No.1085 レジン廃液流出事故による水道水の断水

[ 詳細報告 ]
分野名:その他
登録日:2016/03/11
最終更新日:2016/05/27
衛研名:山口県環境保健研究センター
発生地域:山口県美祢市~厚狭郡山陽町
事例発生日:2002年12月6日
事例終息日:
発生規模:
患者被害報告数:
死亡者数:0名
原因物質:フェノールを含む廃液(レジン合成廃液)
キーワード:フェノール流出事故、水道断水、給水、自衛隊出動

背景:
1) フェノールの規制関係
水道法水質基準:0.005mg/l(臭気の観点から制定)
工場排水基準 :5mg/l(県公害防止条例)
2) 当該工場は、廃棄物の処理及び清掃に関する法律の規定に基づく産業廃棄物処理業の許可等有

概要:
12月6日早朝、美祢市Iセメント工場において、産業廃棄物として関連会社から受け入れたフェノールを含む廃液〔レジン合成廃液(廃酸)〕が、送液の配管から漏洩し、排水口を経由して河川へ流出した。
廃液 :セメントキルンで焼却処分するために受け入れている。
漏洩量 :約7m3で、このうち約2m3が河川に流出したと推定
廃液の成分:水分 約94%、その他(フェノール、ホルマリン、メタノール等4物質)6%
このため
・多数の魚がへい死した。
・流出した河川の下流(工場排水口から約22㎞)に山陽町浄水場の取水口があり、ゆっくりと流下した廃液が取水口付近を通過する時点で、原水のフェノール濃度が水道水の水質基準を大きく超えるおそれがあったことから、フェノール濃度が減少するまでの約30時間取水を停止し、その結果、山陽町全域(約7,700世帯)において約1日間断水した。断水期間中、近隣水道事業体(15)及び自衛隊が給水車で給水した。また、12月10日は小中学校8校は臨時休校となった。

原因究明:
配管からの漏れは、フランジ部パッキンの仕様書の見落としであることが報告されている。
河川の水質及び臭気の調査より、流出した廃液は、あまり拡散せずに、水道水質基準を上回る濃度の帯状の水塊がゆっくりと流下し、ほぼ3日後に浄水場取水口付近に到達したことが判明した。

診断:

地研の対応:
行政部局からの要請に基づき、工場排水、河川水の分析を担当し、河川の汚染状況の推移の把握、工場指導の根拠、取水再開のための水質に係る判断材料等を提供した。

行政の対応:
1.県の対応
(1)工場への指導及び河川等の調査
12月6日9時20分、工場から宇部健康福祉センターへ通報があり、10時30分、工場への立ち入り調査、河川等の環境調査等を実施。工場に対し、廃液の流出防止や回収等を指示するとともに、工場排水、河川水(4カ所)を採水し検査を実施
検査結果工場排水:19.8mg/l河川水:ND~1.47mg/l
12月7日改善勧告を行い、事故状況報告書及び改善計画書の提出を指示するとともに、調査地点を増やして、水道水の安全が確認された10日まで河川の水質調査を継続
12月12日付けで提出された改善計画書をもとに改善状況等を確認
12月28日再開された排水口の排出水を検査し、基準に適合していることを確認
1月9日 行政処分(産業廃棄物処理施設の使用停止命令 30日間)

(2)水道事業管理者(山陽町長)への支援
12月6日 応援給水の要請方法等について指導するとともに、水質検査結果の提供、技術指導等
12月7日 山陽町が設置した「フェノール流出事故対策本部」へ職員を派遣し、業務支援

2.山陽町等の対応
12月6日 9時27分頃、美祢市及び工場から山陽町へ通報町水道課では、関係機関への連絡を取る一方、河川の臭気等の異常調査、廃液の流出状況調査を開始し、河川上流部が廃液で汚染されていることを確認17時30分「フェノール流出事故対策本部」を設置するとともに、緊急の河川水質調査を実施~10日の安全確認まで継続。水質調査の結果、流下速度が非常にゆっくりしていることから、浄水場取水口付近へのフェノールの到達は時間がかかると判断。また、断水時の対策等を検討
12月8日 6時過ぎ、各市町の水道局へ給水応援を要請
11時過ぎ、厚狭川に活性炭等の投入
15時、取水口においてフェノールの水道水質基準を超えるおそれがあるため、水道原水としての取水を停止。有線放送等により、住民への節水を呼びかけ。取水停止直後から派遣応援15団体の給水車が浄水場への補水作業をピストン輸送で実施
12月9日 町内各所で断水が始まり、町内全域で給水車による給水を開始昼前頃から、汚染水を早く下流に流すため、取水口上流2㎞にある堰の水門開放、上流部にある県営ダムの放流等を数回にわたり実施
12時25分 町長から県知事に対し、自衛隊派遣を要請し、県知事は直ちに自衛隊の派遣を要請。午後から自衛隊給水車による給水を開始10日は小中学校8校は臨時休校とすることを決定
21時 取水開始(19時30分の分析数値が0.009mg/lとなり、活性炭処理で基準値以下に出来ると判断)
12月10日4時40分 処理水の水質検査の結果全て基準値未満であり、安全を確認できたこ
とから、送水を開始(フェノール水塊は通り過ぎ、瀬戸内海へ流出)15時 対策本部解散

地研間の連携:
特になし

国及び国研等との連携:
特になし

事例の教訓・反省:
事故発生当初の分析において、分析結果を出すのに相当手間取った。情報の交換を十分行って関係者が状況をきちんと把握し、必要な分析のみを優先的にかつ迅速に実施する必要がある。
備考 手間取った理由
・ 分析機器の能力に比し、求められた分析試料数が多かったこと
・ 流出廃液の状況が不明で、今後の挙動、環境への影響等の予測も困難なため、環境関係法令で公定法のない物質を含め、流出した4物質の分析を並行して実施したこと
・ フェノールについては、通常の業務では、工場排水のみを分析していたが、試料の濃度レベルが全く不明な中、工場排水と河川水(水道水質基準を適用)について、同時に、法定の分析(工場排水と水道水では基準値が3桁異なる)が求められたこと

現在の状況:
突起事項無し

今後の課題:
正確な情報の伝達
危機管理体制の強化
緊急時における給水場所の確保及び住民への周知(水道事業者)

問題点:

関連資料: