[ 詳細報告 ]
分野名:その他
登録日:2016/03/11
最終更新日:2016/05/27
衛研名:岐阜県保健環境研究所
発生地域:岐阜県郡上郡明方村(現明宝村)畑佐地区
事例発生日:1970年11月
事例終息日:1973年
発生規模:
患者被害報告数:0名
死亡者数:0名
原因物質:カドミウム
キーワード:カドミウム汚染、廃鉱、鉱滓汚染、尿中カドミウム、カドミウム汚染米
背景:
カドミウム汚染発見の経緯:当時明方村は郡上保健所の成人保健対策のモデル地区として、住民検診時循環器検診も実施されていた。この検診には地元岐阜大学公衆衛生学教室も協力機関となっており、大学では研究の一環として尿中の鉛、カドミウムなどの測定をしていた。明方村住民についてのカドミウム値にやや高値を示すものがあり、畑佐地域に地域特性がみられたことが発端となった。
概要:
尿中カドミウムは他地区ではすべて10μg/l以下であったが、畑佐地区では10μg/l以上を示すものが3割みられた。この時期は富山県におけるイタイイタイ病が問題となっている時期でもあり、カドミウム汚染が疑われ過去の状況調査、環境調査、健康調査などが実施された。
1) 歴史
文禄3年口長尾村(現明宝村)に銀鉱が発掘され、その後徳川幕府の管轄銀山として採掘された。鉱山は近代に入っても畑佐鉱山として大正年間まで採掘された。明治以降では明治40年最も盛況とされ採鉱高は銀鉱24万8616貫、製出銀712貫余、銅鉱4万9764貫、製出銅11万斤余となっている(郡上郡史、八幡町史による)。
2)検診による状況
廃鉱のある畑佐地区住民について日本公衆衛生協会の研究班報告に基づいて検診が実施された。カドミウム汚染を反映する住民の尿中カドミウム値をみると、0~4.9μg/lでは男36名(43.9%)、女29名(32.6%)、5.0~9.9μg/lでは男28名(34.1%)、女28名(31.5%)、10.0μg/l以上では男18名(22%)、女32名(35.9%)となっている。
3)環境状況
畑佐地区に鉱滓がむき出しで山積されており汚染源とみられたことから、周辺の土壌、産出米についてカドミウムの測定が実施されている。水田で73.4mg/(乾燥土壌g)を最高値とするカドミウム汚染がみられている。また、35検体の米のカドミウム値は平均0.81ppm、最高2.79ppmであり、7検体が1ppm以上であった。
原因究明:
概要参照
診断:
地研の対応:
岐阜大学の研究調査がカドミウム汚染発見の発端となっており、以後の環境中のカドミウム測定を主体としたフォローアップが衛生研究所の主要業務であった。
行政の対応:
土壌や米中のカドミウム汚染が明らかとなったことから、(1)むき出しの山積している鉱滓の封じ込め工事、(2)田畑の土壌交換が行われた。このほか数年にわたり住民の健康調査が実施された。
地研間の連携:
国及び国研等との連携:
事例の教訓・反省:
本事例はマスコミにも大きく取り上げられたことから、全国の廃鉱の調査へと広がった。
本事例は結果としては住民の健康に大きな被害は出ていなかったが、カドミウムの長期暴露による健康影響の状況を知ることができたこと、以降の暴露を未然に阻止できたことなどに意義があった。
現在の状況:
今後の課題:
現在、各地で住民は極微量ではあるが、各種有害物質による暴露にさらされている。これらの暴露を早期に発見するには、大気、水、土壌など環境中の汚染物質をモニタリングしていくことも大切であり、また、老人健康診査などの検診時に環境汚染をチェックする方法も検討する必要がある。本事例では、尿中カドミウムの正常域が把握されていたため汚染を疑うことができた。データの積み重ねが効を奏する事例の1つである。
問題点:
関連資料:
1)宮田昭吾、カドミウム米産地での健康調査、岐阜県の公害、33~40、岐阜日日新聞
社、(1971)
2)竹内宏一ほか、廃鉱山付近のカドミウム汚染について (1)歴史的背景と土壌汚染、第30回日本公衆衛生学会総会にて発表、東京、(1971)
3)河合信ほか、廃鉱山付近のカドミウム汚染について (2)住民検診成績、第30回日本公衆衛生学会総会にて発表、東京、(1971)