と考えられた。
診断:
地研の対応:
福岡県においては、保健所より搬入された患者、接触者の便及び鹿刺し残品の検査を行った。さらに、福岡県で分離された5菌株(患者由来4菌株、鹿刺し残品由来1菌株)、大分県で分離された5菌株(いずれも鹿刺し由来)の合計10菌株について、パルスフィールドゲル電気泳動によるDNA解析を実施した。
大分県においては、鹿刺し10検体、加熱用鹿肉2検体の合計12検体について検査を行い、鹿刺し5検体から同菌を検出した。
行政の対応:
腸管出血性大腸菌O157患者発生の届出を受け、福岡県保健福祉部生活衛生課が関連情報の集約を行いながら、保健所は患者及び家族等に対し健康調査、疫学調査を実施した。大分県内で購入した鹿刺しから同菌が検出されたことから、福岡県は直ちに大分県生活環境部生活衛生課へ通報した。大分県においては鹿刺しを製造販売していた施設の現地調査、拭き取り検査及び従業員の検便検査を実施した。
地研間の連携:
正確な検査結果を迅速に出すため、検査を担当する福岡県と大分県の地研間で、メール、電話及びファックスなどを用いて腸管出血性大腸菌O157に関する検査方法、途中経過及び結果について随時連絡を取りながら、作業を進めた。
国及び国研等との連携:
福岡県及び大分県で分離された腸管出血性大腸菌O157の菌株を国立感染症研究所へ送付し、全国で流行している菌株あるいは散発事例における菌株との関連について検討した。
事例の教訓・反省:
2県にまたがる食中毒事例であったため、菌株の輸送方法などについて安全を期すため、WHO、国立感染症研究所の病原体取扱規程に基づいた輸送容器などを常日頃から常備しておく必要がある。
現在の状況:
腸管出血性大腸菌O157に関しては、行政による情報収集、保健所による疫学調査、地研による試験検査(血清型、毒素産生、DNAパターンなど)などから得られる情報をもとに、食中毒事例の全貌を総合的に解明する連携が整いつつある。
今後の課題:
腸管出血性大腸菌O157に関しては、今後、多地域に流通している食品による広域発生が増加することが予想されることから、メール、パルスネットなどを利用した迅速な情報の共有化をさらに推進していく必要がある。
問題点:
関連資料: