No.639 広島県産カキによる食中毒

[ 詳細報告 ] 分野名:自然毒等による食中毒
登録日:2016/03/17
最終更新日:2016/05/26
衛研名:広島県保健環境センター
発生地域:東京以西(11都府県)
事例発生日:1966年12月中旬
事例終息日:1966年12月下旬
発生規模:
患者被害報告数:1,596名
死亡者数:0名
原因物質:不明
キーワード:カキ食中毒、カキによる下痢症、カキ衛生

背景:
1960年代に入り都市化による人口の集中や産業発展による公害の増大により、下水処理などの立ち遅れからも急速な環境汚染が増加した。特に河川水流入域で養殖されるカキはその養殖環境の衛生度に大きく左右されることから当時の衛生実態からも食品事故の発生の可能性が推察される。

概要:
1966年(昭和41年)12月中~下旬にかけて広島産カキの生食(酢カキ)が原因と推定される下痢症が発生し、その患者数は東京以西、11都府県で1,596名に及んだ。
症状は概ね24-28時間の潜伏後、軽度の腹痛と下痢で重症者はみられなかった。

原因究明:
国立衛生試験所、東京都衛生研究所、広島県衛生研究所で食中毒起因菌、エンテロウイルスについての検査が行われたがいずれも原因物質は検出されなかった。

診断:

地研の対応:
生産地の地研として出荷前の検査ならびに原因物質検査、さらに各種鮮度保持向上にむけた保存実験などをおこなった。生カキの流通系統別調査(のべ682検体)の細菌学的品質(平均値)は、むき身作業場でSPC 2,700/g、E. coli446/100g、小売店舗でSPC 18,000/g、E. coli700/100gであった。さらに、カキ品質改善への行政指導のための基礎資料として1)蓄養禁止によるカキ品質改善度、2)むき身カキの洗條水別(水道水/殺菌海水/人工海水)鮮度保持実験、3)保存温度別鮮度保持実験などを行った。

行政の対応:
1)広島県
かき清浄化対策推進本部が設置され、かき衛生対策の強化・改善策、生産者への衛生指導がおこなわれた。具体的には1)河口、海岸などにおけるカキの蓄養の禁止。2)カキむき身処理場内プールにおけるドブ漬の禁止。3)カキの水増行為の禁止(カキの活力・鮮度低下の防止、細菌の増殖防止策)。4)カキ養殖海域の定期的検査の実施による養殖海域の衛生度把握などで、生産者は東京市場への出荷自主規制を行った。
2)東京都衛生局(東京都市場)
12月21日入荷の広島産カキ約3,000缶の生食禁止の行政処分および一般市販カキ生食禁止の行政指導。昭和42年1月6日「広島県産生カキの取り扱いに関する暫定措置要綱」を定め、以後入荷するカキの検査強化(大腸菌群(Deso)、カキ漬水の塩分濃度、TTC試験による鮮度試験など)、抜取り検査の結果で成績不良なもの(大腸菌群200以上/0.1g、TTC反応(-))は生食禁止措置が行なわれた。
3)国ではこの事件を契機として国内向け生食用かきを対象に「生食用かきの成分規格加工基準および保存基準」(昭和42年)を策定した。すなわち、その成分規格基準は「一般細菌数50,000/g、大腸菌(E. coli)230以下/100g」(従前は大腸菌群16,000/100g)。加工基準として輸出用かきの基準と同じ「原料かきの採取は大腸菌群70以下/100mlの海域で採取されたもの、もしくはそれと同等の海水で浄化処理されたもの」。さらに容器表示について「生食用」「調理加熱用」の明示が義務付された。(昭和42年8月24日厚生省告示第349号)

地研間の連携:
特にはなかったが東京都衛研、東京都市場検査室、広島衛研間では情報の相互交換がされた。

国及び国研等との連携:
全国規模であり、行政は国、東京都、広島県との連携が図られた。試験検査部門では国立衛生試験所、東京都市場、東京都衛研、広島衛研間で連携して進められた。

事例の教訓・反省:
未然防止することはできなかったが、これを契機に国内でのカキ衛生対策が国際水準に近付いた。

現在の状況:
現在では大規模なカキによる下痢症の発生はみられないが、1997-98年にかけてSRSVと推定される散発事例が多発しており、あらためてカキ衛生対策の強化が求められている。(主として加熱調理用カキを生食されたものが多い)

今後の課題:
食品衛生対策は1996年のO157事件もあり、HACCP的対応が益々求められている。カキ衛生対策は今一度、事件当時に立ち戻り国際的基準やマニュアルに基づいた対策が必要となっている。

問題点:

関連資料:
1)広島県衛生研究所業務年報:昭和41年度、162-189.
2)持永泰輔:広島産生カキによる食中毒事件-行政の立場から-.モダーンメディア、15(2), 83-92(1969)
3)務中昌己、岸本敬之:カキ生産地における問題点.モダーンメディア、15(2), 93-101, (1969)
4)神林三男ほか:米国における貝類衛生の考え方.食品衛生研究、11, 43-51(1961)
5)広島県保健環境センター(微生物第一部):カキ衛生に関する文献集(1,500題)、1-116(1998)(作成中)