No.628 アオブダイによる食中毒

[ 詳細報告 ]
分野名:自然毒等による食中毒
登録日:2016/03/17
最終更新日:2016/05/26
衛研名:愛知県衛生研究所
発生地域:愛知県津島市
事例発生日:1986年11月
事例終息日:
発生規模:
患者被害報告数:推定患者数:2名
死亡者数:1名
原因物質:パリトキシン
キーワード:食中毒、アオブダイ(Ypsicarus ovifrons)、パリトキシン(PTX)、ミオグロビン尿

背景:
アオブダイ(Ypsicarus ovifrons)による食中毒はこれまで長崎県、兵庫県、三重県及び高知県において9件の発生が報告されており、39名の患者のうち3名が死亡しているが、原因物質については判明していない。

概要:
1986年11月23日の夕方、当該患者(男、会社員、54歳)は、三重県尾鷲市三木浦港で釣り船の漁師から購入した約5kgのブダイ1尾を釣り友達から土産としてもらい帰宅した。翌24日の14時頃、そのブダイを自宅で刺身、切り身にし、切り身と肝臓は煮付け、また、切り身は味噌汁にも料理し、家族のうち、患者及びその義母(79歳、28日死亡)の二人が16時30分頃これを摂食した。患者は翌25日9時30分頃,下肢部の筋肉痛等の症状を呈し、近医2カ所を受診後、翌26日の10時頃名古屋第一赤十字病院に入院した。また、同日17時30分に当該患者の妻が病院から帰宅した際には義母もすでに発病していたが、翌27日2時頃に容態が急変したので5時頃救急車で同病院に入院した。義母は翌28日13時に筋肉崩壊による呼吸停止(病理解剖診断)によって死亡した。この二人は氏が異なっていたため28日になるまで同一家族とわからなかったが、同一家族との判明により、共通摂食品としてブダイがあることが判明し、29日に同病院からブダイに関わる食中毒の疑いで保健所に届け出がなされた。
保健所で患者宅に残っていた生切り身、切り身と肝臓の煮付け、煮汁、アラを収去した。検体は12月1日当所に搬入され、当所及び東京大学農学部水産化学教室で分析を開始した。処理したブダイのヒレ、アラ、ウロコ等の残品を鑑定したところ、アオブダイであること、また、二人の臨床症状や検査結果がアオブダイによる食中毒によるもの(全身の筋肉痛、発語障害、冷感症状、腎機能低下、尿量低下、ミオグロビン尿、GOT,GPT,LDHなどの酵素活性の上昇)と一致していたため、12月3日にブダイによる食中毒と診定され、報道発表された。なお、当該患者は一時呼吸困難等により集中治療室で2週間程の治療を受け、また、腎不全による透析治療を受けるなど重症を呈したが、約1ヶ月半の入院後、無事退院した。

原因究明:
食中毒の原因として疑われたブダイの筋肉、内臓及びそれらを用いつくられた味噌汁を試料とし、筋肉と内臓については酢酸酸性75%エタノ-ル(ph3.5)を用い毒素の抽出を行い、味噌汁については遠心分離後の上清を、エ-テルで脱脂した後同じくエタノ-ルを用い毒素の抽出を行った。抽出された毒素成分をPTXの精製方法に準じて順次、限外濾過、TSX G3000SとDEAE-Sephadexカラムクロマトグラフィ-及びTSKG2000SWカラムのHPLCを用い、部分精製を行った。この精製毒成分をTLC{溶媒系:1-ブタノ-ル:酢酸:水(2:1:1)、ピリジン:酢酸:1-ブタノ-ル:水(10:13:15:12)}及びHPLC(TSK G2000Swカラム)による分析を行ない、PTX標品の同分析結果と比較検討した。また、毒力の検討には部分精製された毒成分を用い、橋本らのアオブダイ毒のマウスにおける用量-致死時間曲線法により実施した。アオブダイの筋肉、内臓及び味噌汁中の毒素量はそれぞれ、0.8、0.7、及び1.0MU/gであった。部分精製毒のTL分析では、いずれの溶媒系においてもPTX標品と一致する単一のスポットが得られた。HPLC分析においてもPTX標品と同一の保持時間を示す単一ピ-クであったことから、アオブダイから得られた毒成分はPTXであると結論された。

診断:

地研の対応:
保健所から搬入された切り身、煮付けの身部分、煮汁及びアラについて伏谷らの方法による酢酸酸性(pH3.5)75%エタノ-ル抽出法により毒成分を抽出し、煮付けについてはセファデックスG-15のカラムにより脱塩操作を行った。マウスを用いて用量-致死時間曲線により毒性の算出を行うとともに、アオブダイ中毒の原因物質の化学的性状について東京大学農学部水産化学の橋本・野口先生に薄層クロマトグラフィ-及び高速液体クロマトグラフィ-による検討を依頼した。

行政の対応:
病院より食中毒の届け出を受けた保健所職員、県食品獣医務課職員は、患者宅及び病院へ赴き家族と連絡を取り、食品の残品の確保、家族の聞き取り調査などを開始した。

地研間の連携:

国及び国研等との連携:

事例の教訓・反省:

現在の状況:

今後の課題:

問題点:

関連資料:
1)「アオブダイによる食中毒の発生とその毒性の検討」、山田靖治ほか、第33回東海公衆衛生学会、(1987)
2)「アオブダイ中毒の原因物質について-1、薬理学的性状、野口玉雄ほか
3)「アオブダイ中毒の原因物質について-2、その他の性状、野口玉雄ほか
4)Palytoxin as the causative agent in the parrotfish poisoning: Tamao Noguchi, Deng-Fwu Hwang, Osamu Arakawa, Kinue Daigo,  Shigeru Sato, Hiroshi Ozaki, Nobufumi Kawai, Masao Ito and Kanehisa Hashimoto; Progeress in venom and tokin research, Proceeding of the first asia-pacific congress on animal, plant and microbial toxins, Held in Singapore, June 24-27, 1987