No.717 ジエチレングリコール混入ワイン事件

[ 詳細報告 ]
分野名:化学物質による食品汚染
登録日:2016/03/11
最終更新日:2016/05/27
衛研名:○○県衛生公害研究所
発生地域:○○県
事例発生日:1985年7月
事例終息日:1985年9月
発生規模:
患者被害報告数:0名
死亡者数:0名
原因物質:ジエチレングリコール
キーワード:ジエチレングリコール、ワイン、貴腐ワイン、ガスクロマトグラフィー、ガスクロマトグラフ-質量分析計(GC-MS)、バルク(樽詰め)

背景:
ジエチレングリコールを混入したオーストリア産ワインが西ドイツ(当時)を経由してわが国に輸入された(7月24日づけ衛食第105号:厚生省生活衛生局食品保健課長通知)。
○○県内のワインメーカーが原料の一部を輸入ワイン(バルクワイン)に依存していた。最高級ワインといわれる貴腐ワインにブレンドされていた。

概要:
外国に端を発した食品衛生法違反事件が、国内の最大のワイン産地である本県を直撃し、外国産ワインを原料とするワイン生産の現状がクローズアップされた。本来の食品添加物ではなく故意に添加された化学物質であったが、国と県の行政が機敏に対処したため人的被害は生じなかった。
分析手法は2回にわたって厚生省から示されたが、本研究所は国立衛生試験所等と連絡をとりながら、現有の分析機器で迅速に対応して事件発生4日後には分析法を確立して行政や地場産業からの要請に応えた。分析に供したワインと関連製品は、行政試験分が813件、一般依頼試験分が84件の総計897件であった。その内、県内のあるワイン工場で生産された高級ワイン延べ9件からジエチレングリコールを検出した。
当時はガスクロマトグラフのオートサンプラーが未だ一般化していない時期であり、試験溶液の注入が人手に頼らねばならず、ガスクロマトグラフの稼働台数が試験品の処理能力の鍵を握っていた。したがって、本研究所のみならず、衛生検査センターや食品工業指導所(他部局)にも協力を求め迅速に対処する方向を目指した。なお、当時は本研究所にはガスクロマトグラフ-質量分析計が未設置で、最終的な確認に苦慮した。

原因究明:
県内のワイン製造施設が故意にジエチレングリコールを混入させたわけではなかったが、ワインの原料として外国産の製品ワインを使用していることが表面化することを避けようとする意識が強く、行政がバルクワインの流れを把握することに困難を極め、結果的に原因究明と製品回収が遅れる原因となった。

診断:

地研の対応:
1)7月29日:分析法の確立
2)7月31日:初めての行政試験結果報告16(ボトル6、バルク10)
3)8月8日~15日:行政試験結果報告31(輸入ワイン10、バルクワイン4、県内産15、その他2)
4)9月4日~7日:初めての陽性試験結果報告22(県内産22)(検出9:1.62, 1.62, 1.69, 2.00, 2.32, 2.52, 2.55, 3.04, 3.28g/)
5)8月28日~10月18日:746件
6)11月1日:最終行政試験結果報告1
7)8月8日~9月7日:一般依頼試験結果報告84件

