No.986 製肥工場の硫化水素ガス発生事故

[ 詳細報告 ]
分野名:その他
登録日:2016/03/11
最終更新日:2016/05/27
衛研名:和歌山市衛生研究所
発生地域:和歌山市中島
事例発生日:2000年6月22日,午後2時過ぎ
事例終息日:
発生規模:
患者被害報告数:44名
死亡者数:1名
原因物質:硫化水素
キーワード:硫化水素,有毒ガス,ガスクロマトグラフ,製肥工場,化製場,高圧釜,羊毛

背景:
当該製肥工場は,1960年創業で,1972年に化製場の許可を受け,普段は牛皮等を原料にして肥料を製造している。

概要:
事件当日は,牛皮を原料にするのではなく,羊毛・羊皮くずを原料にして肥料を製造するテストを実施していた。羊毛くず等約2トンを回転式圧力釜に入れ,ボイラーから蒸気を送り込み約2時間加圧・加熱した後,蒸気を配管を通じて冷却装置で冷やし,水を入れた排水槽に導くようにしていた。牛皮に比べ,硫黄含有アミノ酸の多い羊毛等を原料にしていたため,硫化水素が多量に発生し,蒸気を冷却して水に吸収させても吸収しきれず,多量の硫化水素が工場及びその周辺の大気中に放散したものである。工場内にいた6人がガスを吸入して倒れ,3名が重症,うち1名が死亡した。また,付近住民38人が頭痛・吐き気等の症状を訴えた。

原因究明:
22日深夜,警察から保健所に,汚水槽の上部の空気から硫化水素100ppm検出との連絡が入った。衛生研究所では,着衣を入れた二つのビニール袋中の空気から,それぞれ硫化水素0.89ppm,0.12ppm検出した。新聞(23日,夕刊)は,県警科学捜査研究所が事故発生3時間後に排水槽上部で採取した空気から硫化水素125ppm検出したと報じた。

診断:

地研の対応:
22日17:40に最初の情報(事故現場調査後の情報:亜硫酸ガスか硫化水素等の暴露事故,粘膜びらん,肺水腫,意識障害,化成場での事故,4人重症・入院等)を保健所から受け,直ちに所長及び生活科学班長が検査体制を打ち合わせ,職員に参集の連絡をして検査準備に取り掛かった。また,被害者の入院先に,ビニール袋に入れて個々に保管されていた2名分の患者の着衣を引き取りに出発し,検査材料を持ち帰った。19:30事故現場の土壌3検体,汚水1検体が保健所から搬入された。19:17から順次検査に着手。
・被害者の着衣(ズボン,靴下,靴,パンツ等の下着)の臭いを嗅ぐも,工場の特異な臭いが強く,亜硫酸ガスか硫化水素かといった臭いは感じ取れなかった。
・ビニール袋から,悪臭検査用の試料採取袋に臭気の採取を開始。
・イオンクロマトグラフで土壌と汚水の検査を開始。結果は,汚水からは陰イオンで異常値を示すものは検出されなかった。
・NOX計で臭気の分析開始。結果は,ビニール袋から直接測定した場合は窒素酸化物0.49ppm,試料採取袋に採取したものの場合は0.18ppmであった。この値は,一般作業中に付着したレベルと判断される。以上の結果を福祉保健部長に報告。
・ガスクロのカラムをS系のカラムに交換し,エージング開始。
・液体酸素の入手が不可能だったため,当日のガスクロ分析についてはここまでとする。23日
9:30 液体酸素を入荷し,悪臭(S系),土壌(硫化物イオン,シアン),汚水の分析開始。
15:15 悪臭分析において,硫化水素らしいものを検出。その確認作業開始。
16:40 土壌,汚水のシアン定性終了。結果:不検出。
16:50 土壌,汚水の硫化物イオン定性終了。結果:不検出。
18:00 土壌のイオンクロマト終了。結果:陰イオン,陽イオン共に異常物質不検出。
20:30 衣服の入ったビニール袋から,硫化水素0.89ppm検出。以上の結果を速やかに福祉保健部長及び保健所長に報告。

行政の対応:
消防局から情報を入手後,保健所では直ちに医師,薬剤師,獣医師の計4名が現場調査の準備に取りかかり,現場はマスク不要との消防局の情報を得て,調査に出発。同時に,環境対策室からも2名が調査に出発。現場は警察と消防の現場検証中であった。保健所では緊急連絡会議を開催し,現場からの状況報告を受けながら各方面との情報交換を行った後,工場周辺の半径200メートル以内にある104世帯を訪問し,健康被害調査を実施した(保健婦15人,7班編成)。
保健所の現場調査において,工場内外の土壌3検体及び工場内の汚水1検体を採取,衛生研究所に搬入し検査に付す。

地研間の連携:

国及び国研等との連携:

事例の教訓・反省:
液体酸素の納入を待つまでもなく,事件当日にビニール袋内の空気を直接ガスクロにかけるべきだった。初めての検査ゆえ最適な分析条件を探すのに時間を要した。

現在の状況:
悪臭物質に係るガスに関しては,普段検査を実施しているために技術,体制,設備においては何とか検査できる状況であるが,色々な臭気の入り混じった臭気の強い検体の場合は検査に一考が必要である。

今後の課題:
検査マニュアルの整備,悪臭物質以外の有毒ガスへの対応,原因物質の早期解明のための各種ガス検知管の常備,検体の採取法・処理法の検討,事件の発生・現場の状況・その他の情報連絡の迅速化

問題点:

関連資料: