[ 詳細報告 ]
分野名:ウィルス性感染症
登録日:2016/03/11
最終更新日:2016/05/27
衛研名:愛媛県立衛生環境研究所
発生地域:愛媛県内東部地域を中心として県内全域
事例発生日:2002年10月
事例終息日:2003年7月
発生規模:
患者被害報告数:麻疹患者総数342名,その内成人麻疹患者数119名
死亡者数:
原因物質:麻疹ウイルスH1型
キーワード:人麻疹、麻疹ウイルスH1型、N遺伝子、ワクチン接種、ワクチン効果不全
背景:
麻疹は、1978年に定期予防接種が開始されて以来、全国的に患者数・死亡者数は著しく減少しており、県内での患者発生も1996年の比較的大きい流行(患者数1,316人)のあとは、1999年の7人にまで減少していた。しかし2000、2001年には、全国的に増加傾向に転じたと同様に、県内患者数はそれぞれ134人、161人に微増したが、1999年に報告が開始された基幹病院定点からの成人麻疹患者の報告は見られなかった。2001年隣県の高知県での流行は、小児科定点あたり麻疹患者数20.0以上、基幹病院定点あたり4.0以上を示し、大きい流行であったが、当県への流行の波及はなかった。
概要:
2002年10月から2003年7月にかけて、成人麻疹の流行があった。流行期間中麻疹患者数報告について、通常の感染症発生動向調査に加えて全数把握調査を行った結果、成人麻疹119人、成人以外の麻疹患者223人が報告され、成人麻疹に端を発し、小児への流行拡大が確認された。患者のウイルス検索により原因ウイルスは、1997~2001年の中国、韓国での流行株であるH1型であった。H1型を原因とした成人麻疹の地域的流行としては、国内で初めての事例であった。ウイルス検索と同時に実施した血清学的検査結果から、ワクチン接種歴の明確な症例において、成人麻疹・小児の麻疹双方に、一次性および二次性ワクチン効果不全例が確認された。
原因究明:
1996年流行以降は麻疹患者数が少なく、麻疹ウイルスへの感受性者が徐々に蓄積されていたところに、県外からそれまでなかった麻疹ウイルスH1型が成人によって持ち込まれて拡大し、小児層も含めての流行に至ったと考えられた。
診断:
地研の対応:
2002年11月21日に開催された地元医師会、関係保健所等による緊急の対策連絡会議に出席し、流行の拡大防止のための当面の対策、疫学調査の実施等について提言するなど、当初から関わった。患者からの臨床検体について、ウイルス検索および血清学的検査を全面的に実施した。また当所の感染症情報センターで全数把握調査の結果を週毎に集計分析し、関係機関に提供するとともに、愛媛県感染症情報、愛媛県感染症情報センターホームページ上に公開するなど、積極的な情報提供を行った。
行政の対応:
上記の対策連絡会議を主催し、有症者の早期受診、成人の任意予防接種および小児の定期予防接種の勧奨、疫学調査の実施等を推進した。2003年1月7日には、保健所・市町村の担当者や教育機関の養護教諭等を対象とした麻疹予防対策研修会を実施し、麻疹対策の徹底を図った。
地研間の連携:
国及び国研等との連携:
麻疹ウイルスの遺伝子解析を群馬県衛生環境研究所と国立感染症研究所に依頼した。また血清学的検査のうちIgG抗体検査を国立感染症研究所に依頼した。麻疹予防対策研修会では、感染研感染症情報センター長に講演を依頼した。
事例の教訓・反省:
現在の状況:
患者発生がほとんどなく、流行がほぼ終息したと考えられた2003年7月に、全数把握調査から通常の調査体制に戻したが、その後患者数の増加は見られていない。
今後の課題:
医療機関からの報告方法による患者把握率を検討すると、小児科定点による麻疹の把握は35.0%であった一方で、基幹定点による成人麻疹は11.8%に止まった。今回の成人麻疹の流行も定点把握による探知ではなく、それ以外の医療機関からの情報提供によって判明した。基幹定点は二次医療圏に1ヶ所しかなく、局地的な流行や定点がない地域での流行は見逃され、対応が遅れる可能性が高いことから、平素から医療機関との情報交換に努めるとともに、定点数の拡大等調査体制の強化が必要である。また、患者年齢分布から10歳代、20歳代での免疫度の低下が考えられるので、今後の予防接種施策に資するためにも、県内の年齢別抗体保有状況調査によりその実態を明らかにする必要があると思われる。
問題点:
関連資料:
1)吉田紀美ほか:病原微生物検出情報,Vol.24,No.1(2003)
2)近藤玲子ほか:第44回日本臨床ウイルス学会プログラム抄録集,鹿児島市(2003)
3)竹内潤子ほか:四国公衆衛生学雑誌,Vol.49,No.1(2004)