[ 詳細報告 ]
分野名:細菌性食中毒
登録日:2016/03/11
最終更新日:2016/05/27
衛研名:香川県環境保健研究センター
発生地域:香川県高松市
事例発生日:2002年6月25日
事例終息日:2002年7月
発生規模:摂食者数 1,725名
患者被害報告数:有症者数 725名
死亡者数:0名
原因物質:Salmonella Enteritidis(サルモネラ・エンテリティディス)
キーワード:中毒、幼稚園、昼食弁当、Salmonella Enteritidis、サルモネラ・エンテリティディス
背景:
近年,食中毒発生件数は増加傾向にあり、細菌性の食中毒原因菌の中ではサルモネラは腸炎ビブリオとともに常に上位をしめている。サルモネラの中では,1999(平成11)年にSalmonella Oranienburgの急激な増加が見られたものの、わが国においてはSalmonella Enteritidisが蔓延している状態が続いている。香川県においても、S. Enteritidisを原因とする食中毒は毎年発生している。その原因としては鶏卵や卵加工品によるものが多く,食品衛生や公衆衛生上問題となっている。
概要:
2002年7月4日、高松市内の医療機関の医師から下痢、腹痛、発熱等の症状のある患者の検便を実施したところ、6名の患者からサルモネラO9群を検出したとの連絡があった。この患者らは、高松市内の別々の幼稚園の園児であり、各幼稚園での喫食状況、園児の欠席状況を確認したところ、6月28日から休園する園児が増加していた。さらに、翌7月5日には4医療機関からサルモネラO9群を検出したとの連絡があり、前日と合わせて6医療機関からサルモネラO9群を34名から検出した旨の連絡があった。
患者は数ヶ所の幼稚園の園児であり、発熱、下痢、腹痛が共通な主症状としてあること、共通する食事はD施設が6月24日または25日に調製した昼食弁当のみであることから、共通食を調製したD施設を原因施設と判断し、5日間の飲食店営業の停止処分とするとともに検査も実施した。
原因究明:
調理従事者等の糞便、保存検食、および施設の拭き取りについて、食中毒起因菌の検索を実施した。その結果、原因食と推定された翌日の食材のうち、増菌培地を用いた場合に高野卵とじからS. Enteritidisが検出された。また、患者由来株34株については性状確認をした後、血清型別をおこなったところ、すべてS. Enteritidisであった。
食材由来1株と患者由来株34株についてパルスフィールド・ゲル電気泳動法による遺伝子解析を行った結果、全株のDNA切断パターンが一致した。
診断:
地研の対応:
当県では、食中毒発生時における原因究明のための検査から分離株の精査および遺伝子検査(遺伝子検出、遺伝子解析)まで全て環境保健研究センターで実施している。また、高松市は中核市であるため原因究明のための検査は市でおこなっているが、依頼があった場合は県が分離株の精査および遺伝子検査をおこなっている。今回は初期段階の検査から県に依頼があったために、検査はすべて当所でおこなった。
行政の対応:
高松市保健所は、7月4日の事件探知後、施設の立ち入り調査を実施するとともに、有症者や調理従事者等の糞便、保存検食および施設の拭き取りの検査を実施した。
それらの疫学調査結果から、当該施設で調理、提供した食事が原因と判明し、施設に対して食品衛生法に基づき、5日間の営業停止処分をおこなった。
地研間の連携:
国及び国研等との連携:
事例の教訓・反省:
保存検食からS. Enteritidisが検出されたが、それは共通食として原因食と考えられた翌日の食材からであり、さらに、患者発生が大きいピークを示すことなく長期間にわたったことから、食品の保存方法の不備、施設整備の清掃、消毒の不足による二次汚染が原因であったと思われる。このことから、再発防止には施設整備の改善および施設管理者や調理従事者への衛生管理、衛生教育の徹底が必要であると思われた。
現在の状況:
食品衛生監視機動班、食品衛生専門監視指導班および保健所が監視および指導の徹底をはかっている。
今後の課題:
保健所は患者の発生状況や行動を速やか、かつ、的確に把握し、保健所、環境保健研究センターと本庁担当課(食中毒担当課)と緊密に情報交換を行うことが感染源、感染経路の原因究明につながると思われる。また、感染症担当課とも情報交換することも重要であると考えられる。
問題点:
関連資料:
昼食弁当を原因食として発生したS. Enteritidisによる食中毒事例の疫学的検討──香川県環境保健研究センター所報 創刊号、71-75(2002)