[ 詳細報告 ]
分野名:その他
登録日:2016/03/11
最終更新日:2016/05/27
衛研名:東京都健康安全研究センタ-
発生地域:東京都
事例発生日:2003年1月
事例終息日:2003年2月
発生規模:
患者被害報告数:0名
死亡者数:0名
原因物質:クロロフェノ-ル類
キーワード:甘納豆,異臭,クロロフェノ-ル類,苦情
背景:
甘納豆の製造に当該事業所では、アルミ製蒸気釜を用いている。加圧下での高温蒸気による加熱のため、アルミ製蒸気釜は長年に渡って使用した場合、微細な亀裂ができやすい。また、加熱蒸気をリサイクルして使用しているため、ひとたび、蒸気配管内に異臭物質などが生成、あるいは混入した場合、これらは排出されることなく、そのまま配管内を循環し濃縮される可能性があった。
以上のことから、蒸気釜及び配管に関して、食品衛生的に厳密な管理システムが必要不可欠な状況にあった。本件では、これらの管理システムが不十分であったため、配管内に生成されたクロロフェノ-ル類が蒸気釜の亀裂を通して製品に移行し、甘納豆の異臭原因となった。
概要:
平成15年(2003年)1月18日以降に製造された甘納豆を食べたところ、“カルキ臭、消毒臭がする。”、“いつもの製品と味が違う。”などの苦情が保健所によせられたため原因物質の解明を行った。分析の結果、異臭の原因物質はクロロフェノール類であることが判明した.また、保健所の調査により,製造用釜に微細な亀裂が確認された。さらに、製造ラインの蒸気配管補修工事が行われていたことがわかった。
これらの結果から、工事後の洗浄,乾燥が不十分だったため、蒸気配管用シール剤(フェノール含有)などからフェノール類が配管内に溶出し,蒸気中の残留塩素と反応してクロロフェノール類が生成され、これが製造用釜の亀裂を通して甘納豆を汚染したものと推定された。
原因究明:
GC/MSを用いて分析した結果、甘納豆、調味液、ボイラ-水、もどりタンク水から微量の2,4-ジクロロフェノール、2,6-ジクロロフェノール及び2,4,6-トリクロロフェノールが検出された。
また、4-アミノアンチピリン法により蒸気配管用シ-ル剤及び亜鉛メッキ補修用塗料を分析した結果、フェノール類が検出された。
診断:
地研の対応:
苦情品の甘納豆、調味液、ボイラ-水、もどりタンク水、ボイラ-用薬品等についてクロロフェノ-ル類の検査を実施した。また、蒸気配管補修工事に用いられた蒸気配管用シ
-ル剤及び亜鉛メッキ補修用塗料についてフェノール類を分析した。
行政の対応:
管轄の保健所により、立ち入り調査が実施され釜の亀裂が確認された。また、健康局食品医薬品安全部食品監視課と連携して、製造工程の管理に関し、細部にわたる指導が実施された。
地研間の連携:
神奈川県衛生研究所により、野菜中のクロロフェノール類の測定に精油定量器を用いた蒸留法が食品衛生学雑誌に報告されている。これを参考にし、試料からのクロロフェノール類の分離精製に用いたところ、GC/MSで特に妨害もなく分析できた。
国及び国研等との連携:
事例の教訓・反省:
亀裂の起きやすい材質のアルミ製釜を使用しているにもかかわらず、使用時における亀裂の点検が軽視されていた。また、閉鎖系でリサイクルして蒸気を使用していながら、蒸気配管工事後の製造ラインの洗浄が不十分であったため、配管内で生成された異臭物質の増加を招いた。
クロロフェノール類は、臭いを感ずる閾値が低いため微量でも異臭原因となる。本件では、蒸気釜の微細な亀裂から製品に移行した極微量のクロロフェノール類による異臭が原因であった。今後は、HACCPに基づき製造ラインの特性に則した管理マニュアルを作成し、厳格に運用してゆく必要がある。
現在の状況:
1. アルミ製蒸気釜をステンレス製にとりかえ、釜について外部の検査機関による月一回の立ち入り検査及び衛生管理指導をうけている。
2. 工程別清掃作業マニュアル及び危機管理マニュアルを作成。また、製造工程マニュアルを見直し、釜の亀裂テストの実施を加えるなど内容を充実させた。
今後の課題:
被害の拡大と再発を防止するために、苦情食品の原因究明は迅速かつ正確に行うことが求められる。苦情食品の試験検査には、分析データや情報の蓄積が不可欠である。今後、行政機関と検査機関あるいは検査機関相互の情報交換をさらに密にする必要がある。
問題点:
関連資料:
1)飯田勝彦,渡辺重信,池田陽男,他:食衛誌,19,372-377,1978
2)月岡忠:食衛誌,44,J9-J11,2003
3)深谷哲也,石黒幸雄,横山理明,他:日本食品工業学会誌,40,244-249,1993