No.887 長崎県沿岸(日本海側)に漂着したポリ容器の内容物について

[ 詳細報告 ]
分野名:その他
登録日:2016/03/11
最終更新日:2016/05/27
衛研名:長崎県衛生公害研究所
発生地域:長崎県の日本海側に面した対馬、壱岐、上五島、下五島、松浦・平戸及び西彼杵半島等の海岸
事例発生日:2000年3月
事例終息日:2000年4月
発生規模:
患者被害報告数:0名
死亡者数:0名
原因物質:濃塩酸、塩酸と硫酸の混合液、塩酸と硫酸と酢酸の混合液、及び硫酸
キーワード:漂着ポリ容器、成分

背景:
長崎県沿岸には、2000年以前からハングル文字で表示された様々な形状と容量のポリ容器が毎年多数漂着し、沿岸海域で操業している漁業者や養殖業者が漁業操業及び生産上の被害を受け、また地域住民も海水浴シーズンにはこれらの漂着したポリ容器により遊泳と景観を妨げられるなどの幾多の環境被害が発生していたが、国外からの漂着物であることから、被害防止の有効な対策を講ずることが困難であり、県内各市町村自治体及びボランティア団体等がこれまで必要に応じてそれぞれの経費負担で回収のうえ焼却処分を行っていた。

概要:
2000年3月20日頃から、長崎県の日本海側に面した対馬、壱岐、上五島、下五島、松浦・平戸及び西彼杵半島等の海岸に20リットル容量の角型ポリ容器が漂着し始め、2000年4月24日現在で県内4市33町1村で16,498個が発見された。
全国的にみると、北海道から長崎県沿岸の日本海側で当該形状と容量の漂着物が発見されたが、長崎県沿岸に漂着したものが最も多く、全国では35,731個(2000年4月17日現在)が発見されている。
漂着物の多くは20リットル容量の角型ポリ容器であり、容器の色調は青色が最も多く、その他、灰色、黄色、白色、緑色及び黒色のものもあった。容器の表面には、過酸化水素水又はH202、硝酸又はHNO3、燐酸又はH3PO4あるいはPHOSPHORIC ACID、氷酢酸又は酢酸、蟻酸又はFORMIC ACID、及びKOHなどの表示がされたものもあった。
県下で発見された当該ポリ容器のうち、内容物の入ったものは364個で、そのうちpH、塩素イオン、外観等により海水と類似していると判断されたものを除く104個が検体として長崎県衛生公害研究所に搬入された。

原因究明:
当研究所に搬入された104個の検体のうち、油(重油、灯油、廃油等)及び水に溶けない液体の6検体を除く98検体について検査を行った。検査項目は、pH、EC、陰イオン(Cl-,SO42-,PO43-、NO3-)、-陽イオン(NA+,K+,Ca2+,MG2+)、容器に表示のあった成分(過酸化水素、蟻酸、酢酸)、有害物質(Cd,Pb,T-Cr,Cr6+,Hg,As,Se,CN)について行い、0.1N NaOHによる滴定で酸濃度も求めた。
検査の結果、ポリ容器の内容物は、ポリ容器に記載された内容物とは異なり、濃塩酸に近いものが4検体、塩酸に海水が混入したものが27検体、塩酸と硫酸が混入したものが7検体、塩酸と硫酸と酢酸が混入したものが1検体、硫酸の混入したものが4検体であった。また、金属などの有害物質の濃度も低いため、工場排水などの可能性も少なく、どのような種類の液体(工業用試薬など)か、どのような経路で海に流されたか不明であった。

診断:

地研の対応:
当研究所においては、搬入された検体の内容物には海水の混入が考えられることを考慮して、内容物の同定、有害物の混入の有無を目的とした検査を行った。

行政の対応:
県の担当部局である県民生活環境部は、県下の各市町村自治体に「20リットル容量の角型ポリ容器の漂着」についての情報を迅速に連絡し、海岸に面している県内各自治体に対してはそれぞれの自治体の広報マイクで「漂着ポリ容器を発見した場合は、絶対にフタを開けないこと、速やかに発見場所管轄の市町村又は最寄りの保健所へ知らせること」を繰り返し広報周知するとともにマスコミ等の報道を通じて県民へ注意を喚起した。
漂着ポリ容器の発見回収には漁業組合員の協力も求め、発見された漂着ポリ容器は、漁協職員、市町村職員及び保健所職員により回収のうえそれぞれの市町村自治体にて保管した。
回収保管された当該漂着ポリ容器は、当研究所の検査結果判明後、廃棄した者が不明であることからそれぞれ保管した各自治体が、経費負担のうえ処分した。

地研間の連携:
特になし

国及び国研等との連携:
特になし

事例の教訓・反省:
県が迅速に各市町村自治体へ情報を伝え、各市町村自治体が即応し広報マイク等により「絶対にフタを開けないこと、発見現場の市町村又は最寄りの保健所へ知らせる」ことを繰り返し広報し、また、マスコミなどの報道を通じて速やかに県民へ注意を喚起したこと
により、一人の被害者を出すこともなく収拾することができた。

現在の状況:
2003年1月13日現在、長崎県沿岸においては20リットル容量のハングル表記の当該ポリ容器の漂着の報告はないが、2003年1月13日付けの新聞報道によると、2003年1月10日から1月12日にかけて福井県三国町から島根県浜田市にかけての日本海沿岸に当該ポリ容器計約1,200個が漂着したことが、第8管区海上保安部の調べでわかったとの報道があった。同報道によると2002年にも日本海沿岸で同じような容器が漂着しているのが見つかっているとのことである。

今後の課題:
外国で廃棄され、海を漂流して日本の沿岸に漂着しており、廃棄した者の特定が極めて困難であり、廃棄した国及び不法廃棄者の特定は外交上の大きな課題である。
また、ポリ容器の処分経費は、回収保管した各地方自治体が止むを得ず経費負担の上で処分しており、外国からの漂着廃棄物の処分経費については、国が負担する制度を検討する必要がある。
さらに、漂着した角型ポリ容器の内容物は、容器に表示した成分通りではなく、どのような内容物が混入されているのか不明であり、健康被害を考えると漂着ポリ容器の内容物は、危険性が非常に高い。

問題点:

関連資料:
「漂着ポリ容器の内容物検査について」馬場強三ほか、長崎県衛生公害研究所報45、83-86(1999)