No.1103 仕出し弁当が原因と考えられたA群溶血性レンサ球菌集団感染事例(千葉県)

[ 詳細報告 ]
分野名:細菌性感染症
登録日:2016/03/11
最終更新日:2016/05/27
衛研名:千葉県衛生研究所
発生地域:千葉県船橋市
事例発生日:2003年9月9月
事例終息日:
発生規模:67名
患者被害報告数:
死亡者数:
原因物質:A群溶血性レンサ球菌
キーワード:A群溶血性レンサ球菌、上気道感染症様症状、食中毒、パルスフィールド・ゲル電気泳動

背景:
食品を媒介としたA群溶血性レンサ球菌感染症は、患者の多くが上気道炎症状であるため、直ちに食中毒と診断されることは困難である。そのため保健所の対策が遅れ、原因食品の特定等が困難である。

概要:
2003年9月14日、船橋市保健所管内の斎場で行われた葬儀出席者のなかに、発熱、倦怠感、咽頭痛、関節痛等上気道感染症様症状を呈する者が複数認められたとの通報があった。保健所が調査を行った結果、1)同斎場で9日に通夜,10日に告別式を行ったA家葬儀出席者34名中24名(70.6%)が11日から12日にかけて発症している。2)医療機関を受診した発症者は,溶血性レンサ球菌による咽頭炎と診断された。3)C寿司店の仕出し弁当を利用していた。4)C寿司店では、事件の数日前から発熱、咽頭痛などの症状を呈する従業員がいたことが明らかとなった。さらに別の葬儀場で9~10日に行われたB家葬儀出席者がC寿司店の仕出し弁当を喫食し、16名中10名(62.5%)が同様の症状を呈していることが判明した。
A家が葬儀を行った斎場では当日4件葬儀が行われたが,他の3件はA家と異なる飲食店を利用しており,患者発生は認められなかった。またA家とB家葬儀出席者はC寿司店弁当以外に関連が無かった。患者の大部分は喫食後1~2日間に発症していた。その後の調査で同店弁当を喫食した合計7グループ120名中67名(55.8%)が発症していた。

原因究明:
A家、B家関係患者を含む患者67人の主要症状は、咽頭痛56人(83.6%)、発熱54人(80.6%)で、倦怠感37人(55.2%)、頭痛18人(26.9%)等であった。弁当喫食後発症するまでの時間は、24時間以内15人(22.4%)、24~48時間42人(62.7%)、48時間以上6人(8.9%)、不明4人(6.0%)であった。A家関係患者7名について検査を行ったが、抗生剤投与後の検体であり、菌を分離することはできなかった。B家関係患者3名中2名、C寿司店従業員の有症状者7名中7名、無症状者10名中4名からA群溶血性レンサ球菌が分離された。さらに、東京都在住のA家関係患者由来株3株および群馬県在住のB家関係者由来株3株は各自治体から分与を受けた。A家関係患者由来3株、B家関係患者由来5株、C店有症状従業員由来7株、C店無症状従業員由来4株について細菌学的検討を行った結果、19株はすべてA群溶血性レンサ球菌、T型B3264、spe B遺伝子単独保有株であった。制限酵素Sma IおよびSfi Iによるパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)パターンはすべて一致した。C寿司店において複数の従業員からA群溶血性レンサ球菌が分離されたことおよび咽頭痛等症状を呈する者が多かったことから、従業員間で本菌による咽頭炎流行があったと考えられた。分離された菌株はすべてPFGE泳動パターンが患者由来株と一致したため、食中毒の原因は従業員の健康管理不徹底のため生じた食品への2次汚染であることが推測された。

診断:

地研の対応:
A家,B家葬儀関係患者咽頭拭い液、うがい液およびC寿司店従業員咽頭拭い液についてA群溶血性レンサ球菌検索を行った。患者が喫食した食品残品、参考品等はなく食品の検査は実施できなかった。検査材料をヒツジ血液寒天培地とA群溶血性レンサ球菌選択ヒツジ血液寒天培地に接種して,発育したβ溶血集落についてラテックス凝集法による群別、アピストレップ同定試験、T型別を実施した。発赤毒素遺伝子spe A,spe B,spe Cの保有状況をPCRにより検査した。またパルスフィールド・ゲル電気泳動によるDNA型別を実施した。

行政の対応:
同寿司店を原因施設とした食中毒と断定し2日間の営業停止処分とした。

地研間の連携:
東京都在住のA家関係患者由来株3株および群馬県在住のB家関係者由来株3株をそれぞれ東京都健康安全研究センターおよび群馬県環境研究所から分与を受けた。

国及び国研等との連携:
特になし

事例の教訓・反省:
本事例は残品が無いため食品の検査が不可能であったが、疫学調査、従業員の咽頭ぬぐい液からの菌分離および患者由来株とのPFGE解析により感染経路の推定が可能となった。

現在の状況:
保健所職員に対して、上気道感染症様症状を初発症状とする集団事例において食品との関連性も念頭において調査を行うことの周知をはかっている。

今後の課題:
食中毒予防の指導として食品の取扱い、調理器具の用途別区分け、消毒の徹底、施設の清掃等衛生教育に加え、従業員の健康管理についての啓蒙が必要である。

問題点:

関連資料:
1) 池田嘉子,他:弁当が原因と考えられるA群溶血レンサ球菌の集団感染.病原微生物検出情報,18:264,1997
2) 奥山雄介:食品によるA群T12型溶血性連鎖球菌咽頭炎集団発生の疫学的研究.感染症学雑誌,56:1173~1185,1982
3) 柏木義勝,他:サンドイッチが原因と推定されたA群レンサ球菌咽頭炎の集団発生.感染症学雑誌,60:673~685,1986