行政の対応:
国内の状況
1)7月24日づけ衛食第105号:厚生省生活衛生局食品保健課長通知、「ジエチレングリコールが混入された輸入ワインについて」、
*オーストリア、西ドイツ産ワインに混入の情報第1報
2)7月26日づけ衛食第106号:厚生省生活衛生局食品保健課長通知、「ジエチレングリコールが混入された輸入ワインについて」
3)7月27日づけ:厚生省生活衛生局食品保健課事務連絡、「ジエチレングリコールが混入された輸入ワインについて」、
*混入の疑いのあるオーストリア産ワインリストの公表
4)7月27日づけ:厚生省生活衛生局食品保健課事務連絡、「ワイン中のジエチレングリコールの分析法について」、
*暫定分析法の提示
5)8月6日づけ:厚生省生活衛生局食品保健課監視係事務連絡、「国内においてジエチレングリコール混入が判明した輸入ワインについて」、
*18銘柄:東京都(15)、神奈川県(1)、埼玉県(2)、愛知県(1)、大阪府(3)
6)8月6日づけ:厚生省生活衛生局食品保健課長事務連絡、「ジエチレングリコール混入が判明したワインについて」、
*オーストリア産:142銘柄、西ドイツ産:10銘柄
7)8月6日づけ衛食第110号:厚生省生活衛生局食品保健課長通知、「ジエチレングリコールが混入された輸入ワインについて」、
*イタリア産赤ワインに混入判明
8)8月20日づけ:厚生省生活衛生局食品保健課事務連絡、「ワイン中のジエチレングリコールの分析法について」、
*第2分析法、信頼できる検出限界:10ppm
9)8月20日づけ:厚生省生活衛生局食品保健課監視係事務連絡、「国内においてジエチレングリコール混入が判明した輸入ワインについて」、
*66銘柄:北海道、東京都、神奈川県、横浜市、埼玉県、石川県、愛知県、名古屋市、京都府、大阪府、奈良県、熊本県
10)9月7日づけ衛食第125号:厚生省生活衛生局食品保健課長通知、「ジエチレングリコール不混入が確認された輸入ワイン等の取扱いについて」、
*輸入ワイン関係団体:「ジエチレングリコール不混入が確認及びその明示等に関する実施要領」の承認、
混入判明ワイン公表:輸入5銘柄仙台市、東京都、群馬県、神戸市、大分県、国内産7銘柄東京都、○○県、大阪市、兵庫県、広島県、広島市県内の状況

次のような文書が発せられたが、厚生部環境衛生課が中心となり、県食品監視専門班と各保健所の協力で県内の全てのワイン製造施設について、輸入ワインを原料としているか否かの調査、生産ラインのチェック、製品の回収等にあたった。特に当該製造施設を所轄する日下部保健所は、昼夜を分かたず懸命に対処した。

1)8月6日づけ環第8-7号:厚生部長通知、「輸入有毒ワインについて」、*輸入ワイン(6)とバルク使用ワイン(10)の検査結果の公表と監視強化
2)8月12日づけ環第8-21号:厚生部長通知、「ワインの安全確保の伴う検査実施について」、*輸入バルク使用の県内製造全銘柄と熟成貯蔵しているバルクの一斉検査の実施

地研間の連携:
先進的な業務をこなしている東京都立衛生研究所には多大のご協力をいただいた。

国及び国研等との連携:
国立衛生試験所の食品部・食品添加物部に随時相談する等、試験方法の確立について有意義など指導をいただいた。

事例の教訓・反省:
公的研究機関として、新たな事態に対応するため研究所職員の情報収集と技術研鑽に対する不断の努力とそれを支える体制が不可欠であり、同時に分析機器の充実が望まれた。
人的な面では、県の各試験研究機関の人事交流と計画的な技術職員の配置と育成が必要であり、対外的な協力関係の確立も重要である。
また、不測の事態に対処するために、日常的に関連する試験研究機関の協力体制を構築しておくことが重要である。

現在の状況:
本事例発生後、○○県においては、本研究所にガスクロマトグラフなどの分析機器を充実するとともに、県の各試験研究機関の人事交流を行い試験研究機関相互の情報交換・協力体制を図っている。
また、ワイン業界においても、自主的な管理体制を確立する中で原料表示方法などの改善を図るなど、一層の安全管理に努めている。

今後の課題:
公的研究機関として緊急事態発生時の対応策を日常的に準備しておく必要がある。このため、県内の試験研究機関の協力体制と都道府県の枠を越えた地研同士の不断の技術力を高めるための協力体制の構築が重要である。

問題点:

関連資料: