[ 詳細報告 ]
分野名:化学物質による食品汚染
登録日:2016/03/11
最終更新日:2016/05/27
衛研名:三重県科学技術振興センター保健環境研究部
発生地域:三重県(愛知県、宮崎県でも同様事例発生)
事例発生日:2002年8月
事例終息日:
発生規模:
患者被害報告数:三重県における被害者数 1名
死亡者数:0名
原因物質:デキサメタゾン、インドメタシン
キーワード:台湾産健康食品、健康被害、デキサメタゾン、インドメタシン
背景:
国民の健康志向ブームに乗じて、健康食品等に本来含まれてはいけない化学薬品やホルモン剤を混入して、あたかも、効果が著しいようにみせかける未承認医薬品の発見事例が数多くみられるようになった。健康被害者を含む関係者が多県にわたる未承認医薬品等の場合、各県によって対応がまちまちであり調整が必要となるが、今回は三重県における対応として、台湾産健康食品の事例を紹介する。
概要:
本危機事例のいきさつは以下のとおりである。
台湾産健康食品「中国健康食品不老長寿之源秘宝百歩蛇全体粉」(製造元は台北市。肩こりや関節痛などへの応用をうたっている。)を平成14年4月ごろから服用していた宮崎県内の60才代の女性は血糖値が急上昇し、糖尿病の発病が危惧されたため、宮崎県衛生環境研究所が検査した結果、同製品1カプセル中に、医薬品成分のデキサメタゾン0.42mgとインドメタシンが12mgがそれぞれ検出された。通常使用量を超えて服用すると、デキサメタゾンは糖尿病やけいれん、インドメタシンは嘔吐や食欲不振などの副作用があるという。同製品の含有量は微量で、通常使用量以下であるが、デキサメタゾンに糖尿病の副作用があることなどから、同製品が血糖値上昇の原因と推定された。そこで、8月2日、宮崎県は、食品衛生法上の表示違反及び薬事法上の広告違反が発見されたと、同製品の販売元がある愛知県に通報した。
愛知県と名古屋市は、8月14日、医薬品成分(副腎皮質ホルモン剤と消炎鎮痛剤)が検出されたとして、薬事法違反の疑いで同製品を個人輸入して販売していた愛知県名古屋市内の男性Aに回収を指示した。また、男性Aから同製品を買って転売していた三重県内の男性Bと宮崎県の薬店に対しても、両県は販売中止と製品回収を指示した。
なお、三重県内の男性Bは、平成7年頃に、同製品を台北市から個人輸入し瓶に詰め替えて健康食品としてインターネットなどを通じて販売し始めたが、病気のため休養した。そこで、代わりに名古屋市内の男性Aが仕入れ、男性Bや宮崎県内の薬店などに卸していた。(平成14年8月15日付けの新聞各紙等の情報)
厚生省によると、平成6年12月に同製品による健康被害がみられ、平成8年2月には、1カプセル当たり、インドメタシン(1.8~37mg)、デキサメタゾン(0.35~0.83mg)、イブプロフェン(96~109mg)、カフェイン(18~54mg)が検出されたとして、各県に流通に関する情報提供を求めていた。
このような経緯のある健康食品であることから、三重県薬務食品チームは県民にも同製品の服用中止及び健康被害がある場合の早期の医療機関での受診を呼びかけると共に、本庁と各県民局に相談窓口を設けて対応した。その結果、平成14年8月に1件の相談事例があり、検体が薬務食品チームにより当研究部に持ち込まれ、分析を行うことになった。
原因究明:
当研究部では、あらかじめ、宮崎県や愛知県の情報により、台湾産健康食品にはデキサメタゾンとインドメタシンの混入の疑いが強いと判断し、相談を受けた検体について、これら2医薬品に絞って同定・定量を行った。日本薬局方収載のインドメタシンカプセル及びデキサメタゾンの試験法に準じて分析を行った。カプセル内容物のメタノール抽出液をフォトダイオードアレイ検出器付きHPLCにて分析したところ、1カプセル中にデキサメタゾン0.44mgとインドメタシン6.9mgが検出された。分析方法の詳細は以下のとおりである。
カプセル内容物0.5gをとり、メタノール50mLを加えて超音波処理を20分間行い、メンブランフィルターでろ過し、試料溶液とする。別に、デキサメタゾン、インドメタシンを別々にとり、メタノールに溶かし、各々100μg/mLとしたものを各標準溶液とする。試料溶液及び各標準溶液2μLを、フォトダイオードアレイ検出器付きHPLCに注入し、以下のHPLC条件で分析した。
HPLC条件:
検出器;紫外可視吸光光度計(254nm)、
カラム;Cosmosil5C18-P-MS(4.6×150)、カラム温度;25℃、
移動相;*デキサメタゾン 水/アセトニトリル混液(2:1)、
*インドメタシン メタノール/薄めたリン酸(1→1000)混液(65:35)
診断:
地研の対応:
行政の対応:
地研間の連携:
すでに、本台湾製健康食品に対応していた愛知県と分析法及び状況について情報交換を行った。
国及び国研等との連携:
事例の教訓・反省:
健康被害は多くの都道府県にまたがって発生する事が多いが、互いの情報交換を行うことにより、迅速かつ正確に試験検査をすることが可能となる。今回の場合は三重県と同じ東海北陸ブロックに属し、先進県である愛知県が関与しており、詳細な情報交換が速やかに行なわれ、迅速な試験が可能となり、健康危機事例に適切に対応できた。日頃から、全国衛生化学協議会等の協議会や学会等に参加して、知己を増やしたり、情報収集しておく必要性を感じた。
現在の状況:
技術的には、今回は様々な情報により、混入している医薬品が明らかであったことから、比較的スムーズに対応することができた。また、当所では、フォトダイオードアレイ付き液体クロマトグラフを保有しているので、医薬品成分の同定・定量に役立った。
今後の課題:
問題点:
関連資料:
1)無承認無許可医薬品の流通について(平成8年2月6日厚生省薬務局監視指導課監視指導第一係長 事務連絡)
2)日本薬局方解説書編集委員会編“第14改正日本薬局方解説書”東京,廣川書店,2001,p.C-1980~1985、C-300~311.